4 / 25
4
しおりを挟む
森の中を進むアキラ、ディアナ、セイラの三人。先頭にアキラ、真ん中にセイラ、後方にディアナという並びであまり感覚を空けないように歩いていく。アキラは時々後ろを振り返り二人が付いてきているか確認していた。
不意にセイラと目が合う。彼女はアキラににっこりと微笑みかける。普通の男が見たら思わず心を奪われそうな可憐な笑顔だ。
「疲れてませんか?なるべく負担の少ない道を選んでるつもりですけど、慣れていない人には苛酷と思いますが。」
目があって何も話さないのも変かと思ってアキラが話しかけた。
「大丈夫です。王女といえど私は一人の術士ですから。身体も日々鍛えております。」
この世界では多くの貴族が術士という職業、称号を得ている。魔法を行使して奇跡を起こすものをそう呼ぶが、貴族ならばほぼ全員が何らかの魔法を使える。というのも、大昔のアルバート王国の初代国王とその家臣が精霊と契約してこの国を作ったと言われており、その子孫たる各貴族たちにも精霊の恩恵があるから術が使いやすいというわけだ。多くの術士は術に必要なオドを練るために身体を鍛える事を日常的に行っているのだ。彼女も第一王女の地位にあっても他と同じく、鍛練を行っているということであった。
「姫様、あまり無理はなされませんように。御身は我が国にとって大切な御体でありますので。」
そう言って気遣わしげな眼差しを向けるディアナ。
「ふふっ、大丈夫です。私はこれでも、魔法学園では同期の中で成績トップですから。その気になれば身体強化の術も出来ますよ?」
そう言うセイラの顔は可憐な乙女のものだが、その強い瞳に自信のほどが窺える。アキラも一目見たときから、この少女の魔力がかなりのものだというのは分かっていた。
「女騎士さん、あなたも身体強化の術は使えるんですか?」
会話を聞いていたアキラが不意にディアナに話しかけた。
「無論だ。己を強化する術は近衛騎士団に入る上で必須のスキルだからな。そして私の名前はディアナだ。憶えておけ。」
傲岸不遜に言い放つディアナ、先程から不機嫌な様子だ。アキラの事が気に入らないのであろう。
「セイラさん、少しペースを早めたいのですが、大丈夫ですか?このままだと、恐らく夜までに帰ってこれないので。」
アキラはセイラに聞いてみた。ディアナがセイラの主人であることもあるが、彼女の体力が一番低いと思っての問い掛けであった。
「もちろんお任せします。ディアナも大丈夫だと思います。アキラさんのペースでもし付いていけないと思ったらお伝えしますので。」
元気よくセイラはアキラに答える。
「わかりました。じゃあ、身体強化の術を使ってくださいね。」
そう言ってアキラは、少し駆け足程度で走り出した。彼が最初に洞窟から旅立っていったときのスピードに比べたら、かなり遅めに、尚且つ道も安定したものを選んでいるので、彼にとっては全く苦にはならない速さだが、普通の人間にしたら、中々にきついスピードである。彼は走りながら、後ろを頻繁に確認した。これだけ余所見しているのに、その足取りは淀みなく大地を蹴る。
(騎士さんは余裕で付いてくると思ったけど、姫様も余裕ありそうだな。オドに乱れが全然無い。呼吸も規則的に続いている。)
二人の様子を見ながら、アキラはそう考えていた。二人とも多少の息の乱れはあるものの、しっかりとした足取りで大地を踏みしめ付いてくる。彼女等の生命力であるオドを俯瞰でアキラは眺めたが、まだまだ余力を残してそうだ。
(これで精霊使いなら、もし戦うなら姫様の方が厄介な相手になるだろうな。)
と、多分ないであろうことをぼんやりと考えながら、アキラは二人を先導した。
三人は予定よりもかなり早めに洞窟に着いた。幸いにして道中、賊や魔物に遭遇するアクシデントもなかった。彼女等が思ったよりもやるのでアキラは途中からスピードを少しずつ上げてどこまでいけるか試していたほどた。今は洞窟の入り口付近の木陰で一休みしているところ。うっすらと汗をかいているセイラが、清潔な柔らかい布で額の汗を拭いながら口を開いた。
「思ったより早く着けて良かったですね!久しぶりにこんなに走って、気持ちの良い汗をかきました。」
そう言ってアキラに爽やかな笑顔を向ける。
「・・・驚きました。騎士さんはまあ大丈夫と思ってましたが、お姫様がこんなに健脚だとは思ってませんでした。」
途中の川で捕った魚を木の枝で作った串に打ちながら、アキラが答えた。あまり感情が見えてこない、平坦な声であったが、驚いてるのは少なからず本当だ。
「うふふっ、でしょ?私も将来は大魔術師となって、このアルバート王国のためになる事を成したいのです。」
えへんと胸を張って答えるセイラ。豊満とは言えないが、同世代の女子よりはかなり豊かな発育の良い胸が強調されて、アキラは自然と目をそらした。心なしか、彼の頬はうっすらと赤いような気もする。
「姫様、花をご用意いたしました。」
周囲から供えようの花を積んできたディアナがセイラに話し掛ける。
「ありがとう、お酒も出してもらえる?」
「ええ、こちらに準備してございます。」
ディアナはそう言って、自分の背負っていたリュックから酒瓶を取り出した。
そしてセイラとディアナは洞窟の前にたてられた墓標に、花と酒を供える。
「・・・おじ様、大変遅くなり申し訳ありませんでした。父も母も兄弟も、皆元気でやっております。・・・我が国も平和に十年の月日が流れました。これも全ておじ様のお陰です。」
そう言って、祈るように墓標の前に屈んで眼を閉じている。
アキラはそれを目の端に見ながら、白々しい視線をしていた。その表情には何も現れていないが、彼は自分の心を抑えるので一杯だった。
自分以外の、それもこの国の王族が、あの墓の前であんなことされたら、本当に殺したくなる。分かってはいたが、いざ目の当たりにするとどうしても感情の揺れは押さえられない。
「誰か先に来ていたものがいるようですね。」
そう言ってディアナは墓の前にある、アキラがさっき置いた花を見た。
セイラは眼を閉じて何事か祈りを捧げているのか、その声は届いていないようであった。
不意にセイラと目が合う。彼女はアキラににっこりと微笑みかける。普通の男が見たら思わず心を奪われそうな可憐な笑顔だ。
「疲れてませんか?なるべく負担の少ない道を選んでるつもりですけど、慣れていない人には苛酷と思いますが。」
目があって何も話さないのも変かと思ってアキラが話しかけた。
「大丈夫です。王女といえど私は一人の術士ですから。身体も日々鍛えております。」
この世界では多くの貴族が術士という職業、称号を得ている。魔法を行使して奇跡を起こすものをそう呼ぶが、貴族ならばほぼ全員が何らかの魔法を使える。というのも、大昔のアルバート王国の初代国王とその家臣が精霊と契約してこの国を作ったと言われており、その子孫たる各貴族たちにも精霊の恩恵があるから術が使いやすいというわけだ。多くの術士は術に必要なオドを練るために身体を鍛える事を日常的に行っているのだ。彼女も第一王女の地位にあっても他と同じく、鍛練を行っているということであった。
「姫様、あまり無理はなされませんように。御身は我が国にとって大切な御体でありますので。」
そう言って気遣わしげな眼差しを向けるディアナ。
「ふふっ、大丈夫です。私はこれでも、魔法学園では同期の中で成績トップですから。その気になれば身体強化の術も出来ますよ?」
そう言うセイラの顔は可憐な乙女のものだが、その強い瞳に自信のほどが窺える。アキラも一目見たときから、この少女の魔力がかなりのものだというのは分かっていた。
「女騎士さん、あなたも身体強化の術は使えるんですか?」
会話を聞いていたアキラが不意にディアナに話しかけた。
「無論だ。己を強化する術は近衛騎士団に入る上で必須のスキルだからな。そして私の名前はディアナだ。憶えておけ。」
傲岸不遜に言い放つディアナ、先程から不機嫌な様子だ。アキラの事が気に入らないのであろう。
「セイラさん、少しペースを早めたいのですが、大丈夫ですか?このままだと、恐らく夜までに帰ってこれないので。」
アキラはセイラに聞いてみた。ディアナがセイラの主人であることもあるが、彼女の体力が一番低いと思っての問い掛けであった。
「もちろんお任せします。ディアナも大丈夫だと思います。アキラさんのペースでもし付いていけないと思ったらお伝えしますので。」
元気よくセイラはアキラに答える。
「わかりました。じゃあ、身体強化の術を使ってくださいね。」
そう言ってアキラは、少し駆け足程度で走り出した。彼が最初に洞窟から旅立っていったときのスピードに比べたら、かなり遅めに、尚且つ道も安定したものを選んでいるので、彼にとっては全く苦にはならない速さだが、普通の人間にしたら、中々にきついスピードである。彼は走りながら、後ろを頻繁に確認した。これだけ余所見しているのに、その足取りは淀みなく大地を蹴る。
(騎士さんは余裕で付いてくると思ったけど、姫様も余裕ありそうだな。オドに乱れが全然無い。呼吸も規則的に続いている。)
二人の様子を見ながら、アキラはそう考えていた。二人とも多少の息の乱れはあるものの、しっかりとした足取りで大地を踏みしめ付いてくる。彼女等の生命力であるオドを俯瞰でアキラは眺めたが、まだまだ余力を残してそうだ。
(これで精霊使いなら、もし戦うなら姫様の方が厄介な相手になるだろうな。)
と、多分ないであろうことをぼんやりと考えながら、アキラは二人を先導した。
三人は予定よりもかなり早めに洞窟に着いた。幸いにして道中、賊や魔物に遭遇するアクシデントもなかった。彼女等が思ったよりもやるのでアキラは途中からスピードを少しずつ上げてどこまでいけるか試していたほどた。今は洞窟の入り口付近の木陰で一休みしているところ。うっすらと汗をかいているセイラが、清潔な柔らかい布で額の汗を拭いながら口を開いた。
「思ったより早く着けて良かったですね!久しぶりにこんなに走って、気持ちの良い汗をかきました。」
そう言ってアキラに爽やかな笑顔を向ける。
「・・・驚きました。騎士さんはまあ大丈夫と思ってましたが、お姫様がこんなに健脚だとは思ってませんでした。」
途中の川で捕った魚を木の枝で作った串に打ちながら、アキラが答えた。あまり感情が見えてこない、平坦な声であったが、驚いてるのは少なからず本当だ。
「うふふっ、でしょ?私も将来は大魔術師となって、このアルバート王国のためになる事を成したいのです。」
えへんと胸を張って答えるセイラ。豊満とは言えないが、同世代の女子よりはかなり豊かな発育の良い胸が強調されて、アキラは自然と目をそらした。心なしか、彼の頬はうっすらと赤いような気もする。
「姫様、花をご用意いたしました。」
周囲から供えようの花を積んできたディアナがセイラに話し掛ける。
「ありがとう、お酒も出してもらえる?」
「ええ、こちらに準備してございます。」
ディアナはそう言って、自分の背負っていたリュックから酒瓶を取り出した。
そしてセイラとディアナは洞窟の前にたてられた墓標に、花と酒を供える。
「・・・おじ様、大変遅くなり申し訳ありませんでした。父も母も兄弟も、皆元気でやっております。・・・我が国も平和に十年の月日が流れました。これも全ておじ様のお陰です。」
そう言って、祈るように墓標の前に屈んで眼を閉じている。
アキラはそれを目の端に見ながら、白々しい視線をしていた。その表情には何も現れていないが、彼は自分の心を抑えるので一杯だった。
自分以外の、それもこの国の王族が、あの墓の前であんなことされたら、本当に殺したくなる。分かってはいたが、いざ目の当たりにするとどうしても感情の揺れは押さえられない。
「誰か先に来ていたものがいるようですね。」
そう言ってディアナは墓の前にある、アキラがさっき置いた花を見た。
セイラは眼を閉じて何事か祈りを捧げているのか、その声は届いていないようであった。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる