バンコクトライアングル――恋の逃避行――

まゆり

文字の大きさ
8 / 15

8

しおりを挟む
海老のペーストを塗ってカリカリに焼いたトーストと、シンハービールで乾杯し、さつま揚げみたいなすり身の揚げ物、辛くて酸っぱいトムヤムクン、魚醤とトウガラシで味付けされた青パパイヤと沢蟹のサラダ、それから、グリーンカレーなどを注文した。
 腹ごしらえを済ませたら、ショーをやっているオカマバーへGOという計画だ。

「月子さん、明日はどうしていらっしゃいますか?」

 一日中いっしょにいたのに、相変わらず馬鹿丁寧な言い方で、なかちゃんが聞く。

「明日? まだ考えてない」

 バンコクの見所はまだ、エメラルド寺院とか水上マーケットとか、いろいろ残っている。

「パタヤに行ってみようと思っているんですが、いっしょに行きませんか?」

 シンヤは数日間、帰ってこないと言っていた。

「うーん、そうしようかな」
「そうしましょう。ひとりで行ってもつまらないし」

 揚げたてのさつま揚げが運ばれてきた。

 オカマバーでは、どこが男なのかまったくわからないきれいなお姉さんたちのショーを見た。
 横でいちいち感激のため息を漏らすなかちゃんがかわいらしいような、うっとおしいような。

 カオサンの入り口でタクシーを待たせ、なかちゃんに宿の前まで送ってもらった。
 別れ際に、なかちゃんに、
「月子さんが無事に部屋に戻るまで、ここでお待ちしております」
 と言われて、ちょっとだけ感動した。

「わかった。じゃあ窓開けて手を振るね」

 狭くて暗い階段を上がり、受付でキーを受け取り、あたしの部屋のドアノブに鍵を差し込む。
 開けたはずなのに、閉まってしまい、変だなあと思ってまた開けた。

「!」

 部屋がめちゃくちゃに荒らされている。
 慌てて窓を開け、なかちゃんに助けを求める。

 貴重品は持ち歩いていたので、被害はない。
 荷物は散らばってはいたけれど、服は動きやすい普段着しか持ってきていないし、ブランド物のボストンバッグも無事だった。
 なくなったものは、今朝シンヤから預かったお茶だけだった。

「なかちゃん、出かけている間に、ど、泥棒に入られちゃった」
「あの、何を取られましたか?」
「それが……シンヤって人から預かったお茶だけが失くなってるの」
「他になくなったものは?」

 なかちゃんは思いのほか冷静だった。

「それだけ」
「とりあえず、宿は変えたほうがよさそうですね。インターコンチネンタルに戻りましょう。満室ってことはないと思いますし」

 たしかに、泥棒に忍び込まれた部屋にひとりで泊まりたくない。

「人から預かったものを失くしちゃったって、なんか責任重大」
「それは不可抗力です。泥棒に入られるなんて予測できません」

 でも、一応シンヤに連絡しておいたほうがいいだろうと思って、受付から電話をかけ、事情を説明した。
 シンヤはまだチェンマイにいるようだった。

「なんだって? クソ、とぼけやがってこのアマ、ちょろまかそうたってそうは行かないぜ。とっととあのお茶を返しやがれ」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

処理中です...