80 / 90
第八十話 唯一の希望へ
しおりを挟む
教室の床に、横ざまに倒れこんで、悠弥は愕然としていた。殴られた衝撃で、頭が空っぽだ。その中で、オージの言葉が、ガンガンと反響していた。
『お前とかかわったすべて、後悔しかない』
何を言われたか、わからない。ただ、わかるのは、オージに裏切られたことだけだ。
「う、うあ……――ッ!」
心のままに、泣こうとして、打たれた顔が引きつった。痛みに体をけいれんさせて、悠弥は「うーっ」とうめいた。ぽろぽろと目から大粒の涙がこぼれる。泣くことさえ、自分に痛みを思いださせる。自分の体にさえ、裏切られている気がした。悠弥は打ちひしがれた。
ひどい。ひどい。ひどい。まさか、こんな目にあうなんて。もはやすべてが信じられなかった。
ずっとオージの面倒を見てきてやったのに、縁を切る時は一瞬なのだ。だから、オージなんて勝手な甘ったれ、信用できないのだ。勝手に執着して――捨てるなんて。人間の屑以下といっても過言ではなかった。くそったれ、くそったれ、くそったれ。
それなのに、信じて、頼ってあげて――馬鹿みたいだ。自分は何度、こんなことを繰り返してしまうんだろう。
オージごときに、心をかけるんじゃなかった。あんなボッチのゴミに……それでも、オージが好きだから。だから、自分は今こんなに、体が八つ裂きになるより苦しい痛みにもだえている。
それでも、自分は、人を好きだから。きっとまた繰り返すんだ。床に仰向けになって、胸を上下させ泣いた。
「ひっ、ひっ……」
苦し気な息が漏れて――まさに自分だと思った。
人の好さで身を滅ぼすなんてふざけた世の中。世の中の方が滅べばいいのに。
「リュードォオ……」
切ない声音で、悠弥は龍堂を呼んだ。
もう、自分には龍堂しかいない。そんなこと、とっくの昔にわかりきっていたけれど、オージへの友情で、踏み切れなかった。
でも、オージとの縁は切れた。切られた――なら、もう、我慢しない。
うる、と盛り上がった涙をそのままに、悠弥は走り出した。顔が痛いだけで、走りにくい。それでも。
「リュードオオオオオ……!」
愛しい人に向かって、この足は止められない。
裏切られた、なんて、うそだ。辛すぎてそんな風に怒ってしまったけれど、本当はわかっている。龍堂は裏切ってない。あいつがだましてるんだって。
――だから、たすけてあげなきゃ。つらくても……。
悠弥は、ぎゅっと胸の痛みをこらえた。自分の愛情深さに、震えが走る。そこで、ぴしりと天啓が走る。
――ううん、もしかすると、龍堂は。
悠弥の気持ちを確かめようとしているのかもしれない。自分が、オージのことばっかり、構わなきゃいけなかったから。
それは憶測だったが、確信に近かった。だって、龍堂は優しくて、さみしがり屋だ。自分と同じでだから――悠弥は口角を上げる。
ばか、ばかばか、リュードー、おれはおまえだけなのに。
悠弥は地面を蹴る。はあはあと上がる息さえ、楽しくなってきた。
でも、おれもばかだ。リュードーに怒っちゃった。悠弥は胸が痛くなる。
龍堂は、自分と同じで優しいから、勘違いしてべたついてくるボッチのことを、振り切れなかったに違いない。それでも龍堂は、あいつを口実に、自分に会いに来てくれていたのに。
なのに、自分は疑って。不安だと、愛情を試したくなる気持ちは、すごくわかるのに。龍堂も自分も、独りぼっちだから。
ううん、違う――もしかしたら、龍堂は、ずっと悠弥を守ってくれていたのかもしれない。
だって、あいつはずっと、悠弥に嫌がらせをしてきたストーカーだ。あいつをこっぴどく拒絶したら、悠弥はどんな目にあっていたかわからない。だから、あんな奴と友達のふりをして悠弥を守っていてくれたのかも――。
そういえば、さっき自分を拒絶した龍堂の目に、悲しみが込められていなかったか。気づいて、って言っていなかったか。あいつは図々しく、勝ち誇っていたけど。自分にはわかる。本当に、龍堂が好きだから。
「リュードー、ごめんッ……!」
ずっと、友達だったのに。龍堂は、素直じゃないけど、自分を大切にしてくれたのに。
いつの間にか、自分たちは、すれ違ってしまっていた。自分たちに張り付く、ストーカーのせいで。
ごめん、ごめん、龍堂。
今こそ、龍堂を信じないで誰が信じてやるんだ。龍堂には、自分しかいないんだから。自分がそうなように。自分たちは唯一無二なのだ。
リュードー、あのね。ぼく、すごい辛いことがあったの。ずっとだいすきだった友達に、うらぎられたんだよ……?べつに、ひとに、うらぎられるの、はじめてじゃないけど。こいつだけは、うらぎらないって信じてたんだあ……ひどいよね?
龍堂の優しい、ハスキーな低音が、頭の中で甘くこだまする。
――辛かったな、一ノ瀬――
「はあ、はあ……リュードーッ!」
はやく、抱きしめて、ぼくのこと慰めて。たっくさん、甘やかしてね。ね?
ぼくも、リュードーのこと、つらかったねって、抱きしめてあげるから……ッ!
悠弥は恍惚に笑いながら、走っていた。体育館は、もはや目前に迫っていた。
『お前とかかわったすべて、後悔しかない』
何を言われたか、わからない。ただ、わかるのは、オージに裏切られたことだけだ。
「う、うあ……――ッ!」
心のままに、泣こうとして、打たれた顔が引きつった。痛みに体をけいれんさせて、悠弥は「うーっ」とうめいた。ぽろぽろと目から大粒の涙がこぼれる。泣くことさえ、自分に痛みを思いださせる。自分の体にさえ、裏切られている気がした。悠弥は打ちひしがれた。
ひどい。ひどい。ひどい。まさか、こんな目にあうなんて。もはやすべてが信じられなかった。
ずっとオージの面倒を見てきてやったのに、縁を切る時は一瞬なのだ。だから、オージなんて勝手な甘ったれ、信用できないのだ。勝手に執着して――捨てるなんて。人間の屑以下といっても過言ではなかった。くそったれ、くそったれ、くそったれ。
それなのに、信じて、頼ってあげて――馬鹿みたいだ。自分は何度、こんなことを繰り返してしまうんだろう。
オージごときに、心をかけるんじゃなかった。あんなボッチのゴミに……それでも、オージが好きだから。だから、自分は今こんなに、体が八つ裂きになるより苦しい痛みにもだえている。
それでも、自分は、人を好きだから。きっとまた繰り返すんだ。床に仰向けになって、胸を上下させ泣いた。
「ひっ、ひっ……」
苦し気な息が漏れて――まさに自分だと思った。
人の好さで身を滅ぼすなんてふざけた世の中。世の中の方が滅べばいいのに。
「リュードォオ……」
切ない声音で、悠弥は龍堂を呼んだ。
もう、自分には龍堂しかいない。そんなこと、とっくの昔にわかりきっていたけれど、オージへの友情で、踏み切れなかった。
でも、オージとの縁は切れた。切られた――なら、もう、我慢しない。
うる、と盛り上がった涙をそのままに、悠弥は走り出した。顔が痛いだけで、走りにくい。それでも。
「リュードオオオオオ……!」
愛しい人に向かって、この足は止められない。
裏切られた、なんて、うそだ。辛すぎてそんな風に怒ってしまったけれど、本当はわかっている。龍堂は裏切ってない。あいつがだましてるんだって。
――だから、たすけてあげなきゃ。つらくても……。
悠弥は、ぎゅっと胸の痛みをこらえた。自分の愛情深さに、震えが走る。そこで、ぴしりと天啓が走る。
――ううん、もしかすると、龍堂は。
悠弥の気持ちを確かめようとしているのかもしれない。自分が、オージのことばっかり、構わなきゃいけなかったから。
それは憶測だったが、確信に近かった。だって、龍堂は優しくて、さみしがり屋だ。自分と同じでだから――悠弥は口角を上げる。
ばか、ばかばか、リュードー、おれはおまえだけなのに。
悠弥は地面を蹴る。はあはあと上がる息さえ、楽しくなってきた。
でも、おれもばかだ。リュードーに怒っちゃった。悠弥は胸が痛くなる。
龍堂は、自分と同じで優しいから、勘違いしてべたついてくるボッチのことを、振り切れなかったに違いない。それでも龍堂は、あいつを口実に、自分に会いに来てくれていたのに。
なのに、自分は疑って。不安だと、愛情を試したくなる気持ちは、すごくわかるのに。龍堂も自分も、独りぼっちだから。
ううん、違う――もしかしたら、龍堂は、ずっと悠弥を守ってくれていたのかもしれない。
だって、あいつはずっと、悠弥に嫌がらせをしてきたストーカーだ。あいつをこっぴどく拒絶したら、悠弥はどんな目にあっていたかわからない。だから、あんな奴と友達のふりをして悠弥を守っていてくれたのかも――。
そういえば、さっき自分を拒絶した龍堂の目に、悲しみが込められていなかったか。気づいて、って言っていなかったか。あいつは図々しく、勝ち誇っていたけど。自分にはわかる。本当に、龍堂が好きだから。
「リュードー、ごめんッ……!」
ずっと、友達だったのに。龍堂は、素直じゃないけど、自分を大切にしてくれたのに。
いつの間にか、自分たちは、すれ違ってしまっていた。自分たちに張り付く、ストーカーのせいで。
ごめん、ごめん、龍堂。
今こそ、龍堂を信じないで誰が信じてやるんだ。龍堂には、自分しかいないんだから。自分がそうなように。自分たちは唯一無二なのだ。
リュードー、あのね。ぼく、すごい辛いことがあったの。ずっとだいすきだった友達に、うらぎられたんだよ……?べつに、ひとに、うらぎられるの、はじめてじゃないけど。こいつだけは、うらぎらないって信じてたんだあ……ひどいよね?
龍堂の優しい、ハスキーな低音が、頭の中で甘くこだまする。
――辛かったな、一ノ瀬――
「はあ、はあ……リュードーッ!」
はやく、抱きしめて、ぼくのこと慰めて。たっくさん、甘やかしてね。ね?
ぼくも、リュードーのこと、つらかったねって、抱きしめてあげるから……ッ!
悠弥は恍惚に笑いながら、走っていた。体育館は、もはや目前に迫っていた。
10
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年後。
静は玲に復讐するために近づくが…
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる