フラグを折ったら溺愛されました

八章

87

　
　手紙と悲恋の解読と、建国祭に向けての準備を往復しながら色濃い日々を送っていた。

　いよいよ建国祭も週末になった本番二日前、早めの準備をするために私はソムファ侯爵家に向かおうとしていた。

「……セド、二日後すぐに会えますから」
「もう行くのか？まだ良いんじゃないのか？」
「いえ、出発の時間ですので」
「……俺も行く」
「駄目です」
「なぜだ。仕事ならシトに任せて」
「兄様、僕を過労死させるつもりですか」
「お前なら問題なくこなせるだろう」
「無理を言わないでください。ただでさえ潰れかけてるのに」

　穏やかな声のトーンではあるものの、表情からはとても冗談には思えないほど目が死にかけていた。

「だそうです、セド」
「フィナ……」
「セド、私はセドの作ったドレスが着たいです」
「あぁ」
「ですので今、残っている業務を終わらせてください。仕事に追われて当日忙しくならないよう、万全の準備をしていただきたいのです。その為に、王城にはセドの力が不可欠だと思いますよ」
「そう、だな。……フィナの言う通りだ。問題なく建国祭を開催できるように尽力しよう」
「はい、是非そうしてください」

　嘘偽りのない、ただいつもより少し控えめな笑顔を向けながら何とか事を収めた。と思えば、ぎゅっと強く抱き寄せて不安げな声色で呟いた。

「……でも、やっぱり心配だ」
「ペンダントを持ちましたから、ご安心ください。これが守ってくれることは、セドが一番わかってくれる筈です」
「そうだな……わかった」

　少しだけくっついた体を離しながら、身に付けているペンダントを見せた。いくつもの安心要素をあげながら、セドの気持ちをどうにか落ち着かせた。

「ドレス、楽しみにしていますね」
「あぁ、必ず期待に応える」

　結果的に笑顔で送り出してもらうと、安堵のため息をつきながらソムファ侯爵家へと馬車を走らせた。

　ソムファ侯爵家に到着すると、いつも通りローゼ叔母様に暖かく迎えられた。珍しく侯爵がおらず、聞けば侯爵もセドと同じで建国祭に向けて仕事に追われているようだった。

「それにしても久しぶりね、シーナ」
「お久しぶりです叔母様」
「えぇ。それにしても早く来たわね？陛下もいらっしゃるからギリギリまで一緒にいるかと思ったのだけど」

　最もな指摘をされると、苦笑いをしながら目的を告げた。

「実は、ご相談したいことが」
「……わかったわ、あれでしょう。卒業公演について」
「それも、なんですが」
「それも？」
「……番の恋愛に関する悲恋について、です」

　そう、早く来た理由は卒業公演も踏まえた悲恋について尋ねるためだった。

　番に関して同じ立場である叔母様でしかわからないことがあると感じ、今回の機会を利用することにした。




　叔母様はいつも大切な時に支えてくれるから。