明日、君に会いたい【本編完結】

白崎ぼたん

文字の大きさ
34 / 90

第三十四話 期末テストの乱

しおりを挟む
「ふんふん」

 期末テストの結果表を見下ろして、隼人はにっこり笑った。
 目標にはまだまだ達していない。今の自分じゃなかったら、きっとこの結果に打ちのめされて、立ち直れなかったかもしれない。

「でも、これも悪くないんだよ」

 落ち着いて見てみれば、全体的に平均で五点はアップしているのだ。龍堂がよく見てくれた数学に至っては、十点である。

「少しずつだけど、でも、ちゃんと前には進んでるんだよね」

 結果表をファイルに挟もうとして、後ろからひったくられる。

「うっわー! ぜーんぜん駄目じゃん!」
「一ノ瀬くん」

 振り返らなくてもわかる。ユーヤだった。ユーヤは結果表をいろんな角度から見ながら、ハンドルを切るみたいに上体をうねうねさせた。

「ダッセー! いいやつ一個もねーじゃんっ」

 と、大笑いする。そうして後ろからやってきたケンたちにそれをパスした。ケンやマオがしげしげと眺める。

「うわー悲惨。勉強してたっぽいのにこれ?」
「地頭じゃね? おいアンナ、お前のゴミ古典より下いんぞ」
「うっっせ! 流石にこれに勝っても嬉しくないわ!」

 隼人は、唇を噛みしめたが、そこで下は向かなかった。ぐっとお腹に力をこめた。そしてにゅっと手を差し出す。

「勝手に見ないでほしい。返してください」
「はー?」
「なんか、久しぶりにイキってるけど、どしたのぉ?」

 しかし、ケンたちは意に介さず、にやにやと愉しげに隼人を見た。隼人はぎゅっと見つめ返す。負けるもんか。
 しかしその視線を遮って、ユーヤが、斜めから躍り出てきた。ぬっと突き出してきた中指で、隼人の額をごんと突いた。硬い指先に、隼人は思わず目をつむりよろけた。
 
「うるせーブタ! バカがどんだけ努力しても無駄なんだから、これにこりたらリュードーに迷惑かけんなよなっ!?」

 ぎっ、と目をむいて隼人を威嚇した。隼人は、これにはムッとして言い返そうと口を開いた――

「ユーヤ、また龍堂~?」

 しかし、その言葉にひっかかったのは、隼人だけじゃないらしい。ヒロイさんが呆れたようにユーヤを見ていた。マオも、ケンも同様である。マオも成績表を隼人につっかえしながら、続ける。

「そーだよユーヤ。龍堂とかどうでもいいじゃん」

 ユーヤはマオをきっと睨みつける。薄情なやつを見る目だった。

「よくないっ! こいつがつきまとってるせいで、リュードー困ってんだぞ!? 勉強の邪魔してるしっ……俺、そういうの許せねえんだよっ!」

 ユーヤが、隼人の手にある結果表を、上に打ち上げる。結果表は、ひらひらと舞っていった。隼人は慌てて追いかける。その間も、言い合いは続いていた。

「いや、邪魔っていうか……」
「ユーヤの正義感が強いのはわかるけどー、なんでそんな龍堂なん? 俺らのグループじゃないしさ」
「そーそ、うちらはフジタカ派じゃん」
「いや、きのこたけのこみたいに言うなし」

 ヒロイさんの言葉にマオが突っ込み、笑った。張り詰めた空気が一瞬ほどけた。

「かんけーねえっ! グルとかグルじゃないとかなんだよ!? そんな打算みてーなの、俺きらいだっ!」

 しかしそれを一喝するように、ユーヤがまた怒鳴った。これにはヒロイさんもムッとして、「打算て。友達ってだけじゃん」と声を尖らせた。

「友達ってそーゆーんじゃねえだろっ」
「もーもーもー。わかったって、ゴメンて」
「どっちにしろ俺、龍堂はどーかと思うよ。からあげなんかとつるむし、案外陰キャなのかもね~」
「ね~ガッカリ」
「つるんでねえってんだるぉ!?」

 ――ダァアンッ! と、ユーヤは振りかぶって隼人の机を叩いた。くわん、くわん……と、金属の部分が反響する。これにはさすがにクラス全体がしんとなり、注目が一気に集まった。結果表を拾い、戻ってきた隼人もぽかんとして、成り行きを見守るしかない。あそこ、俺の机だけれども。
 オージが、マリヤさんを連れて、こちらにやってきた。

「いい加減にしろ。見苦しい」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...