バンコクトライアングル――恋の逃避行――

まゆり

文字の大きさ
4 / 15

4

しおりを挟む
ムエタイも、オカマバーも夜のものなので、なかちゃんとあたしは、暁の寺と呼ばれるワット・アルンに行くことにした。
 タクシーで船着場まで行って、渡し舟で対岸に渡り、ところどころに屋台のようなものが出ている参道を抜けると、やっとお寺の塔の上り口に着いた。

 階段は果てしなく続いている。
 体力には自信がある。
 クラブで徹夜、なんて、へでもない。
 でも日本に帰ってからは夜遊びもできなくなって体はなまりがちだった。
 たちまち息が切れて、足を止める。
 うっかり下を見たら、立ちくらみをおこしそうになった。
 つかまるところを探したけれど、なにもない。あたしは、高いところが苦手だ。

「ちょっと……なんで手すりとかついてないのよ」

 その上、階段の幅は狭く、微妙に傾斜がついている。

「美観を損なうからでしょう」

 仲ちゃんが涼しい顔で言う。
 ちょっと、美観ってなによ。
 こわいよ、こわいんだってば。

「やだもう、これ以上上れない。降りようよ」
「月子さん、もしかしたら怖いんですか?」
「こ、こわくなんかないわよ」

 なかちゃんがあたしの手を取る。
 よゆーの微笑み。

「だいじょうぶですよ」

 脚が震えてきたけれど、なかちゃんに手を引かれて、なんとか一番上まで上がることができた。
 バンコクの市内が一望できて、なかなかいい眺め。

 ふと、寺院のふもとを見ると、黒い服にサングラスの日本人の男があたしたちを見上げている。

 まずい。
 まさかバンコクまで追いかけられるとは思っていなかった。
 やばい。
 どうするか?
 とりあえず、逃げる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

処理中です...