フラグを折ったら溺愛されました

咲宮

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三章

30 side シトラウル

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 王城滞在を決め、国王代理のために引き継ぎに奔走する日々。

 第二王子として育てられてきた分、代理であれば務められる。問題を起こさないためにも引き継ぎは完璧に行わなくてはならない。そう思って頑張っていたが、ある日兄様が壊れた。


 その日はいつものように書類とにらめっこをしていたが、疑問点が浮かび兄様に聞こうと書斎へ向かった。

 扉をノックするも反応がない。
 まぁ、恐らく集中しているのかと考えて扉を開ける。後ろには紅茶を用意したルーカスが立っている。

「入るよ兄様。この政策について聞きたいことがあるんだけれど───」

「……………」

「………何してるの」

「……ふふっ」

 鏡越しで自分を見つめるという奇行を取る兄を見て、異常事態を察する。

「えっ。……おい、ルーカス。兄様が壊れた」

「みたいですね。如何いたしましょう。宮医を呼びますか」

「そうだね、そうした方が……」

 恐らく何か変なものでも食べたのだろう。それか、ここのところ根を詰めすぎて脳が蒸発したとか。

 色々と考えを巡らすうちに、兄様から声がかかった。
 
「シト、ルーカス」

「何?」

「どうなされましたか、陛下」

「フィナが可愛すぎる」

「………はい?」

「………そうですか」

 今、もしかして兄様は惚気たのか。兄様が。いや、本当に?

 疑問が一気に通りすぎるも、理性的に答える。

「何があったかわからないけれど、シーナが困ることをしないようにね」

 その言葉に頷くルーカス。

「大丈夫だ、された側だからな」

「……そう」

 兄様をここまで壊れさせるなんて、一体シーナは何をしたんだろう。

「…………番は凄いね」

 思わず呟いてしまう。

「今まで見たことない顔になってるよ兄様。惚気顔とか、一生見ないと思ってたけど。普段の国王としての姿が強いから余計に差が激しい表情には驚きだな。ねぇ、ルーカス」

 嬉しさを大きく噛み締めながら、兄様に率直な感想を述べる。

「そうですね。長年お側に仕えさせていただきましたが、ここまで他者か見てわかるほど幸福を実感されてる陛下は初めてにございます」

 表には一切出さないが、ルーカスも嬉しそうだった。

「そう、か?」

「そうだよ」

「間違いないかと」

 
「これからもっと幸せになってくれないと」

「はい、陛下の幸福を願います」

 今まで想像を絶する苦労をしてきた分は必ず幸せになってもらわないと。その為にも自分にできることをしようと、改めて決意をする。

 それと同時に苦笑いをしながら兄様に軽く忠告をした。

「それでもさっきの顔は、その、うん。凄かったなと思うよ。でも、外でやらないように」

「同意見にございます」

 正直言って臣下に見せていい顔ではないということをルーカスも感じていたようだ。

「……するわけないだろう」

 照れながらも元に戻る兄様は何だか面白かった。こんなにも珍しい兄様を見ることができて、かなりの得をした気分だ。

 その後はしっかりと本題に入ることができた。

 かなり気になったので、あの後シーナに兄様に何かしたのか聞いたら赤面させて「な、何もしていませんっ!」と逃げ出されてしまった。

 少し申し訳ないと思いながらも、兄様の一方通行な思いではないことに安堵するのであった。





 

 兄様にきた春はまだまだ続くだろう。
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