国助く禍津剣

dada

文字の大きさ
2 / 25

しおりを挟む
 また所変わって先程の森の中、氷が砕けてから時は過ぎ、もう朝が近い。洞窟の外も明るくなりつつある。洞窟の少年は先程から覚醒している。自分の今の状態も何となく分かる。
 驚くべきことに、彼は十年間の記憶があった。氷の中でただひたすら十年、思案していた。今の自分、これからの自分、氷がいつか溶けるのは何となく分かっていた。氷が溶けたあとの己の行動、全て考えていた。
 いざ氷が溶けると、這いずるように洞窟を出た。洞窟の入り口には、誰かの墓がある。名前を見なくても彼には誰の墓か分かった。近くに咲いている花を摘み、適当に束ね供える。座った彼は静かにその墓を見詰め、何事か考えているようであったが、やがて立ち上がり、朝靄の中、森の出口に向かって歩いた。この森は知っている。ここがどこだか分かる。
 歩きは少しずつ走りに変わり、やがて疾走になった。体の調子が戻ってきたようだ。だがとても人間の走りとは思えない。この森の奥地は人の手で整備されていないので、切り立った岩や、生い茂る植物の枝、つまり障害物だらけである。ただ歩くだけでも難儀な場所で、彼は風のように走っていた。
 時々邪魔な物は腰の短刀で薙ぎ払う。彼が短刀を振るうと、木々は一瞬で裂け、岩は砕け散る。明らかに普通ではない動作だが、当たり前のように淡々と行いながら、森の出口へと向かう。
 そうこうするうちに、森の入り口付近まで近づいたところで、何やら気配を感じた。木ノ上に登り、遠目からその様子をうかがうことにする。そこでは争いが起きているようであった。
 「無礼者!このまま引き下がるなら追いません。怪我をしないうちに下がりなさい。」
 騎士風の女?だろうか、背中にもう一人庇っているようだ。対峙するは大柄の男が三人だ。
 「ふへへっ、最初から道案内だけが目的じゃねえのよ。あんたらは相当な金持ちだって聞いてるからな。身代金がたんまり手に入る。」
 一人の男が騎士に言った。身なりは木こりか、そこらの村人のようだが、どうやら野盗だったらしい。三人其々手には斧やナイフを構え、騎士ににじり寄る。
 (まあ、あれぐらいなら大丈夫だろう。)
 木の上から見ていた少年はそう思って、手を出さずにいた。案の定、次の瞬間に三人の男は皆腕から血を長し、地面に這いつくばっている。恐るべき剣速であった、剣を抜いた後は一瞬だ。あの女騎士、かなりの腕前だと少年も思う。彼はよく知らないが、恐らく何かの剣の流派の使い手だろう。その見た目は二十歳ぐらいであろうか。赤毛の髪に整った美しい顔立ち、そして女性にしてはかなり背が高いようだ。その立ち居振舞いだけで一流の剣術を体得している者だとわかる。
 じゃあ、もういいかなとその場を去ろうとして、もう一つ、いや二つの気配に気づいた。
 「やはり、お前らのようなくずどもに任せても無駄であったか。」
 少し離れたところで、よくとおる男の声がした。次の瞬間、女騎士達と男達のいる場所に大きな物が急降下してくる。
 強風と共に甲高い、何か固いものを弾く音がする。
 「・・・・あ、貴方は、誰ですか?」
 突如として目の前に現れた少年に騎士は目を丸くする。
 「・・・・ちょっと通りすがりの者ですが。」
 少年は口を開いた。彼の手には短刀が握られ、今しがた急降下して爪で襲ってきたものへと向けられている。その爪は彼が防がなかったら、その場にいた者達を引き裂いていたであろう力が込められていた。
 「あれは・・・・・グリフォン!何でこんな所にっ・・・。」
 彼女の口から驚愕の声が上がる。
 彼等の目の前には、巨大な幻獣グリフォンがいた。それは今しがた襲いかかった後、騎士は仕留め損ねたが、野盗の男三人は無事その爪にかけ、今一人目を呑み込んでいる。魔獣のくせに頭が良く、男達をたいらげながらも、その目は油断なく騎士達を見ている。
 野盗の男は最初の一撃で皆昏倒か絶命し、今は既にグリフォンの腹の中だ。
 「でかいな。」
 思わず少年は呟いた。グリフォンというのはかなりの高所に住んでいて、滅多に人前には姿を表さない。それに大型のものでも約馬三等分ぐらいの大きさのはず。
 だが目の前のものはとにかく大きかった。胴体の後部にあたる雄々しき獅子の後ろ足は、力強く大地を踏み締め、その大きさは巨大な幹のようだ。上部は猛禽類の様相をしている。その巨大な鋭い爪が振るえられれば、王国の騎士の甲冑など一撃でひしゃげてしまうだろう。そして大鷲の頭は今もなお、騎士達を獲物と定め飛び掛かる機会を窺っている。巨大な嘴は、人間を一呑みにする。翼もまたでかい、広げれば二十メートル以上は在るだろう。並のものより数倍の大きさの魔獣であった。
 「あの、こっちはやりますので何処かに隠れてください。恐らく敵がもう一人隠れているようです。気を付けて」
 それだけ言うと、少年はグリフォンに向かって駆けて行った。
 一瞬ポカンとしてしまう女騎士。後ろに庇っていた少女が騎士のマントを引っ張った。
 「あれは一人じゃ手に負えない。誰かは分からないけど、私はいいから、加勢してあげて。」
 後ろの少女は強く騎士に願った。騎士は旬順したが、直ぐに少女の言に頷き、少年の元へと駆けて行った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...