国助く禍津剣

dada

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 森の中を進むアキラ、ディアナ、セイラの三人。先頭にアキラ、真ん中にセイラ、後方にディアナという並びであまり感覚を空けないように歩いていく。アキラは時々後ろを振り返り二人が付いてきているか確認していた。
 不意にセイラと目が合う。彼女はアキラににっこりと微笑みかける。普通の男が見たら思わず心を奪われそうな可憐な笑顔だ。
 「疲れてませんか?なるべく負担の少ない道を選んでるつもりですけど、慣れていない人には苛酷と思いますが。」
 目があって何も話さないのも変かと思ってアキラが話しかけた。
 「大丈夫です。王女といえど私は一人の術士ですから。身体も日々鍛えております。」
 この世界では多くの貴族が術士という職業、称号を得ている。魔法を行使して奇跡を起こすものをそう呼ぶが、貴族ならばほぼ全員が何らかの魔法を使える。というのも、大昔のアルバート王国の初代国王とその家臣が精霊と契約してこの国を作ったと言われており、その子孫たる各貴族たちにも精霊の恩恵があるから術が使いやすいというわけだ。多くの術士は術に必要なオドを練るために身体を鍛える事を日常的に行っているのだ。彼女も第一王女の地位にあっても他と同じく、鍛練を行っているということであった。
 「姫様、あまり無理はなされませんように。御身は我が国にとって大切な御体でありますので。」
 そう言って気遣わしげな眼差しを向けるディアナ。
 「ふふっ、大丈夫です。私はこれでも、魔法学園では同期の中で成績トップですから。その気になれば身体強化の術も出来ますよ?」
 そう言うセイラの顔は可憐な乙女のものだが、その強い瞳に自信のほどが窺える。アキラも一目見たときから、この少女の魔力がかなりのものだというのは分かっていた。
 「女騎士さん、あなたも身体強化の術は使えるんですか?」
 会話を聞いていたアキラが不意にディアナに話しかけた。
 「無論だ。己を強化する術は近衛騎士団に入る上で必須のスキルだからな。そして私の名前はディアナだ。憶えておけ。」
 傲岸不遜に言い放つディアナ、先程から不機嫌な様子だ。アキラの事が気に入らないのであろう。
 「セイラさん、少しペースを早めたいのですが、大丈夫ですか?このままだと、恐らく夜までに帰ってこれないので。」
 アキラはセイラに聞いてみた。ディアナがセイラの主人であることもあるが、彼女の体力が一番低いと思っての問い掛けであった。
 「もちろんお任せします。ディアナも大丈夫だと思います。アキラさんのペースでもし付いていけないと思ったらお伝えしますので。」
 元気よくセイラはアキラに答える。
 「わかりました。じゃあ、身体強化の術を使ってくださいね。」
 そう言ってアキラは、少し駆け足程度で走り出した。彼が最初に洞窟から旅立っていったときのスピードに比べたら、かなり遅めに、尚且つ道も安定したものを選んでいるので、彼にとっては全く苦にはならない速さだが、普通の人間にしたら、中々にきついスピードである。彼は走りながら、後ろを頻繁に確認した。これだけ余所見しているのに、その足取りは淀みなく大地を蹴る。
 (騎士さんは余裕で付いてくると思ったけど、姫様も余裕ありそうだな。オドに乱れが全然無い。呼吸も規則的に続いている。)
 二人の様子を見ながら、アキラはそう考えていた。二人とも多少の息の乱れはあるものの、しっかりとした足取りで大地を踏みしめ付いてくる。彼女等の生命力であるオドを俯瞰でアキラは眺めたが、まだまだ余力を残してそうだ。
 (これで精霊使いなら、もし戦うなら姫様の方が厄介な相手になるだろうな。)
 と、多分ないであろうことをぼんやりと考えながら、アキラは二人を先導した。

 三人は予定よりもかなり早めに洞窟に着いた。幸いにして道中、賊や魔物に遭遇するアクシデントもなかった。彼女等が思ったよりもやるのでアキラは途中からスピードを少しずつ上げてどこまでいけるか試していたほどた。今は洞窟の入り口付近の木陰で一休みしているところ。うっすらと汗をかいているセイラが、清潔な柔らかい布で額の汗を拭いながら口を開いた。
 「思ったより早く着けて良かったですね!久しぶりにこんなに走って、気持ちの良い汗をかきました。」
 そう言ってアキラに爽やかな笑顔を向ける。
 「・・・驚きました。騎士さんはまあ大丈夫と思ってましたが、お姫様がこんなに健脚だとは思ってませんでした。」
 途中の川で捕った魚を木の枝で作った串に打ちながら、アキラが答えた。あまり感情が見えてこない、平坦な声であったが、驚いてるのは少なからず本当だ。
 「うふふっ、でしょ?私も将来は大魔術師となって、このアルバート王国のためになる事を成したいのです。」
 えへんと胸を張って答えるセイラ。豊満とは言えないが、同世代の女子よりはかなり豊かな発育の良い胸が強調されて、アキラは自然と目をそらした。心なしか、彼の頬はうっすらと赤いような気もする。
 「姫様、花をご用意いたしました。」
 周囲から供えようの花を積んできたディアナがセイラに話し掛ける。
 「ありがとう、お酒も出してもらえる?」
 「ええ、こちらに準備してございます。」
 ディアナはそう言って、自分の背負っていたリュックから酒瓶を取り出した。
 そしてセイラとディアナは洞窟の前にたてられた墓標に、花と酒を供える。
 「・・・おじ様、大変遅くなり申し訳ありませんでした。父も母も兄弟も、皆元気でやっております。・・・我が国も平和に十年の月日が流れました。これも全ておじ様のお陰です。」
 そう言って、祈るように墓標の前に屈んで眼を閉じている。
 アキラはそれを目の端に見ながら、白々しい視線をしていた。その表情には何も現れていないが、彼は自分の心を抑えるので一杯だった。
 自分以外の、それもこの国の王族が、あの墓の前であんなことされたら、本当に殺したくなる。分かってはいたが、いざ目の当たりにするとどうしても感情の揺れは押さえられない。
 「誰か先に来ていたものがいるようですね。」
 そう言ってディアナは墓の前にある、アキラがさっき置いた花を見た。
 セイラは眼を閉じて何事か祈りを捧げているのか、その声は届いていないようであった。

 
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