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第八十一話 振りあげた拳
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始業式が終わって、人波が流れ出す。隼人は隣の列の、龍堂のもとへ行った。龍堂も隼人と同じ考えだったようで、二人は中間地点で向かい合う。目を合わせて、どちらからともなく笑いあうと、外へ向かった。
「どけーっ!」
下駄箱で上履きに履き替えていると、何やら騒がしい。龍堂と隼人は顔を見合わせ、ざわめきの方へと視線をやった。人の波がざっと分けられたその先で、きょろきょろと辺りを見回す人影がひとつ。
「リュードー!」
ユーヤだった。ユーヤは息をきらして、肩を上下させ、龍堂を探していた。大きく開かれた目はらんらんと輝いていた。
その尋常じゃない様子に、隼人は目を見開く。さっと龍堂を背に庇った。
始業式に出ていないとは、思っていたけれど、いったい何があったんだろう。
ユーヤの片頬は、赤くはれ、口元から血がにじんでいる。その痛々しさに、苦いものが走った。ユーヤは、笑っていた。きょろきょろと大きく体を横にふって、そして、とうとうこちらをとらえた。
「リュードー!」
ユーヤは顔を輝かせて、龍堂に向かって走ってきた。隼人は思わず、前に躍り出る。「中条!」と、龍堂が焦った声で、隼人を呼んだ。
「リュードー!」
隼人のことは見えていないようだった。隼人を横ざまに突き飛ばすと、龍堂にタックルする。隼人は、地面にたたきつけられたが、いそぎ身を起こして、「龍堂くん」と叫んだ。ユーヤが龍堂に抱き着いていた。龍堂はユーヤを押しのける。しかし、ユーヤはもがいて、龍堂の腕に組み付いた。
「離せ!」
「リュードー!ごめんなっ!おれ、信じてあげられなくてっ……!」
龍堂の拒絶に、いやいやするように、涙声でユーヤは叫んだ。その声は、甘い優しい響きを持っていた。隼人は後ろからユーヤのシャツをつかんだ。
「離して!」
「こいつに騙されてるんだよな!犠牲になってくれてたんだよな!おれを守るために……っ!」
ユーヤは後ろに足を振り、隼人を蹴り飛ばした。隼人は痛みにうめいたが、お腹に力をいれて、シャツを握る手に力をこめた。龍堂が「中条」と叫ぶ。ユーヤの手を腕から引き離す。きつくにらみ下ろした。
「離せ。二度目はないと言ったぞ」
ぎり、と手首を握られて、ユーヤはびくりと身を震わせた。がたがたと震え、「ふえ」と涙をこぼす。きっと目に力をこめた。
「ううっ……ばかばか、リュードー!」
ユーヤは泣きながら、龍堂の胸に飛び込もうとする。
「でもっ信じてる!もーいいんだリュードー……!おれ、強くなるからっ!一緒に戦うからっ!だから、こんなやつのいうこと聞かないで……!」
大絶叫だった。いっそ悲痛ととれる響きに、あたりはしんとなる。二メートルほど離れたところで、生徒たちはこの一切を見ていた。その目には、いっそ恐怖があった。
隼人も、この状況におびえないはずはなかった。でも、それよりも、大きなものが、隼人を突き動かしていた。
「いい加減にしろーっ!さっきから、なんなんだ!」
ユーヤのお腹に、後ろから手を回し、ぐい、と後ろに倒れこむ勢いで引っ張った。
「意味わかんないこと言って!龍堂くんから離れろ!」
ユーヤは一切を知らないふりで、「やだっリュードー!」と叫んでいる。龍堂の腕に食いつこうとしたのを見て、隼人もかっとなる。
「やめろ!これ以上龍堂くんに、なにかしたら許さないぞ!」
龍堂の腕には、ユーヤの立てた爪の跡が残っていた。痛々しい傷に、怒りでいっぱいになる。
これ以上、友達を、傷つけさせてたまるか。万力の力で後ろに倒れこみ、隼人はユーヤを引きはがした。ばたん、とコンクリの地面に倒れこむ。痛みや重みを感じるよりも、気持ちでいっぱいだった。
「中条!」
「へいき!龍堂くん、今のうちに逃げて!」
あたりはそこで息を吹き返したように、騒ぎ出す。ユーヤはわあわあと叫んで、泣いて、隼人の上でばたばたともがいた。隼人の腕をむちゃくちゃにひっかき、にじる。背後に向かい、肘をいれてくる。
「中条、ごめん!」
龍堂は、ユーヤの胸倉をつかみあげ、隼人から引きはがした。隼人の上から、重みがどく。ユーヤは笑顔で、腕を伸ばした。
「リュードー!リュードーオオオ!おれ、一緒に戦うからっ!ぼくたち、ずっと友達だからっ……!だから、もういいからっ!こいつぶっとばそ――」
――龍堂が、拳を振り上げたのが。
ユーヤの背中ごしに見えた。
「どけーっ!」
下駄箱で上履きに履き替えていると、何やら騒がしい。龍堂と隼人は顔を見合わせ、ざわめきの方へと視線をやった。人の波がざっと分けられたその先で、きょろきょろと辺りを見回す人影がひとつ。
「リュードー!」
ユーヤだった。ユーヤは息をきらして、肩を上下させ、龍堂を探していた。大きく開かれた目はらんらんと輝いていた。
その尋常じゃない様子に、隼人は目を見開く。さっと龍堂を背に庇った。
始業式に出ていないとは、思っていたけれど、いったい何があったんだろう。
ユーヤの片頬は、赤くはれ、口元から血がにじんでいる。その痛々しさに、苦いものが走った。ユーヤは、笑っていた。きょろきょろと大きく体を横にふって、そして、とうとうこちらをとらえた。
「リュードー!」
ユーヤは顔を輝かせて、龍堂に向かって走ってきた。隼人は思わず、前に躍り出る。「中条!」と、龍堂が焦った声で、隼人を呼んだ。
「リュードー!」
隼人のことは見えていないようだった。隼人を横ざまに突き飛ばすと、龍堂にタックルする。隼人は、地面にたたきつけられたが、いそぎ身を起こして、「龍堂くん」と叫んだ。ユーヤが龍堂に抱き着いていた。龍堂はユーヤを押しのける。しかし、ユーヤはもがいて、龍堂の腕に組み付いた。
「離せ!」
「リュードー!ごめんなっ!おれ、信じてあげられなくてっ……!」
龍堂の拒絶に、いやいやするように、涙声でユーヤは叫んだ。その声は、甘い優しい響きを持っていた。隼人は後ろからユーヤのシャツをつかんだ。
「離して!」
「こいつに騙されてるんだよな!犠牲になってくれてたんだよな!おれを守るために……っ!」
ユーヤは後ろに足を振り、隼人を蹴り飛ばした。隼人は痛みにうめいたが、お腹に力をいれて、シャツを握る手に力をこめた。龍堂が「中条」と叫ぶ。ユーヤの手を腕から引き離す。きつくにらみ下ろした。
「離せ。二度目はないと言ったぞ」
ぎり、と手首を握られて、ユーヤはびくりと身を震わせた。がたがたと震え、「ふえ」と涙をこぼす。きっと目に力をこめた。
「ううっ……ばかばか、リュードー!」
ユーヤは泣きながら、龍堂の胸に飛び込もうとする。
「でもっ信じてる!もーいいんだリュードー……!おれ、強くなるからっ!一緒に戦うからっ!だから、こんなやつのいうこと聞かないで……!」
大絶叫だった。いっそ悲痛ととれる響きに、あたりはしんとなる。二メートルほど離れたところで、生徒たちはこの一切を見ていた。その目には、いっそ恐怖があった。
隼人も、この状況におびえないはずはなかった。でも、それよりも、大きなものが、隼人を突き動かしていた。
「いい加減にしろーっ!さっきから、なんなんだ!」
ユーヤのお腹に、後ろから手を回し、ぐい、と後ろに倒れこむ勢いで引っ張った。
「意味わかんないこと言って!龍堂くんから離れろ!」
ユーヤは一切を知らないふりで、「やだっリュードー!」と叫んでいる。龍堂の腕に食いつこうとしたのを見て、隼人もかっとなる。
「やめろ!これ以上龍堂くんに、なにかしたら許さないぞ!」
龍堂の腕には、ユーヤの立てた爪の跡が残っていた。痛々しい傷に、怒りでいっぱいになる。
これ以上、友達を、傷つけさせてたまるか。万力の力で後ろに倒れこみ、隼人はユーヤを引きはがした。ばたん、とコンクリの地面に倒れこむ。痛みや重みを感じるよりも、気持ちでいっぱいだった。
「中条!」
「へいき!龍堂くん、今のうちに逃げて!」
あたりはそこで息を吹き返したように、騒ぎ出す。ユーヤはわあわあと叫んで、泣いて、隼人の上でばたばたともがいた。隼人の腕をむちゃくちゃにひっかき、にじる。背後に向かい、肘をいれてくる。
「中条、ごめん!」
龍堂は、ユーヤの胸倉をつかみあげ、隼人から引きはがした。隼人の上から、重みがどく。ユーヤは笑顔で、腕を伸ばした。
「リュードー!リュードーオオオ!おれ、一緒に戦うからっ!ぼくたち、ずっと友達だからっ……!だから、もういいからっ!こいつぶっとばそ――」
――龍堂が、拳を振り上げたのが。
ユーヤの背中ごしに見えた。
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