15 / 25
15
しおりを挟む
「はぁ・・・・・昨日はえらい目にあった。」
洗面所で顔を洗うアキラ。今は早朝、昨日遅くまでソフィーとアキラはエレインに連れ回され、帰ってきた時にはもう日をまたいでいた。よく言えばフレンドリー。悪く言えば馴れ馴れしいエレインが、お酒が入ると馴れ馴れしさが三倍増になる。昨日は終止アキラは彼女に絡まれていた。ソフィーはというと、一件目は食事主体で普通に楽しく食べたが、(だが食べ始める頃はまだ若干不機嫌だった。)二件目で一杯だけと言って勝手にお酒を飲み、速効つぶれてしまった。そのままにも出来ないのでアキラがおぶって三件目に向かった。最終的に三件目の店を出るときには、アキラはソフィーをおんぶして、大酒で泥酔したエレインを担いで家まで戻った。彼も多少は酔っていたので、エレインの部屋に付いた途端、糸が切れて眠りこけてしまったのである。さっき起きたら、いつの間にか半裸になったエレインとソフィーがベッドの上で、自分に絡み付くように眠っていたので、慎重に起こさないように抜け出してきたのである。
(しかし、一番初めに起きたのが俺でよかった良かった。)
つくづくそう思った。これが彼女等のどちらかだったら、何発か殴られていたかもしれない。彼が悪いことは全く無いのだが。
「ふぁ~、おはよう。」
洗面所にソフィーが顔を出した。まだ眠そうだがさすがに服はちゃんと着てくれていた。
「おはよう。身体の方は大丈夫か?
」
「え、うん。何だかよく憶えてないんだけど、お酒は当分止めとく。」
お酒の影響は無いかとアキラがソフィーに確認した。彼女は失態を演じた自分が恥ずかしいのか、少し頬を染めながら答える。
「そうした方がいい。お前はまだ子供なんだから、身体にも毒かもしれないしな。」
「あ、あんただって二つしか違わないじゃん!・・・まあ、ご忠告通りお酒は控える。」
そこまで言って、
「それで、昨日はアキラが私を家まで連れ帰ってくれたの?」
一瞬背筋に寒気を覚えるアキラだが、
「ああ。エレインも寝ちゃったから何とかお前ら二人抱えて帰ってきた。そのままエレインの部屋に突っ込んだよ。」
焦りを殺して努めて平静な声で口にする。
「そっか、じゃあ夢だったのかな・・・・。」
ソフィーは自信なさげに呟いた。
「なにが?」目線で問い返すアキラに
「いや、夜中に一度目が覚めたんだけど、あんたの寝顔が目の前にあった気がしたからさ。」
「・・・・夢だろ?」
「・・・・そうよね。はあ、良かった。アタシと姉さん、起きたら下着姿だったから、あんたと一緒に寝てたら逆上して殴ってたかもしれない。」
ソフィーはそんな事を言っている。傭兵団の団員でもやはり年頃の少女だ、乙女ならではの譲れぬ気恥ずかしさがあるのだろう。
「あ、そう。」
無理に答えるとボロが出そうなので、取りあえずこの会話を終えようとアキラは話題を変えることにした。
「エレインはまだ寝てるのか?」
「うん、今日は一日休みだったみたい。」
今も呑気に自室で爆睡中の彼女を思うと、腹が立ってくるアキラだった。
「お前、朝飯は食えるか?」
「うん、・・・手伝おっか?」
「いや、余計時間かかるからいい。」
「何よー!もうずっと手伝ってやんない!」
「・・・・いや、今まで手伝ったこと無いだろ。」
アキラは呆れた声でそう言ってキッチンに向かった。
武神兵団の食事当番は主に武神、ライオ、カエン、アキラ、エレインの五人で回すことになっている。実はこの傭兵団のトップが軒並み入っているのだが、これは武神の教えが関係している。
一つ、食事はなるべく皆で食うこと。
一つ、造る者は拘りを持って造ること。
一つ、食事は毎日の活力である。
等、武神の弟子であるライオ、カエン、アキラは、皆武神に拾われた日から耳にタコができるぐらい言われてきた。
実際、武神が造ってくれる料理は旨い。生きるために何でも喰えるものは口にしてきた彼ら孤児達にとって、武神の料理を初めて食べたときはひどく感動したものだ。
なので、皆その教えは最も正しいと理解している。
生きるために食うのと、食うために生きることが彼らの中では直結しているのだ。
必然的にライオ達武神の弟子は料理上手になっていくのだった。
朝食は主にアキラが造る。昼は各自自由に食べて、夜は交代で回す。
アキラは料理を造るのは嫌いではなかった。今も手早くオムレツを造り、サラダを造り、昨日サンドイッチにも使っていた薄切りの燻製肉を焼いてオムレツの横に添えて皿に盛り付けた。
その他はじゃが芋のスープと軽く焼き直したパン。
「ま、こんなもんか。」
ふうと一息付き、食堂の長いテーブルに配膳していく。
時刻は朝七時半、団員が各々食堂の席に座る。
「あー、腹へった!」
赤髪とブラウンの瞳の男がはしゃいでいる。この男の名はカエン、武神の二番目の弟子で兵団のナンバーツーだ。歳はアキラより二つ上の十八才、陽気で明るい性格をしており国民達からも信頼されている。その甘いマスクも相まって貴族令嬢達からもよく声をかけられている、俗にいう色男であった。
だが戦闘力も一流である。得意の火術はこの国で一番の使い手と言われていた。
「朝からうるさい、静かに食え。」
その横にはナンバーワンのライオ。カエンのはしゃぎっぷりがかんにさわるようだ。皆食事を始めていく。
「まあまあ、良いじゃねえか!俺も腹へったぜー。」
その向かいでは武神がライオをいさめるように言った。武神の弟子の中でカエンが一番武神に近い性格をしているかもしれない。
「おう、皆さんお揃いで。おはよう、アキラ昨日はありがとね。」
眠気眼でエレインが顔を出した。昨日自分とソフィーを連れて帰ってくれたことに対する謝意を表す。
「ああ!お前ら外に飲みに行ってたんだっけか。俺もいきたかったな。」
この中で明らかにぶっちぎりの年長者である武神が子どものように寂しげに漏らした。
「・・・親父、俺達は国王との会食でした。これ以上に重大なことも無いと思いますが。」
武神の向かい側でライオがやや呆れている。
「まったく、あいつはいつも急なんだよな。今晩も城で晩飯に来いって言われてるんだぜ?」
やれやれという風に武神が言った。現アルバート王国の国王と武神は旧知の仲で、若い頃は二人でよく無茶をしたと、酒に酔った武神は語っていた。
「へえー、親父すげえな。連チャンで国王と晩飯食えるのか。」
ライオの横でカエンの能天気な声がする。
「でもこの時期に王宮に連日呼ばれるのは何かあるのかな?近いうちに戦争になるとか?」
エレインがふと思い付いた懸案事項を口にする。
「うーん、昨日はそんな話は出なかったが。もしかしたら可能性は有るかもな。」
武神は難しい顔で否定しなかった。
「あ、そう言えば、アキラ達の今回の仕事って何だったんだ?」
武神がふと思い出して口を開く。
「はい、何でもロラン王国の国境付近の塔で、最近魔物が現れたとか。」
ライオがすぐに答えた。元々この朝食の場でアキラ達に説明する予定だったからだ。
「あれは古代の術士が建てたっていう塔だろ?あそこは前から魔物の巣窟じゃん。」
カエンが何の気なしに発言した。
「まあ、そうだ。あの塔には強力な結界で中から魔物が出られないようになっている。塔の中で魔物達は殺し合い、より強い魔物が残る。」
忌々しげにライオが言う。
あまり気分の良い話ではなかった。要するに、昔の術士がより強い魔物を誕生させるために、出口を塞いで魔物達に殺し合いをさせ強い魔物を産み出そうととしたのだろう。そのために塔を一つ使う、まるで神々の遊びのような様は、古の術者達の典型的な狂楽主義に思えた。
しかし結局は残った魔物を使役しようとしたが、何らかの理由で術者は居なくなった。そして過酷な食物連鎖が塔の中で長年行われてきた結果、強力な魔物が残った。その数が一匹とは限らないが、他の地域よりは厄介な魔物に違いはない。
「でも前から危険なダンジョンってことで、付近の住民は近づかないようにしてるんだろ?」
「ああ、以前はそれで問題なかったのだが。」
カエンの問いにライオは答える。その目は鋭く伏せられている。
「一昨日の夜、近くの村が魔物に襲われた。逃げ出した住民によれば、その魔物は一匹で村を蹂躙し、その後塔がある方角に飛び去っていったというのだ。」
「へえ、飛んでいくとは厄介そうだね。でもまだそれだけじゃ塔の魔物と決まってないんじゃない?」
エレインはごく当たり前の事を口にした。
この世界に魔物はたくさんいる。普通の動物が魔素を多く取り続けると、体内で魔素がやがて結晶化していき、それが核となり身体が変異する。
変異した動物のことを魔物と呼ぶ。魔物は魔素による変異で生まれることもあるが、大抵親が魔物だったら遺伝的に子も魔物になる。それはずっと昔から繰り返されているこの世界の当たり前のことだ。
空を飛べる魔物も多い。代表格は有名なドラゴンだ。
「いや、その魔物が塔の頂上部分に戻っていくのを見た者がいる。」
「それに、」
一度言葉を切ったライオは、
「被害にあった村の人間は逃げ出してきたごく少数を残して全滅だそうだ。今冒険者ギルドでも討伐部隊を編成している。それでも足りなければ恐らく王国騎士団も出動するだろう。」
言い終えるとライオは目を閉じた。何事か考えている風にも見える。
そして瞳を開き言葉を放つ。
「そこで、先行偵察の任務が俺達におりてきた。」
ライオは改めてアキラを見た。その眼光は鋭く、視られたものを萎縮させうるものだが、当のアキラは特に気負うこともなく平然としている。
「了解した。この後準備出来次第出発する。メンバーは?」
「お前とソフィー、あとエレインも連れていけ。」
ライオが言う。実際今兵団に残っているのはライオ、カエン、アキラ、ソフィー、エレイン、あと団長の武神だけだ。武神兵団は武神を含めて総勢十三名。あとの七人は其々に国の各地に任務で出払っている。
「ライオ、今回は偵察だけでいいのか?」
アキラが問う。彼の目はライオの心底を正しく理解していた。
「依頼は偵察だけだ。だがアキラ、魔物を仕留めろ。被害に遭った村人は二百名を越えている。これ以上我が国の国民を犠牲にすることは許せない。」
ライオの眼が怒りで燃え立っていた。ライオは本当の愛国者だと武神はよく言っていた。実はライオ達義理の三兄弟は皆それぞれ他国の人間だ。戦災孤児だった三人を戦場を渡り歩いていた武神が拾い、弟子にして生き抜くための力を与えた。
アキラは別にこの国に思い入れは無い。目の前で何も悪いことをしていない人間が死ぬのはなんと無く我慢できないが、この国の行く末などは知ったことではない。ただ親父である武神がこの国を助けようとしているから、武神の為に仕事をこなして貢献するだけだ。
だがライオは違った。勿論武神への忠誠心もあるが、ライオはアルバート王国を気に入っていた。元々彼らのような孤児は、拠り所となる場所を探すものかもしれない。そしてライオは本気で国の為に働きたいと思っていた。
その自国の民が魔物に蹂躙されたなどということは、彼にとっては許しがたいことだった。本当なら自ら乗り込んで殲滅してやりたいことだろう。彼には一人でも十分にやり遂げるだけの力がある。だが武神兵団の副団長の彼には武神より、万一の為に王都に詰めているようにと指示がおりている。王宮の守備隊も中々の手練れ達だが、ライオ一人よりも戦力としては弱い。彼がいれば、もしもの時にも対応できると武神は考えていた。
「了解した。魔物を仕留めてくる。」
ライオの熱意を感じとったアキラが言った。
「うむ、任務には同盟国であるロラン王国から共同の探索隊が遣わされるそうだ。」
ロラン王国とアルバート王国は同盟関係にある。国の規模も同じぐらいだが違いがあるとすれば、国土の大半がロラン王国は森林地帯になっており、森が彼等の生活の一部となっているということか。
「案内人?必要ないんじゃない?」
これはエレインが言った。塔の場所はわかっているのだし、頂上に行くという目的を達成できればそれで良いと思うが。という意図がある。
「いや、ロラン王国も塔には以前から研究者達が関心を示してきた。今回アルバート王国の人間だけで塔の古代遺産を独占させたくないという意思があるのではないかと思う。」
ライオは続けて
「我々のことはあちらも知っているだろうからな。我等が偵察部隊だと言ったら、あちらが直ぐ様共同任務を申し込んできた。」
そこまで言って、ライオはあらためてアキラに言った。
「魔物を殲滅しろ。だが注意を怠るな。魔物にも、ロラン王国にもだ。」
「了解した。」
アキラは再度そう言って食堂を出ていった。
洗面所で顔を洗うアキラ。今は早朝、昨日遅くまでソフィーとアキラはエレインに連れ回され、帰ってきた時にはもう日をまたいでいた。よく言えばフレンドリー。悪く言えば馴れ馴れしいエレインが、お酒が入ると馴れ馴れしさが三倍増になる。昨日は終止アキラは彼女に絡まれていた。ソフィーはというと、一件目は食事主体で普通に楽しく食べたが、(だが食べ始める頃はまだ若干不機嫌だった。)二件目で一杯だけと言って勝手にお酒を飲み、速効つぶれてしまった。そのままにも出来ないのでアキラがおぶって三件目に向かった。最終的に三件目の店を出るときには、アキラはソフィーをおんぶして、大酒で泥酔したエレインを担いで家まで戻った。彼も多少は酔っていたので、エレインの部屋に付いた途端、糸が切れて眠りこけてしまったのである。さっき起きたら、いつの間にか半裸になったエレインとソフィーがベッドの上で、自分に絡み付くように眠っていたので、慎重に起こさないように抜け出してきたのである。
(しかし、一番初めに起きたのが俺でよかった良かった。)
つくづくそう思った。これが彼女等のどちらかだったら、何発か殴られていたかもしれない。彼が悪いことは全く無いのだが。
「ふぁ~、おはよう。」
洗面所にソフィーが顔を出した。まだ眠そうだがさすがに服はちゃんと着てくれていた。
「おはよう。身体の方は大丈夫か?
」
「え、うん。何だかよく憶えてないんだけど、お酒は当分止めとく。」
お酒の影響は無いかとアキラがソフィーに確認した。彼女は失態を演じた自分が恥ずかしいのか、少し頬を染めながら答える。
「そうした方がいい。お前はまだ子供なんだから、身体にも毒かもしれないしな。」
「あ、あんただって二つしか違わないじゃん!・・・まあ、ご忠告通りお酒は控える。」
そこまで言って、
「それで、昨日はアキラが私を家まで連れ帰ってくれたの?」
一瞬背筋に寒気を覚えるアキラだが、
「ああ。エレインも寝ちゃったから何とかお前ら二人抱えて帰ってきた。そのままエレインの部屋に突っ込んだよ。」
焦りを殺して努めて平静な声で口にする。
「そっか、じゃあ夢だったのかな・・・・。」
ソフィーは自信なさげに呟いた。
「なにが?」目線で問い返すアキラに
「いや、夜中に一度目が覚めたんだけど、あんたの寝顔が目の前にあった気がしたからさ。」
「・・・・夢だろ?」
「・・・・そうよね。はあ、良かった。アタシと姉さん、起きたら下着姿だったから、あんたと一緒に寝てたら逆上して殴ってたかもしれない。」
ソフィーはそんな事を言っている。傭兵団の団員でもやはり年頃の少女だ、乙女ならではの譲れぬ気恥ずかしさがあるのだろう。
「あ、そう。」
無理に答えるとボロが出そうなので、取りあえずこの会話を終えようとアキラは話題を変えることにした。
「エレインはまだ寝てるのか?」
「うん、今日は一日休みだったみたい。」
今も呑気に自室で爆睡中の彼女を思うと、腹が立ってくるアキラだった。
「お前、朝飯は食えるか?」
「うん、・・・手伝おっか?」
「いや、余計時間かかるからいい。」
「何よー!もうずっと手伝ってやんない!」
「・・・・いや、今まで手伝ったこと無いだろ。」
アキラは呆れた声でそう言ってキッチンに向かった。
武神兵団の食事当番は主に武神、ライオ、カエン、アキラ、エレインの五人で回すことになっている。実はこの傭兵団のトップが軒並み入っているのだが、これは武神の教えが関係している。
一つ、食事はなるべく皆で食うこと。
一つ、造る者は拘りを持って造ること。
一つ、食事は毎日の活力である。
等、武神の弟子であるライオ、カエン、アキラは、皆武神に拾われた日から耳にタコができるぐらい言われてきた。
実際、武神が造ってくれる料理は旨い。生きるために何でも喰えるものは口にしてきた彼ら孤児達にとって、武神の料理を初めて食べたときはひどく感動したものだ。
なので、皆その教えは最も正しいと理解している。
生きるために食うのと、食うために生きることが彼らの中では直結しているのだ。
必然的にライオ達武神の弟子は料理上手になっていくのだった。
朝食は主にアキラが造る。昼は各自自由に食べて、夜は交代で回す。
アキラは料理を造るのは嫌いではなかった。今も手早くオムレツを造り、サラダを造り、昨日サンドイッチにも使っていた薄切りの燻製肉を焼いてオムレツの横に添えて皿に盛り付けた。
その他はじゃが芋のスープと軽く焼き直したパン。
「ま、こんなもんか。」
ふうと一息付き、食堂の長いテーブルに配膳していく。
時刻は朝七時半、団員が各々食堂の席に座る。
「あー、腹へった!」
赤髪とブラウンの瞳の男がはしゃいでいる。この男の名はカエン、武神の二番目の弟子で兵団のナンバーツーだ。歳はアキラより二つ上の十八才、陽気で明るい性格をしており国民達からも信頼されている。その甘いマスクも相まって貴族令嬢達からもよく声をかけられている、俗にいう色男であった。
だが戦闘力も一流である。得意の火術はこの国で一番の使い手と言われていた。
「朝からうるさい、静かに食え。」
その横にはナンバーワンのライオ。カエンのはしゃぎっぷりがかんにさわるようだ。皆食事を始めていく。
「まあまあ、良いじゃねえか!俺も腹へったぜー。」
その向かいでは武神がライオをいさめるように言った。武神の弟子の中でカエンが一番武神に近い性格をしているかもしれない。
「おう、皆さんお揃いで。おはよう、アキラ昨日はありがとね。」
眠気眼でエレインが顔を出した。昨日自分とソフィーを連れて帰ってくれたことに対する謝意を表す。
「ああ!お前ら外に飲みに行ってたんだっけか。俺もいきたかったな。」
この中で明らかにぶっちぎりの年長者である武神が子どものように寂しげに漏らした。
「・・・親父、俺達は国王との会食でした。これ以上に重大なことも無いと思いますが。」
武神の向かい側でライオがやや呆れている。
「まったく、あいつはいつも急なんだよな。今晩も城で晩飯に来いって言われてるんだぜ?」
やれやれという風に武神が言った。現アルバート王国の国王と武神は旧知の仲で、若い頃は二人でよく無茶をしたと、酒に酔った武神は語っていた。
「へえー、親父すげえな。連チャンで国王と晩飯食えるのか。」
ライオの横でカエンの能天気な声がする。
「でもこの時期に王宮に連日呼ばれるのは何かあるのかな?近いうちに戦争になるとか?」
エレインがふと思い付いた懸案事項を口にする。
「うーん、昨日はそんな話は出なかったが。もしかしたら可能性は有るかもな。」
武神は難しい顔で否定しなかった。
「あ、そう言えば、アキラ達の今回の仕事って何だったんだ?」
武神がふと思い出して口を開く。
「はい、何でもロラン王国の国境付近の塔で、最近魔物が現れたとか。」
ライオがすぐに答えた。元々この朝食の場でアキラ達に説明する予定だったからだ。
「あれは古代の術士が建てたっていう塔だろ?あそこは前から魔物の巣窟じゃん。」
カエンが何の気なしに発言した。
「まあ、そうだ。あの塔には強力な結界で中から魔物が出られないようになっている。塔の中で魔物達は殺し合い、より強い魔物が残る。」
忌々しげにライオが言う。
あまり気分の良い話ではなかった。要するに、昔の術士がより強い魔物を誕生させるために、出口を塞いで魔物達に殺し合いをさせ強い魔物を産み出そうととしたのだろう。そのために塔を一つ使う、まるで神々の遊びのような様は、古の術者達の典型的な狂楽主義に思えた。
しかし結局は残った魔物を使役しようとしたが、何らかの理由で術者は居なくなった。そして過酷な食物連鎖が塔の中で長年行われてきた結果、強力な魔物が残った。その数が一匹とは限らないが、他の地域よりは厄介な魔物に違いはない。
「でも前から危険なダンジョンってことで、付近の住民は近づかないようにしてるんだろ?」
「ああ、以前はそれで問題なかったのだが。」
カエンの問いにライオは答える。その目は鋭く伏せられている。
「一昨日の夜、近くの村が魔物に襲われた。逃げ出した住民によれば、その魔物は一匹で村を蹂躙し、その後塔がある方角に飛び去っていったというのだ。」
「へえ、飛んでいくとは厄介そうだね。でもまだそれだけじゃ塔の魔物と決まってないんじゃない?」
エレインはごく当たり前の事を口にした。
この世界に魔物はたくさんいる。普通の動物が魔素を多く取り続けると、体内で魔素がやがて結晶化していき、それが核となり身体が変異する。
変異した動物のことを魔物と呼ぶ。魔物は魔素による変異で生まれることもあるが、大抵親が魔物だったら遺伝的に子も魔物になる。それはずっと昔から繰り返されているこの世界の当たり前のことだ。
空を飛べる魔物も多い。代表格は有名なドラゴンだ。
「いや、その魔物が塔の頂上部分に戻っていくのを見た者がいる。」
「それに、」
一度言葉を切ったライオは、
「被害にあった村の人間は逃げ出してきたごく少数を残して全滅だそうだ。今冒険者ギルドでも討伐部隊を編成している。それでも足りなければ恐らく王国騎士団も出動するだろう。」
言い終えるとライオは目を閉じた。何事か考えている風にも見える。
そして瞳を開き言葉を放つ。
「そこで、先行偵察の任務が俺達におりてきた。」
ライオは改めてアキラを見た。その眼光は鋭く、視られたものを萎縮させうるものだが、当のアキラは特に気負うこともなく平然としている。
「了解した。この後準備出来次第出発する。メンバーは?」
「お前とソフィー、あとエレインも連れていけ。」
ライオが言う。実際今兵団に残っているのはライオ、カエン、アキラ、ソフィー、エレイン、あと団長の武神だけだ。武神兵団は武神を含めて総勢十三名。あとの七人は其々に国の各地に任務で出払っている。
「ライオ、今回は偵察だけでいいのか?」
アキラが問う。彼の目はライオの心底を正しく理解していた。
「依頼は偵察だけだ。だがアキラ、魔物を仕留めろ。被害に遭った村人は二百名を越えている。これ以上我が国の国民を犠牲にすることは許せない。」
ライオの眼が怒りで燃え立っていた。ライオは本当の愛国者だと武神はよく言っていた。実はライオ達義理の三兄弟は皆それぞれ他国の人間だ。戦災孤児だった三人を戦場を渡り歩いていた武神が拾い、弟子にして生き抜くための力を与えた。
アキラは別にこの国に思い入れは無い。目の前で何も悪いことをしていない人間が死ぬのはなんと無く我慢できないが、この国の行く末などは知ったことではない。ただ親父である武神がこの国を助けようとしているから、武神の為に仕事をこなして貢献するだけだ。
だがライオは違った。勿論武神への忠誠心もあるが、ライオはアルバート王国を気に入っていた。元々彼らのような孤児は、拠り所となる場所を探すものかもしれない。そしてライオは本気で国の為に働きたいと思っていた。
その自国の民が魔物に蹂躙されたなどということは、彼にとっては許しがたいことだった。本当なら自ら乗り込んで殲滅してやりたいことだろう。彼には一人でも十分にやり遂げるだけの力がある。だが武神兵団の副団長の彼には武神より、万一の為に王都に詰めているようにと指示がおりている。王宮の守備隊も中々の手練れ達だが、ライオ一人よりも戦力としては弱い。彼がいれば、もしもの時にも対応できると武神は考えていた。
「了解した。魔物を仕留めてくる。」
ライオの熱意を感じとったアキラが言った。
「うむ、任務には同盟国であるロラン王国から共同の探索隊が遣わされるそうだ。」
ロラン王国とアルバート王国は同盟関係にある。国の規模も同じぐらいだが違いがあるとすれば、国土の大半がロラン王国は森林地帯になっており、森が彼等の生活の一部となっているということか。
「案内人?必要ないんじゃない?」
これはエレインが言った。塔の場所はわかっているのだし、頂上に行くという目的を達成できればそれで良いと思うが。という意図がある。
「いや、ロラン王国も塔には以前から研究者達が関心を示してきた。今回アルバート王国の人間だけで塔の古代遺産を独占させたくないという意思があるのではないかと思う。」
ライオは続けて
「我々のことはあちらも知っているだろうからな。我等が偵察部隊だと言ったら、あちらが直ぐ様共同任務を申し込んできた。」
そこまで言って、ライオはあらためてアキラに言った。
「魔物を殲滅しろ。だが注意を怠るな。魔物にも、ロラン王国にもだ。」
「了解した。」
アキラは再度そう言って食堂を出ていった。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる