フラグを折ったら溺愛されました

咲宮

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八章

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 卒業公演への研究で忙しくなる中、同時並行でゼロ国の建国祭も近付いていた。
 建国祭は卒業公演よりも少し前にあるが、直近の大きなイベントということである話が議題に挙がっていた。

 それは私のゼロ国社交界への参加についてである。

 元々は留学生として過ごしていたため、国王であるセドの婚約者という情報はまだ解禁されていなかった。それは今も同じである。ただ、卒業が近付いたことから私もその後の未来を真剣に考える必要が出てきた。

 そんな訳で、今はセドに呼び出されて書斎に来ていた。隣に座るセドが不安げな瞳で話し始める。

「建国祭にはもちろん王家主催のパーティーもある。前回はまだ早いと思って出席させなかったんだ。公表するには時期尚早だと思ったから」
「わかってますよ。前回はゼロ国に来て初めての建国祭でしたから」
「あぁ……でも、フィナはもう少しで卒業するだろう?」
「そうですね」
「そうなると、もう社交界に慣れておく必要があるのかもしれない。けど、女性にとっての社交界は男性とは違う雰囲気だろう?……その、怖いものだと思ってるんだ。だから心配で」

 セドの言う怖いものというのは、恐らく人伝に聞いたか想像か。とにかく私が出席することに不安だから、社交界参加に素直に頷けないようだった。

「セド。私は自国で何度もパーティーに参加して参りました。その経験がありますし、前回の建国祭と違って今はゼロ国の知識がしっかりとあります。問題ありませんよ」
「そう、なのか?」
「はい、任せてください。それにまだ婚約者だと公表する訳ではないでしょう。参加ですから、もう少し楽に考えてください」
「……」

 セドに向き合いながら微笑むと、心配そうにしていた表情は少し緩和した。そしてしばしの沈黙の後、意を決したように告げた。

「……フィナが、そう言うなら」
「ありがとうございます、セド」

 笑みを深めながら承諾を受け取った。

 私自身は、正直参加するべきだと考えていた。セドと共に歩く未来を考えた時、絶対に社交界での貴族との交流は必要不可欠だから。

 番である分、必要以上に心配をしてくれるのは嬉しいが、それを行きすぎないようにするのは私の役目なのだと思う。

 無事に参加する権利を手に入れると、少しだけ安心した。しかしすぐに背筋を伸ばす。学業に専念していた分、王妃教育が薄くなっていたので、パーティーを迎えるまでこちらを強化しようと思った。

「……社交界に出て恥をかかないように、たくさんレッスンをしますね」
「無理をしないでくれ、フィナ。卒業公演もあるだろう?」
「お気遣いありがとうございます、セド。心配をかけないように頑張りますね」
「あぁ……そうだ。建国祭の衣装を考えないと」
「私は今回ソムファ侯爵家の人間として出るのですよね?」
「そのつもりだ」
「それなら衣装は合わせられませんね」
「!!」

 そうだったと言わんばかりに目を見開くセドに、言っておいて良かったと少し安堵する。言わなければ公表しないのに、婚約者同士で合わせたドレスになるところだった。

 私もセドとペアのドレスは着たいが、今回は我慢だろう。

「そんな……俺はフィナとお揃いの衣装にできないのか……」
「公表しないので、今回は我慢ですね」
「……嫌だ、そんなの。それなら公表しよう。フィナは充分王妃としての資格が」
「こら、兄様。それだけは駄目だよ」

 シトさんがセドに軽く頭に手刀を入れながら発言を制すると、少し前から部屋には入ってきたけどと付け加えた。

「シト。叩くな」
「ごめん。でもそれは僕としては許可ができない。シーナが安全に卒業できなくなるしね」
「う……」
「何もお揃いに拘らなくてもいいだろう?最高に納得するドレスを贈れば良いんだから」
「……シトさん。今回は一応ソムファ家として」
「それだ、シト」
「セド?」
「フィナ、期待しててくれ。必ず素晴らしいドレスを贈るから」
「……ほどほどにしてくださいね。今回私は一介の令嬢に過ぎないのですから」
「わかった」
「約束ですよ?」
「約束しよう」

 セドが暴走思考になる前に止めてくれたシトさんに感謝をしながらも、少し内心ではため息をついていた。






 別の方向で暴走しないと良いのだけど……。
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