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女騎士が加勢に向かった少年とグリフォンの戦いの現場は騒然となっていた。
「くっ、風の魔法!?」
高位の魔物は低級の精霊を従わせることができる。グリフォンが繰り出すかまいたちを剣で何とか捌きながら、女騎士は少年の元へ近付いた。彼等の周りは危険な暴風域になっている。
「あれっ、こっちはいいですよ。貴方のお連れさんを護ってください。」
何でもないように、その風の刃を身を捩りながらかわし、女騎士に声をかける少年。その様を見てやや非常識な男だと思いながらも、
「そうはいかない!こんな魔物、貴殿だけでは無理だ。私も協力するから二人で撃退しよう!」
風の刃を剣で防ぎつつ、女騎士が少年の傍らに来た。
「・・・まあ、その方が早いか。わかりました、よろしくお願いします。」
グリフォンの翼がけたたましく羽ばたいている。その度に下位精霊が反応して無数の風の刃が少年と女騎士に襲いかかる。既に辺り一帯は斬り倒された木々が無惨になぎ倒されているが、少年はスラリスラリと刃を避けながら、彼女に聞いた。
「何か目眩ましのような魔法はありますか?なければ動きを止めるようなものでも構いません。」
対する女騎士は身体能力向上の魔法を使いながら、防御力を上げる魔法を同時に使い、剣で刃を防ぐ。
「くっ、熱を利用した魔法がある。太陽を上手く使えば、目眩ましにはなるかと思うが。」
何とか自分に降り注ぐ刃を切り防ぎながら、彼女は答えた。
「でも、今使っている魔法を止めなくてはならん、私の防御が持たない。」
険しい表情で彼女は悔しそうに言った。今使っている魔法のどちらか一つでも解除すれば、たちまち彼女は回りの大木のように切り刻まれてしまうだろう。このままではじり貧だ。
「あ、それなら、僕が魔法が発動するまで防ぎますから、目眩ましの方お願いします。」
そんなことを言って、少年は女騎士の眼前に躍り出た。そして腰に指してあった二本の短刀を両手に握ると、不思議なことが起こった。
先程まで無数に襲い掛かってきたかまいたちがすっかりと止んだのである。
いや、風切り音と振動は絶え間なく続いているので、攻撃はまだされているらしいのだが、少年の眼前だけ何もない空間のようになっている。恐らく、剣で防いでいるのだと思うが、彼女には全くその剣が見えない。彼の背中越しだから見えないのではないと思う。これこそ神速の域の剣技だと彼女は息を呑んだ。はっと我に返り、今の魔法をキャンセルして、閃光魔法を練り上げる。約二分ほど集中して、
「準備出来たぞ!放つ!」
「お願いします。」
魔力の消耗が激しく気力を振り絞るような彼女の声に対して、全く最初と変わらない彼の抑揚の声が答える。(こいつ・・・あんなに剣を振って疲れはないのか。)
一瞬あきれかけて、気を取り直して魔法を放った。彼女の手から放たれた光球は、真っ直ぐにグリフォンの直上に飛んでいって、一呼吸置いたら、次はグリフォンの目の前に落ちてきてはぜた。太陽の光を利用したという魔法は、一瞬で辺り一面を照らし出す。それを受けたグリフォンは何事かという奇声をあげて、よろめいた。先程までのけたたましい風の魔法は止んでいる。その隙に少年は、グリフォンの懐まであっという間に詰め寄った。その後は一瞬であった。何が起きたのか女騎士にも良くわからなかった。眩しくて見えなかったとかではない。グリフォンの懐に飛び込んだ少年が振り返ると、魔獣はバラバラと鮮血を吹き出しながら崩れていった。
「え?え、なにが・・・奴が斬ったのか?」
自分に問いかけるような女騎士。
「こっちは終わりです。もう一人敵がいたような気がしたんですけど、・・・そっちはもう逃げてるみたいですね。」
そう言いながら女騎士に向かって歩いていく少年。そこに先程まで女騎士が後ろ手に庇っていた少女も駆け寄ってきた。
「ディアナ!大丈夫?怪我はない?」
心配そうに女騎士に駆け寄る少女。どうやら女騎士はディアナという名前らしい。
「姫様、貴女様こそお怪我はありませんか?」
駆け寄ってくる少女を逆に心配するディアナ。姫様と言われた少女は、ローブを纏いフードを深めに被っているので顔はよくわからない。彼女等はお互いの安全を確認すると、少年の方へ歩いてきた。
「危ないところを助けていただき、感謝いたします。何かお礼を致したいのですが。」
フードの少女は深く頭を下げて礼を言った。対する少年は、
「いや、たまたま通りかかっただけですので、気にしないで下さい。もう自分は行きますので。」
と言って、愛想なくさっさと出発しようとした少年だが、
「あっ!もし宜しければ、この森の道を教えていただきたいのですが、お願いできませんか?」
直ぐに去ろうとする少年を少女が慌てて引き留めた。
「・・・はあ、道ですか。でもこんな森の中でどちらに行きたいんですか?出口はこの道を川沿いに真っ直ぐ行ったところですよ。」
そもそもこんな王国の端にある、何もない森の中で、どこにいこうというのか?
「いえ出口ではなく、この先の洞窟にあるお墓に行きたいのです。」
少女は言った。この先の洞窟というのは先程少年が出てきたもの一つしかなく、お墓もそれしかないと思う。
「・・・墓。こんなとこまで墓参りですか?」
少年の雰囲気が少し変わる。この二人の事をいぶかしんでいた。
聡くそれに気付いた少女は慌てて答えた。
「あ、申し遅れました。私、この国の第一王女のセイラと申します。」
と言って、フードとローブを脱いだ。
たちまち、一度見たら決して忘れることはないだろうという美少女が現れた。艶やかに長いブロンドの髪、宝石のような緑色の瞳、小さく整った顔。ほっそりとしているが、女性らしく成長しつつある少女の肢体。絶世の美女というよりやはり絶世の美少女という言葉がよく似合う。そして何よりその身に纏うオーラが普通とは違う。見た目の話ではない。その生命力の波動が普通の人間よりはっきりしていて強く、大きい、凛とした気配を感じる。
少年は、魔術の心得も人並み以上にあるので、一目でその違いを感じる。
(ん?王女?・・・あ!いたなそんなの。えらい大きくなってたから分からんかった。)
実は彼は十年前にこの少女に会ったことがある。あの頃より成長していたので気付かなかったのだが、
「そのローブ、認識阻害ですか?」
少女が脱いだローブを指差す少年。このローブを来ている状態では、この少女のオーラにも気付かなかった。いつもは、見ただけで他人のオーラがすぐにわかるのだが。
「ええ、これは国宝でして、完璧な認識阻害の魔法がかけてあるんです。その気になれば姿を消すことも可能だとか。」
ニコッと微笑んで話す少女。名前はセイラというらしい。彼はセイラに会ったことを覚えているが、彼女は十年も前だったから、覚えていないのだろう。恐らく、十年前は五、六歳位ではなかったろうか。
「それで、あの、もしお分かりでしたら、この先の洞窟までの道を教えていただけますか?」
厚かましいと自分で思っているのかもしれない、申し訳なさそうにセイラは少年に願った。
(多分悪い人間ではないと思うが、今さっき賊に襲われたのに、まだこの先に進むのか?)
「先程も賊に襲われたようですし、今日は止めて、日を改めてもっと警備を増やしてから向かってはいかがですか?」
あたりさわらないように少年が提案する。
「いえ、お城を抜け出すことなど、そう何度もは出来ません。それに本日中にお墓に供養をしたいのです。」
強い眼を宿してセイラは言葉をはなち、
「今日が命日ですから。」
寂しそうに最後に付け加えた。
「・・・・はあ、」
少年は曖昧な返事をして、少し考えをめぐらせた。
このまま先にいかせていいのか?この森のかなり奥地に洞窟はあるので危険ではないか?傍らの女騎士はなかなかの手練れだとは思うが、この先にそれ以上の魔物や賊と遭遇しないとも限らない。
それがなくても素人の森での探索は危険が多い。このまま二人をいかせていいのか?自らへの問いは、最初に戻る。
そして渋々、不本意ではあるが、一つの結論を導きだした。
「あの、よろしければ、自分が付いて行きます。洞窟までの道程は知っていますが、かなり入りくんだ道で上手く説明できませんので。」
「え!本当ですか!助かります。是非そうしていただけると有り難いです。」
少年の突然の提案を速攻で受け入れるセイラ。一国のお姫様がこんなに簡単に他人を信用して大丈夫か?と少年は思った。だが傍らの女騎士はちがうようで、
「!?、姫様っ、今知り合った、得体の知れないものを近くに置くのは、反対です!」
その女騎士からの忠告。当然そう来ると思っていた少年にとっては別に腹も立たないが、当のお姫様には頭にきたらしい。
「ディアナ、この御方に失礼ですよ!この方は見ず知らずの私達を今さっき助けていただいたではありませんか。」
「それはたまたまでしょう!今は姫様の御身分も知っています。先程の奴等のように道案内と称して拐い、身代金を要求してくる可能性もあります。」
女騎士の言い分はもっともだ。自分でもちょっと無茶なこと言ってると自覚はあるが、断られても別に良いと思っている。ただこのまま二人を行かせて遭難されて魔物の餌食にでもなったら自らの心に躊躇いが残ると少年は思った。少年の使命にはその躊躇いが致命的な弱点になるような気がして、後ろめたさを覚えたくないという個人の思いから提案しただけだ。しかし、
「大丈夫、この御方は誠実で真っ直ぐな方だと精霊達が言っています。」
セイラはそんな事を言っていた。
「精霊視か。」
そんな少年の呟きを、女騎士は耳ざとく聞き付け、きっと睨み付けた。
本来の魔法は、自らの生命力である「オド」を、自然界に満ちる「マナ」に化合して行使される。そのマナが凝り固まって意思を持ったものを精霊と呼んでいる。精霊には格付けのようなものがあり、その自意識をはっきりと鮮明にしたものほど高位のものとされてきた。先程のグリフォンが操っていたのは意思の無い最も下位の精霊だ。高位の魔物は、この下位の精霊を操ることで様々な魔法を使用する。精霊は普通の人間には見ることができず、その存在を視認することが出来るものを、精霊使いと読んでいた。精霊使いはその希少ゆえ、各国でも最重要人物とされていることが多い。その用途も多岐にわたる。
「お前は何者だ、私はアルバート王国近衛騎士ディアナ・グラン。先程の貴殿の助力には感謝するが、先ずは名を聞かせてもらおう。」
鋭い視線で少年を睨み付けるディアナ。
「あー、自分はアキラと言います。」
緊張感の張り詰めているディアナとは対照的に、こっちは覇気の無い顔で自己紹介するアキラ。
「貴殿は何故この様なところに居合わせたのだ?」
ディアナはアキラを先程の賊の仲間ではないかと疑っているらしい。確かに彼は絶妙なタイミングで登場した。まあ、その前から様子を窺っていたからだが。
「この森には時々狩りに来るんです。その関係で気配の察知に敏感になりまして、お二人を見つけた次第です。」
一応さわりないと思ってでまかせをいってみる。信じるかは微妙だが。
「あと貴殿はどちらの生まれだ?この国の人間ではあるまい。」
ディアナのこの問いは、当然のものであった。というのもアキラの外見が、アルバート王国では大変珍しい色彩によるものだからだ。
背格好は百七十センチくらい。歳は十五、六ぐらいであろうか。髪は短めでその色は漆黒、肌の色は白色系、顔は整っているが繊細な印象はまるで受けない。瞳の色も漆黒、引き締まった体に筋肉が隆起していて、かなり鍛え込まれているのがわかる。動きやすそうな装束だがその素材から、特殊な布で作られた防御性の高い服だ。腰には二本の短刀を左右に挿していて、ベルトには様々な付属物?が装備されている。投げナイフらしきものも幾つもショルダー式の別のベルトに挿している。探検家と言うには探索の装備が少なくて、猟師というには狩猟の装備も少ない。明らかに戦闘寄り、怪しいと思うのは当然だ。そしてこの国の人間はその多くが髪の色は金か茶色、肌は白い者が多い。たまに黒髪や赤髪もいるが、瞳は青、緑、茶色等だ。アキラの外見はどれにも当てはまらなくて、不審に思ったのだろう。
「ええ、自分はこの国の人間ではありません。何か問題ありますか?」
「あるに決まっているだろう!我が国の第一王女の身に何か有ってからでは遅いのだ!」
さっきだって十分危険な目に遭っていたじゃないか。ということは思ったが、アキラはそれは言わないでおいた。
「ディアナ、先程も申したでしょう。この御方は信用に足る方です。これは私の決定ですので反論は受け付けません。」
歳に似合わぬ凛とした態度でディアナに言い聞かすセイラ。主のこの強い眼には勇猛な近衛騎士も言い返せない。
「・・・わかりました。」
そうして三人で森の奥地にある洞窟に行くことになった。アキラにとっては今来た道を戻らなくてはいけないのだが、このまま二人で行かせて遭難されて何日かして骨で発見された、何て事になったら寝覚めが悪いので仕方ないという思いだった。
「くっ、風の魔法!?」
高位の魔物は低級の精霊を従わせることができる。グリフォンが繰り出すかまいたちを剣で何とか捌きながら、女騎士は少年の元へ近付いた。彼等の周りは危険な暴風域になっている。
「あれっ、こっちはいいですよ。貴方のお連れさんを護ってください。」
何でもないように、その風の刃を身を捩りながらかわし、女騎士に声をかける少年。その様を見てやや非常識な男だと思いながらも、
「そうはいかない!こんな魔物、貴殿だけでは無理だ。私も協力するから二人で撃退しよう!」
風の刃を剣で防ぎつつ、女騎士が少年の傍らに来た。
「・・・まあ、その方が早いか。わかりました、よろしくお願いします。」
グリフォンの翼がけたたましく羽ばたいている。その度に下位精霊が反応して無数の風の刃が少年と女騎士に襲いかかる。既に辺り一帯は斬り倒された木々が無惨になぎ倒されているが、少年はスラリスラリと刃を避けながら、彼女に聞いた。
「何か目眩ましのような魔法はありますか?なければ動きを止めるようなものでも構いません。」
対する女騎士は身体能力向上の魔法を使いながら、防御力を上げる魔法を同時に使い、剣で刃を防ぐ。
「くっ、熱を利用した魔法がある。太陽を上手く使えば、目眩ましにはなるかと思うが。」
何とか自分に降り注ぐ刃を切り防ぎながら、彼女は答えた。
「でも、今使っている魔法を止めなくてはならん、私の防御が持たない。」
険しい表情で彼女は悔しそうに言った。今使っている魔法のどちらか一つでも解除すれば、たちまち彼女は回りの大木のように切り刻まれてしまうだろう。このままではじり貧だ。
「あ、それなら、僕が魔法が発動するまで防ぎますから、目眩ましの方お願いします。」
そんなことを言って、少年は女騎士の眼前に躍り出た。そして腰に指してあった二本の短刀を両手に握ると、不思議なことが起こった。
先程まで無数に襲い掛かってきたかまいたちがすっかりと止んだのである。
いや、風切り音と振動は絶え間なく続いているので、攻撃はまだされているらしいのだが、少年の眼前だけ何もない空間のようになっている。恐らく、剣で防いでいるのだと思うが、彼女には全くその剣が見えない。彼の背中越しだから見えないのではないと思う。これこそ神速の域の剣技だと彼女は息を呑んだ。はっと我に返り、今の魔法をキャンセルして、閃光魔法を練り上げる。約二分ほど集中して、
「準備出来たぞ!放つ!」
「お願いします。」
魔力の消耗が激しく気力を振り絞るような彼女の声に対して、全く最初と変わらない彼の抑揚の声が答える。(こいつ・・・あんなに剣を振って疲れはないのか。)
一瞬あきれかけて、気を取り直して魔法を放った。彼女の手から放たれた光球は、真っ直ぐにグリフォンの直上に飛んでいって、一呼吸置いたら、次はグリフォンの目の前に落ちてきてはぜた。太陽の光を利用したという魔法は、一瞬で辺り一面を照らし出す。それを受けたグリフォンは何事かという奇声をあげて、よろめいた。先程までのけたたましい風の魔法は止んでいる。その隙に少年は、グリフォンの懐まであっという間に詰め寄った。その後は一瞬であった。何が起きたのか女騎士にも良くわからなかった。眩しくて見えなかったとかではない。グリフォンの懐に飛び込んだ少年が振り返ると、魔獣はバラバラと鮮血を吹き出しながら崩れていった。
「え?え、なにが・・・奴が斬ったのか?」
自分に問いかけるような女騎士。
「こっちは終わりです。もう一人敵がいたような気がしたんですけど、・・・そっちはもう逃げてるみたいですね。」
そう言いながら女騎士に向かって歩いていく少年。そこに先程まで女騎士が後ろ手に庇っていた少女も駆け寄ってきた。
「ディアナ!大丈夫?怪我はない?」
心配そうに女騎士に駆け寄る少女。どうやら女騎士はディアナという名前らしい。
「姫様、貴女様こそお怪我はありませんか?」
駆け寄ってくる少女を逆に心配するディアナ。姫様と言われた少女は、ローブを纏いフードを深めに被っているので顔はよくわからない。彼女等はお互いの安全を確認すると、少年の方へ歩いてきた。
「危ないところを助けていただき、感謝いたします。何かお礼を致したいのですが。」
フードの少女は深く頭を下げて礼を言った。対する少年は、
「いや、たまたま通りかかっただけですので、気にしないで下さい。もう自分は行きますので。」
と言って、愛想なくさっさと出発しようとした少年だが、
「あっ!もし宜しければ、この森の道を教えていただきたいのですが、お願いできませんか?」
直ぐに去ろうとする少年を少女が慌てて引き留めた。
「・・・はあ、道ですか。でもこんな森の中でどちらに行きたいんですか?出口はこの道を川沿いに真っ直ぐ行ったところですよ。」
そもそもこんな王国の端にある、何もない森の中で、どこにいこうというのか?
「いえ出口ではなく、この先の洞窟にあるお墓に行きたいのです。」
少女は言った。この先の洞窟というのは先程少年が出てきたもの一つしかなく、お墓もそれしかないと思う。
「・・・墓。こんなとこまで墓参りですか?」
少年の雰囲気が少し変わる。この二人の事をいぶかしんでいた。
聡くそれに気付いた少女は慌てて答えた。
「あ、申し遅れました。私、この国の第一王女のセイラと申します。」
と言って、フードとローブを脱いだ。
たちまち、一度見たら決して忘れることはないだろうという美少女が現れた。艶やかに長いブロンドの髪、宝石のような緑色の瞳、小さく整った顔。ほっそりとしているが、女性らしく成長しつつある少女の肢体。絶世の美女というよりやはり絶世の美少女という言葉がよく似合う。そして何よりその身に纏うオーラが普通とは違う。見た目の話ではない。その生命力の波動が普通の人間よりはっきりしていて強く、大きい、凛とした気配を感じる。
少年は、魔術の心得も人並み以上にあるので、一目でその違いを感じる。
(ん?王女?・・・あ!いたなそんなの。えらい大きくなってたから分からんかった。)
実は彼は十年前にこの少女に会ったことがある。あの頃より成長していたので気付かなかったのだが、
「そのローブ、認識阻害ですか?」
少女が脱いだローブを指差す少年。このローブを来ている状態では、この少女のオーラにも気付かなかった。いつもは、見ただけで他人のオーラがすぐにわかるのだが。
「ええ、これは国宝でして、完璧な認識阻害の魔法がかけてあるんです。その気になれば姿を消すことも可能だとか。」
ニコッと微笑んで話す少女。名前はセイラというらしい。彼はセイラに会ったことを覚えているが、彼女は十年も前だったから、覚えていないのだろう。恐らく、十年前は五、六歳位ではなかったろうか。
「それで、あの、もしお分かりでしたら、この先の洞窟までの道を教えていただけますか?」
厚かましいと自分で思っているのかもしれない、申し訳なさそうにセイラは少年に願った。
(多分悪い人間ではないと思うが、今さっき賊に襲われたのに、まだこの先に進むのか?)
「先程も賊に襲われたようですし、今日は止めて、日を改めてもっと警備を増やしてから向かってはいかがですか?」
あたりさわらないように少年が提案する。
「いえ、お城を抜け出すことなど、そう何度もは出来ません。それに本日中にお墓に供養をしたいのです。」
強い眼を宿してセイラは言葉をはなち、
「今日が命日ですから。」
寂しそうに最後に付け加えた。
「・・・・はあ、」
少年は曖昧な返事をして、少し考えをめぐらせた。
このまま先にいかせていいのか?この森のかなり奥地に洞窟はあるので危険ではないか?傍らの女騎士はなかなかの手練れだとは思うが、この先にそれ以上の魔物や賊と遭遇しないとも限らない。
それがなくても素人の森での探索は危険が多い。このまま二人をいかせていいのか?自らへの問いは、最初に戻る。
そして渋々、不本意ではあるが、一つの結論を導きだした。
「あの、よろしければ、自分が付いて行きます。洞窟までの道程は知っていますが、かなり入りくんだ道で上手く説明できませんので。」
「え!本当ですか!助かります。是非そうしていただけると有り難いです。」
少年の突然の提案を速攻で受け入れるセイラ。一国のお姫様がこんなに簡単に他人を信用して大丈夫か?と少年は思った。だが傍らの女騎士はちがうようで、
「!?、姫様っ、今知り合った、得体の知れないものを近くに置くのは、反対です!」
その女騎士からの忠告。当然そう来ると思っていた少年にとっては別に腹も立たないが、当のお姫様には頭にきたらしい。
「ディアナ、この御方に失礼ですよ!この方は見ず知らずの私達を今さっき助けていただいたではありませんか。」
「それはたまたまでしょう!今は姫様の御身分も知っています。先程の奴等のように道案内と称して拐い、身代金を要求してくる可能性もあります。」
女騎士の言い分はもっともだ。自分でもちょっと無茶なこと言ってると自覚はあるが、断られても別に良いと思っている。ただこのまま二人を行かせて遭難されて魔物の餌食にでもなったら自らの心に躊躇いが残ると少年は思った。少年の使命にはその躊躇いが致命的な弱点になるような気がして、後ろめたさを覚えたくないという個人の思いから提案しただけだ。しかし、
「大丈夫、この御方は誠実で真っ直ぐな方だと精霊達が言っています。」
セイラはそんな事を言っていた。
「精霊視か。」
そんな少年の呟きを、女騎士は耳ざとく聞き付け、きっと睨み付けた。
本来の魔法は、自らの生命力である「オド」を、自然界に満ちる「マナ」に化合して行使される。そのマナが凝り固まって意思を持ったものを精霊と呼んでいる。精霊には格付けのようなものがあり、その自意識をはっきりと鮮明にしたものほど高位のものとされてきた。先程のグリフォンが操っていたのは意思の無い最も下位の精霊だ。高位の魔物は、この下位の精霊を操ることで様々な魔法を使用する。精霊は普通の人間には見ることができず、その存在を視認することが出来るものを、精霊使いと読んでいた。精霊使いはその希少ゆえ、各国でも最重要人物とされていることが多い。その用途も多岐にわたる。
「お前は何者だ、私はアルバート王国近衛騎士ディアナ・グラン。先程の貴殿の助力には感謝するが、先ずは名を聞かせてもらおう。」
鋭い視線で少年を睨み付けるディアナ。
「あー、自分はアキラと言います。」
緊張感の張り詰めているディアナとは対照的に、こっちは覇気の無い顔で自己紹介するアキラ。
「貴殿は何故この様なところに居合わせたのだ?」
ディアナはアキラを先程の賊の仲間ではないかと疑っているらしい。確かに彼は絶妙なタイミングで登場した。まあ、その前から様子を窺っていたからだが。
「この森には時々狩りに来るんです。その関係で気配の察知に敏感になりまして、お二人を見つけた次第です。」
一応さわりないと思ってでまかせをいってみる。信じるかは微妙だが。
「あと貴殿はどちらの生まれだ?この国の人間ではあるまい。」
ディアナのこの問いは、当然のものであった。というのもアキラの外見が、アルバート王国では大変珍しい色彩によるものだからだ。
背格好は百七十センチくらい。歳は十五、六ぐらいであろうか。髪は短めでその色は漆黒、肌の色は白色系、顔は整っているが繊細な印象はまるで受けない。瞳の色も漆黒、引き締まった体に筋肉が隆起していて、かなり鍛え込まれているのがわかる。動きやすそうな装束だがその素材から、特殊な布で作られた防御性の高い服だ。腰には二本の短刀を左右に挿していて、ベルトには様々な付属物?が装備されている。投げナイフらしきものも幾つもショルダー式の別のベルトに挿している。探検家と言うには探索の装備が少なくて、猟師というには狩猟の装備も少ない。明らかに戦闘寄り、怪しいと思うのは当然だ。そしてこの国の人間はその多くが髪の色は金か茶色、肌は白い者が多い。たまに黒髪や赤髪もいるが、瞳は青、緑、茶色等だ。アキラの外見はどれにも当てはまらなくて、不審に思ったのだろう。
「ええ、自分はこの国の人間ではありません。何か問題ありますか?」
「あるに決まっているだろう!我が国の第一王女の身に何か有ってからでは遅いのだ!」
さっきだって十分危険な目に遭っていたじゃないか。ということは思ったが、アキラはそれは言わないでおいた。
「ディアナ、先程も申したでしょう。この御方は信用に足る方です。これは私の決定ですので反論は受け付けません。」
歳に似合わぬ凛とした態度でディアナに言い聞かすセイラ。主のこの強い眼には勇猛な近衛騎士も言い返せない。
「・・・わかりました。」
そうして三人で森の奥地にある洞窟に行くことになった。アキラにとっては今来た道を戻らなくてはいけないのだが、このまま二人で行かせて遭難されて何日かして骨で発見された、何て事になったら寝覚めが悪いので仕方ないという思いだった。
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