明日、君に会いたい【本編完結】

白崎ぼたん

文字の大きさ
81 / 90

第八十一話 振りあげた拳

しおりを挟む
 始業式が終わって、人波が流れ出す。隼人は隣の列の、龍堂のもとへ行った。龍堂も隼人と同じ考えだったようで、二人は中間地点で向かい合う。目を合わせて、どちらからともなく笑いあうと、外へ向かった。

「どけーっ!」

 下駄箱で上履きに履き替えていると、何やら騒がしい。龍堂と隼人は顔を見合わせ、ざわめきの方へと視線をやった。人の波がざっと分けられたその先で、きょろきょろと辺りを見回す人影がひとつ。

「リュードー!」

 ユーヤだった。ユーヤは息をきらして、肩を上下させ、龍堂を探していた。大きく開かれた目はらんらんと輝いていた。
 その尋常じゃない様子に、隼人は目を見開く。さっと龍堂を背に庇った。
 始業式に出ていないとは、思っていたけれど、いったい何があったんだろう。
 ユーヤの片頬は、赤くはれ、口元から血がにじんでいる。その痛々しさに、苦いものが走った。ユーヤは、笑っていた。きょろきょろと大きく体を横にふって、そして、とうとうこちらをとらえた。

「リュードー!」

 ユーヤは顔を輝かせて、龍堂に向かって走ってきた。隼人は思わず、前に躍り出る。「中条!」と、龍堂が焦った声で、隼人を呼んだ。

「リュードー!」

 隼人のことは見えていないようだった。隼人を横ざまに突き飛ばすと、龍堂にタックルする。隼人は、地面にたたきつけられたが、いそぎ身を起こして、「龍堂くん」と叫んだ。ユーヤが龍堂に抱き着いていた。龍堂はユーヤを押しのける。しかし、ユーヤはもがいて、龍堂の腕に組み付いた。

「離せ!」
「リュードー!ごめんなっ!おれ、信じてあげられなくてっ……!」

 龍堂の拒絶に、いやいやするように、涙声でユーヤは叫んだ。その声は、甘い優しい響きを持っていた。隼人は後ろからユーヤのシャツをつかんだ。

「離して!」
「こいつに騙されてるんだよな!犠牲になってくれてたんだよな!おれを守るために……っ!」

 ユーヤは後ろに足を振り、隼人を蹴り飛ばした。隼人は痛みにうめいたが、お腹に力をいれて、シャツを握る手に力をこめた。龍堂が「中条」と叫ぶ。ユーヤの手を腕から引き離す。きつくにらみ下ろした。

「離せ。二度目はないと言ったぞ」

 ぎり、と手首を握られて、ユーヤはびくりと身を震わせた。がたがたと震え、「ふえ」と涙をこぼす。きっと目に力をこめた。

「ううっ……ばかばか、リュードー!」

 ユーヤは泣きながら、龍堂の胸に飛び込もうとする。

「でもっ信じてる!もーいいんだリュードー……!おれ、強くなるからっ!一緒に戦うからっ!だから、こんなやつのいうこと聞かないで……!」

 大絶叫だった。いっそ悲痛ととれる響きに、あたりはしんとなる。二メートルほど離れたところで、生徒たちはこの一切を見ていた。その目には、いっそ恐怖があった。
 隼人も、この状況におびえないはずはなかった。でも、それよりも、大きなものが、隼人を突き動かしていた。

「いい加減にしろーっ!さっきから、なんなんだ!」

 ユーヤのお腹に、後ろから手を回し、ぐい、と後ろに倒れこむ勢いで引っ張った。

「意味わかんないこと言って!龍堂くんから離れろ!」

 ユーヤは一切を知らないふりで、「やだっリュードー!」と叫んでいる。龍堂の腕に食いつこうとしたのを見て、隼人もかっとなる。

「やめろ!これ以上龍堂くんに、なにかしたら許さないぞ!」

 龍堂の腕には、ユーヤの立てた爪の跡が残っていた。痛々しい傷に、怒りでいっぱいになる。
 これ以上、友達を、傷つけさせてたまるか。万力の力で後ろに倒れこみ、隼人はユーヤを引きはがした。ばたん、とコンクリの地面に倒れこむ。痛みや重みを感じるよりも、気持ちでいっぱいだった。

「中条!」
「へいき!龍堂くん、今のうちに逃げて!」

 あたりはそこで息を吹き返したように、騒ぎ出す。ユーヤはわあわあと叫んで、泣いて、隼人の上でばたばたともがいた。隼人の腕をむちゃくちゃにひっかき、にじる。背後に向かい、肘をいれてくる。

「中条、ごめん!」

 龍堂は、ユーヤの胸倉をつかみあげ、隼人から引きはがした。隼人の上から、重みがどく。ユーヤは笑顔で、腕を伸ばした。

「リュードー!リュードーオオオ!おれ、一緒に戦うからっ!ぼくたち、ずっと友達だからっ……!だから、もういいからっ!こいつぶっとばそ――」

 ――龍堂が、拳を振り上げたのが。
 ユーヤの背中ごしに見えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年後。 静は玲に復讐するために近づくが…

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

処理中です...