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第二部 一章
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しおりを挟む入学式まであと少し。
学校生活の事前準備が終わり、ようやく落ち着き自由な時間ができ始めた。
学校生活が始まる前にサン国の出来事の報告とこれからの挨拶をしに行こうと、ソムファ侯爵家を訪ねていた。
「お久しぶりです、ローゼ叔母様」
「シーナ!元気そうで何よりだわ」
いつもの応接室で叔母様は迎えてくれた。
キナは初めて訪れる場所に少し緊張をしていたが…。
「色々大変だったと、手紙でお兄様から聞いたわ」
「はい……。ですが無事に終える事ができました」
「えぇ。本当に良かった」
心底安心した様に微笑む叔母様を見ると、本当の娘のように思われてるんだと改めて実感できる。同時に、心配かけてしまったという申し訳なさも込み上げてくる。
「……でも驚いたわ」
「何がですか?」
「シーナが一人で来たことよ。よく陛下が許したわね。婚約も決まったのなら想いが通じ合ったということでしょう?そんな状況で反対されなかったのかしら」
「あぁ……」
思い出す朝の出来事───。
❖❖❖
馬車の前にて。
『では行くぞ、フィナ』
いつの間にか隣にセドが隣に立っていた。
『……お仕事は終わったのですか?』
『大丈夫だ。シトに任せてある』
『本当に?』
『俺を疑うのか?』
疑いたくは無いが、今セドにとって最も忙しい時期の筈だ。何せ、入学するまでにシトさんにかける負担を減らす為に膨大な量の仕事を処理しているのだから。そして、ルーカス曰くそれは入学する直前までかかるらしい。
『………』
いくらセドでもこんなに早く終わる筈がない。セドはごまかしが通じると思っているのか今にでも馬車に乗り込むつもりだ。
『疑いたくはありませんが、必然的にそうなるような行動をしているのはセドの方でしょう?』
『………………………………………………』
『できるだけ早く帰ってきますから』
『……それくらいなら行かないでくれ』
いつの間にかセドの腕の中にすっぽりと収まっていた。想いが通じ合ってからというもの、距離がどんどん近くなっていく。
『困った我が儘ですね……』
思わず苦笑する。一体どうすればこの場を上手く切り抜けられるか考え出すが、良い案が浮かばない。
『…………』
だからといって、ここで侯爵家に行くのを止める訳にも行かない。
こうなれば、セドの気を散らすしかない。生憎、簡単なことに引っ掛かってくれるとは思っていない。……私は恥を忍んで、セドの首に顔を近づけた。
『!!』
『…………いつぞやのお返しです』
真っ赤になっている顔を見られたくなくて、セドの胸に顔を埋める。
たいした力でつけれてはいないけど、ほんのり赤く変色してるのが見えた。
『……消えるまでには帰ってきますから』
それがどれくらいかかるかなんてわからないけど、他に言葉が見当たらなかった。
『で、では!いってきますから!!』
『……あ、あぁ……』
無事、気をそらすことに成功した。そればかりか予想外の私の行動にセドは動揺し続けていた。その隙にと言わんばかりに馬車に乗り込み、出発したのであった。
❖❖❖
……という事を手短に叔母様に説明した。
「……シーナも苦労してるわね」
「い、いや……」
「これが慣れてしまえば楽なのだけどね。先は長いわ」
「………」
思い出してまた赤くなってしまう。
その様子を見た叔母様は苦笑混じりに微笑んだ。
「うちの主人も愛が重いけど……陛下は比べ物にならないでしょうね」
「………いや、そんな事は」
「あるわよ。……気をつけて、そして頑張ってね。いつでも相談には乗るわ」
「ありがとうございます」
叔母様はいつも私に元気をくれる。もはや偉大な先輩だ。
「…ところで、そちらの侍女はゼロ国の方?」
「いいえ。幼少期から私の専属のキナといいます」
「まぁ………ゼロ国には慣れた?」
「え……」
目でキナに答えて大丈夫よ、と伝える。
「は、はい。とても新鮮な事ばかりですが、大体は慣れました」
「そう、なら良かったわ。……案外テリジア家で過ごしている人間はゼロ国は肌に合うのかもしれないわね?」
「そうですね」
「キナ、困ったことがあればすぐに頼ってちょうだい。貴女がゼロ国にいる間、お兄様の代わりに私が面倒を見るから」
「ありがたきお言葉にございます」
「まだこの国に関してわからないことも多いでしょうけど────」
叔母様が話し始めたその瞬間、扉が開いた。
「ローゼ!!!」
もはやお決まりといった展開だろう。
目の前に広がる光景は、キナにとっては初めての出来事でさすがに驚いている。
その反応、凄くよくわかる。
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