上 下
70 / 132
四章

49

しおりを挟む


 別れの朝がやって来た。

 セドはギルバートさんと何か会話をしている。その横で私はナターシャには再び感謝を述べられていた。

「本当に、本当にありがとうございました姫君」

「全てはナターシャさんの努力の結果ですよ。貴女には才能がある。だからこれからも頑張って」

「はい!」

「姫君、私からももう一度感謝を」

 見送りに来てくれた奥様も、昨日の感動が抜けなかったのだろう。たくさん泣いたことが目の腫れからわかる。

「奥様、私としても貴重な経験をさせていただきましたから」

「ナターシャを変えてくれたのは姫君です。おかげさまで、私たちも大切な娘の本音を見れたのですから」

「……いえ、お力になれたのならば良かったです」

 暖かな空気が漂う中、私はナターシャに秘密を打ち明けた。

「ナターシャさん、言ってなかったことがあるんです」

「何ですか?」

「私にも当然、学校に入る前に教わっていた先生がいますが」

「はい」

「その方の名前がニナと言います。恐らく、ナターシャさんが舞踊を学ぶきっかけとなった人です」

「え!!」

「もしよろしければ、いつか王城へいらしてください。その際にタイミングがあえば、きっと会えるかと」

「は、はい!お母様、いいですか?」

「もちろん。そろそろお義父様とお義母様にも会おうと考えていましたからね」

「やった!」

 そうはしゃぐ姿は滅多に見たことが無かったのか、ギルバートさんまでも驚きながら喜んでいた。涙ぐんでいたことは見ていないとしよう。

「では、また会いましょう」

「はい」

「ありがとうございました」

「お世話になりました」

 私たちが別れの挨拶を済ませる後ろで、キナもキナで侍女達との別れを惜しんでいた。

 馬車が見えなくなる最後まで、ギルバートさん一家は見送ってくれた。

「とても……貴重な日々でした」

「楽しめたのならば何よりだ」

「……また来ましょう」

「そうだな」

 少し刺激の強い日もあった気がするが、それを含めてこの数日は幸せだった。

 セドへの宣言を果たすためにも、もっと距離を近づけていきたいと感じる。刺激にも慣れていきたい……できれば。

「警備上難しいかもしれませんが、またどこか違う場所も行きたいです。……二人で」

「あぁ、もちろんだフィナ」

 約束を交わして、帰路へと着いた。

 残り少ない夏休みは自主練習へと費やされながら終わりを迎えた。 




 交わした約束により、毎年どこか2人で出掛けることは恒例行事となった。ナターシャと出会ってから二年後の夏、状況が落ち着いたとラドとお父様が訪ねて来たのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

空間魔法って実は凄いんです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:3,918

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

素材採取家の異世界旅行記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,817pt お気に入り:32,980

【完結】婚約破棄し損ねてしまったので白い結婚を目指します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:3,904

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:584

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,212pt お気に入り:92

神の審判でやり直しさせられています。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:951pt お気に入り:6,517

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。