フラグを折ったら溺愛されました

咲宮

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九章

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 意外な、というよりも不意を突かれた感覚だった。思えば王城の図書室で会って以来だった。

「……」
「……」

 話したいことはあった。しかし何から話していいのかと、確証を持てなかったこともあり色々と躊躇いが自分の中で発生してしまったのだ。
 向こうは話したいことが無かったのかもしれない。

 沈黙が続く中、馬車が走る音だけが響いていた。気まずく感じているからか、視線が下を向いてしまう。

「……?」

 気まずい沈黙から少しだけ時間が経ち、ふと窓の外を見てみれば何か違和感を感じた。その正体がすぐにはわからなかったが、馬車が進むと不安が芽生え始めた。

「……あの」
「……」
「この道は遠回りだと思うのですが、どこか寄られるのですか」
「……」

 違和感の正体は、それは馬車が心なしか王城から遠ざかって行っていることだった。言葉にして尋ねるもの、テオルートさんからの返答は無かった。

(気のせい……? いや、そんなことはない気がする。沈黙が回答なんだ)

 外を向いて明らかに無視をしたであろうテオルートさんは、小さく尋ねた。

「……貴女は、本当に陛下と結婚するおつもりですか」
「え……?」

 それは唐突な質問だった。
 
 以前、彼には誑かすなと殺気付きの警告をされたことを覚えている。それに繋がる質問で間違いないのだが、意図があまり正確に読めなかった。

 考えても仕方ないため、少しだけ強く出た。

「まるで……それを阻止したいような言い方ですね」
「おや、おわかりですか」
「……」
(……何となくわかっていた気がするから驚かない。けど、まだそうしたい意図がわからない……)

 下手に顔や声色から悟られたくないと本能的に感じたため、彼の答えには反応は見せなかった。 

「そんなに嫌ですか、私が陛下と結婚するのが」
「……」

 もはや敬意の欠片も感じないため、こちらも挑発的にいくことを決めた。

 考えてもわからない。それなら、わかるまで尋ねしかない。たとえ答えてもらえなくても。

 そう強気で尋ねた質問には、意味深な答えが返ってきた。

「……どんなにあがいても、貴女は人間です」
「…………」
「陛下は獣人の血を濃く引かれている。……この意味がわかりますか」

 正直、何を言いたいのかがわからなかった。だから必死で頭を回転させる。

 セドは獣人の血を濃く引いていた。だからこそ番を求める想いが誰よりも強かった。そして、それは長く続いた。何十年も。
 
 そんな彼と、人間の私。違うのは番を求める運命だけではない。だから彼はと言った。

 まるで、人間であることが悪のように。

 そしてテオルートさんはポツリと呟いた。

「…………どうせ、貴女はすぐ消える」
(……もしかして、寿命?)

 なぜそれを気にするのか。

 そこに全ての答えが隠されている気がして、すぐさま思考を加速させた。
 わかるはずだと自分を言い聞かせながら、テオルートという人についても考えた。

 叔父であるセドのことをとても慕っていた彼。
 悲恋という心の傷を負ったであろうその人。
 その傷は大切なものを、失ってできたものだった。

(…………あぁ、そうか)

 ようやく、彼が私を嫌う理由がわかった気がする。




 彼は、セドを自分と同じ想いしてほしくないんだ。
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