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二章
20
しおりを挟む城下の入り口にはあっという間に着いた。
以前シンと暮らしていた場所とは反対の部分にいた。
「城下のこちら側に来るのは初めてか?」
「えぇ。以前いた場所とはまた違う雰囲気で…とても素敵」
こちら側は少しレトロで大人な雰囲気が出ていた。比較的落ち着いた色味の建築物が多い。
「気に入ってくれたならよかった。ここは城下の中でも一番のお気に入りなんだ」
そんな大切な所に連れてきて貰えたことに小さな喜びを感じる。
「そうなんですね……でも、確かに雰囲気がセドっぽく思います。大人な感じが」
「そうか?フィナに言われると嬉しいな」
シンと暮らしていた場所はもっと賑やかだった気がする。比べてここは静かで、とても落ち着ける場所だ。
「ではフィナ。歩いて回ろうと思うが、何か気になる事や入ってみたい建物があれば直ぐに言ってくれ」
「わかりました」
こうしてセドによる城下案内か始まった。セドが長らく治めてきた場所であるが故に凄く細かい所まで知っていた。
セドは幼い頃、周りの目を盗んでは何度かシトさんと城下へ遊びに来たこともあるようだった。
仲のよさが見えるエピソードに思わずほっこりした。
一通り案内を終えると、広場の隅にあるベンチに腰を下ろした。
「学校生活は楽しいか、フィナ」
「えぇ、とても」
「それなら良かった」
安堵の声色で微笑む反面、どこか寂しさも感じられた。その表情に心当たりがあり、申し訳なさが込み上げてくる。
「セド、その……あまり二人の時間が取れなくてすみません」
学校内ではセドが配慮してくれたおかげか、不用意に近づくことはしなかった。適切な距離を保ってくれたことで周りから不思議な目を向けられることもなかった。
だが、舞踊専攻の課題が多く自主練習を含めて、王城に戻ると練習室へこもることが自然と多くなってしまった。セドは気を遣って見守っていてくれたが、それが本心の一部でしかないことは感じている。
「気にするな。元々フィナはまだ、学ぶ歳だろう。留学生としての役目も果たそうと努力が見れる」
私からすれば、自分は婚約者を放り出して舞踊に打ち込む人間だというのに、セドはいつも美化してくれる。
「それに、今日こうして二人で過ごせた」
今度は心からの笑みが見られた。
そう感じて、心が暖かくなる。
ふと、気づいた。
セドは私にこんなにもたくさん何かをしてくれているのに、自分は何もしてあげれていないと。
「……セド、何か願いはありませんか!」
「ど、どうしたフィナ」
「いえ、学校生活中は私のわがままにたくさん付き合っていただきました。なので、ここからはセドの番です」
「俺の?」
「はい。私が叶えられるものには限度がありますが、夏休みの間はセドが私をこき使ってください。振り回してくれて一向に構いません!」
「…………本当に、何でも?」
「もちろん!」
「それは……嬉しいな」
深まるその笑みは、久しぶりにセドの雰囲気に妖艶さを重ねる。ぞくりと背筋が震えるほど美しくも妖しげな笑顔を見て、私は少し後悔した。
そして夏休みに入ると、その後悔は正しいものとなる。
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