神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

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9.大神官の登場

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 身支度を整え終わると、バートンがもうすぐ大神官が来ると伝えに来た。

 改めてソティカに行ってくると伝えて、私はバートンの後ろを着いて、教会の入り口まで向かった。

「そ、そろそろだな」

 隣に並ぶバートンは、緊張する様子を見せた。彼にとって大神官は年下の若造でもあるのに、その能力の高さを知っているかからか、しっかりと敬意を示している。

 そのせいで、ルキウスが訪問する度に、滅多に見せない緊張の姿が現れるのだった。

(まぁ、神官長からすれば大神官は上司だし……緊張するのは当たり前か)

 バートンの感じる緊張感とは、あいにく縁のない私は無言で扉を見つめていた。その後ろに、ディートリヒ卿が護衛騎士として立っていた。

 そのさらに後ろに、教会内に勤める見習い神官達が待機していた。彼らもまた、バートンのように緊張する様子を見せていた。

 教会の周囲が賑やかになると、大神官の到着が告げられた。

 扉が開くと同時に、場を圧倒する人間が登場した。教会内の空気が凍る。

 輝く銀髪は一目で大神官とわかるほど、彼のトレンドマークでもあった。二十八歳になったと聞くが、全く衰えを見せない整った顔が見えた。

(来たわね、ルキウス・ブラウン)

 その場にいた全員が、頭を下げて大神官を歓迎する。彼の足音だけが反響して響いていた。

「よ、ようこそお越しくださいました。大神官様」
「お出迎えありがとうございます、バートン」

 そうにっこりとお礼を告げる笑みは、私には胡散臭さしか感じなかった。

「ルミエーラ、誕生日おめでとう。……早速騎士を選んだみたいですね」

 ルキウスと似たような笑顔を向ければ、彼は少しだけ間をおいてバートンに話を振った。

「バートン、ルミエーラと早速面談をしたいのですが」
「もちろんにございます! ささ、奥の部屋に」

 もちろん嫌な顔は絶対にしないが、内心では大きなため息をついていた。

 バートンがよく使う、賓客用の部屋は無駄に華やかで、落ち着かない部屋だった。とはいえ、大神官が来る時は必ずこの部屋を使うせいで、もう慣れたが。
 
 厚い壁で覆われたこの部屋は、防音対策もバッチリで、外には決して声が漏れない。

 部屋には私とルキウスの二人のみが入り、ディートリヒ卿は部屋の前で待機をすることになった。

「……さて。元気だったか、ルミエーラ。まぁ、あの笑みを見る限りは変わり無さそうだがな」

 二人になったとたん、ルキウスが本性のが姿を現し始めた。何を隠そうこの男、猫かぶりが得意なのである。
 
 普段、神官達の前では穏やかで優しげな大神官を演じるが、実際の中身は神に仕えてるとは思えない、荒っぽい口調なのだ。

 彼が私に本性を見せる理由は、私が喋れないからなのか、真実はわからない。ただ、ルキウス・ブラウンという人物は利己的な人間なため、信用できないことは確かなのだ。

 だから、相手がいくら気を許す素振りを見せても、私が同等の対応をすることはない。ましてや、聖力があるのにと疑ってくる人物なのだ。警戒せずにはいられない。


「元気にしてたか?」
『元気でした』

 聞かれることを予測して、準備しておいたスケッチブックのページを見せる。

「それは前にも見た字だよな。毎回丁寧に書くという心がけはないのかね」
(貴方には必要ないと思ってます)

 明らかに新品に見えないスケッチブックを掲げれば、すぐに使い回しだと見抜かれる。嫌味ったらしく言われるが、作り笑顔を崩さずに、言葉を流した。

「まぁいいさ。変わったことはあるか?」
『ないです』
「それも使い回しだろ」
(別にいいでしょ)

 軽く突っ込まれるものの、全く気にせずに、書き直すことはしなかった。その態度を受けてあきれたように笑いをこぼした。

「それで? 護衛騎士を選んだみたいだが、気に入ったのか」

 これは聞かれると思って、事前に答えを新しく書き出しておいた。

『非常に素晴らしい贈り物をありがとうございます』

 一ミリもそんなことは思っていないが、社交辞令として、いかにも作りましたという笑顔で伝えた。

「……嫌そうな気持ちが雰囲気に出てるぞ」
(わかってるなら迷惑だって気付いてください)

 スケッチブックと私の表情を二回ほど交互に見ると、それが作られた言葉だと見抜かれた。

「この教会の警備に問題がないことは知ってる。だがな、念のためだ。前の大神官が二十歳になったら結婚解禁と取れる文言を発表したせいで、これから神殿に聖女との結婚を打診する貴族が多く現れるだろうな」

 その言い振りは、あまり前の大神官をよく思っていなさそうな言い方だった。

「というか……実は打診自体は始まってる。その貴族の半分以上が己の欲のためだからな。それを叶えるために、最悪ルミエーラが拐われるかもしれないだろう?」
(怖いこと言わないでください……)
「だからこその護衛騎士だ。……にしてもディートリヒ卿か。随分腕の立つ騎士を選んだな」
(私の見る目があるってことですね)

 相づち代わりに改めて笑みを向ければ、今度はルキウスもそれを真似するように笑顔を見せてきた。

(真似された……。さすが猫かぶりなだけあって、作り笑顔上手いな)

 微笑み合う謎の構図になったが、ルキウスは話題変えて話続けた。

「ルミエーラにとって、嬉しくない贈り物ということはわかった。だから聞くんだが、何か欲しいものはあるのか」
(欲しいもの……一つしかない。ものじゃないけど)

 その問いかけにこくりと頷いた。その答えに、ルキウスは興味ありげな視線を私に向けるのだった。

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