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第二部 一章
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しおりを挟むそれから直ぐに、シンが到着して応接室へと来た。
「シーナ!待たせたわね、ごめんなさい」
「そんな事ないよ。わざわざありがとう」
手招きをするシンの方へ行く。
「別室で話しましょう」
「えっと、お二方は……」
「大丈夫よ。任せて」
そうウィンクをすると、二人に向けて大きな声で告げ始めた。
「と言う訳で、シーナはあたしと過ごすから。母様、せっかくの記念日なんだから父様と仲良くね!…じゃあ失礼するわ」
「あ、失礼します!」
シンに続いて礼を取る。
顔を上げ、別室に向かうシンの後をついて行った。
「さっきの部屋よりは狭いんだけど……さ、座って」
「ありがとう」
応接室から少し離れたこの部屋は日当たりがそこまで良くない為に、掃除はされているがあまり使われていない様だった。
「ねぇ、シン」
「ん、何?」
「ごめんなさい。その、記念日って知らなくて」
侯爵が早く仕事を終わらせたのが少し不思議だったが、まさか記念日だったとは思わなかった。
「シーナが謝ることじゃないわよ。だって恐らく今日が記念日って母様でさえ忘れてるもの」
「え?」
大事な記念日を忘れるって…。
叔母様は意外に抜けている人なのだろうか。
「今日は記念日といっても、結婚記念日とか入籍記念とかじゃ無いのよ」
「そうなの…」
「そういう大事な記念日は母様も絶対覚えてる。……今日はね、父様と母様が初めて出会った日なのよ。……言い方を変えれば、父様が母様という番を見つけた記念日ね」
「なるほど」
「父様はロマンチストな所あるから、記念日を細かく付けてるんだけど……母様はそうではないから、忘れてるのも仕方ないわ。……シーナの訪問が今日って聞いたときから母様が忘れてる事は確信してたんだけどね」
苦笑混じりに語るシン。
「でも、結局お邪魔しちゃったわ」
「いいのよ。毎年この日はこんなんだもの。いい加減母様もこの日が記念日っていうのを覚えてほしいわ」
「そうなのね」
という事はシンは毎年仲裁をしているのだろう。シンはシンで大変だ。
「って、そんな話しに来たんじゃ無いわよ。シーナに言いたい事たくさんあるんだから」
「それはそれは…」
「まずは本当お疲れ様」
「うん、ありがとう」
サン国での出来事を、簡潔に伝える。
シンは何をしていたのか聞けば、ガッツリ仕事だったそう。
「で、これから学校に通うのでしょう?良かったわね」
「ありがとう。ニナ先生にも基礎は完璧だって言ってくれたから、学校が楽しみ」
「えぇ。楽しんでらっしゃい」
「うん!」
ニナ先生に、学園での舞踊は応用から始まると言われていたが、シーナなら余裕ねと笑顔で言われたので少し緊張が取れた。
「それよりシーナ」
「ん?」
「その……陛下とは大丈夫?」
こういう心配してくれる所が凄く叔母様に似てる。
「大丈夫よ。想いが通じ合ってからは何というか距離が一気に近づいたけれど。それでも、私に合わせてくれてるの」
「あら………それなら安心ね」
「う、うん」
再び今朝の事を思い出して赤面してしまう。
「その様子を見る限り本当に大丈夫そうね!?」
「え、あ、うん!」
顔色が戻ると、シンは穏やかな口調で心情を言葉にした。
「何はともあれ、シーナが幸せならそれでいいのよ。それが一番大事なんだから」
「……ありがとう、シン」
「あら。なにもしてないわよ?」
「たくさんしてくれたよ」
「ふふ。それならした甲斐があったというものね」
「えぇ。本当に」
お互いに目を合わせて笑うと、思いが通じ合っている気がして嬉しかった。
色々と気遣うシンにお礼を告げて、王城へ帰る支度をした。その最中、シンは兄に呼ばれてしまい、この部屋内で別れの挨拶をした。その後の見送りは、仲直りしたであろう叔母様と侯爵にされたのであった。
王城に到着したのはお昼前だった。
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