神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

文字の大きさ
27 / 115

27.的中した予想

しおりを挟む




 ディートリヒ卿はまず自身が貴族である話から始めた。

「名前の通り、ディートリヒ侯爵家が実家になります。今は神殿に所属しておりますので、貴族らしさはないかもしれません」
(どうだろう……品のある雰囲気はなんとなく出ると思うけど)

 そもそも私がこの教会にこもり続けているせいで、あまり貴族というものを知らない。だからディートリヒ卿の言う貴族らしさは、いまいちわからなかった。

「教会に来るまでは、神殿で過ごしていました。それでも、年に数回は侯爵家に帰っているんです。あぁ、侯爵家自体は、王都の中心部から少しだけ離れた場所に……」

 それもあまり想像ができない。私にわかるのは、この教会が王都にあることくらいだから。
 わずかな微妙な反応からでも、ディートリヒ卿は私への配慮を怠らなかった。

「そうですね……教会だと、馬車で三十分ほどでつきますね」
(多分近い、のかな?)

 彼は私に伝わるように、何度か細かく説明したくれた。そのおかげで、なんとなくの場所は想像できた。

「実は、侯爵家に滞在している期間は、決まってこちらの教会を訪れていたんです」
(……本当に? こんな青い髪が来たら、わかると思うけど)

 初めて聞く話からは驚きよりも疑念の気持ちが込み上げた。私が忘れているだけかもしれない。そう思うと、じっとディートリヒ卿の顔を見つめ始めた。

 見つめられることに関しては何とも思わないのか、申し訳なさそうな笑みを浮かべると話を続けた。

「見覚えがないのは無理ありません。こちらに来る時はあくまでも一人の信者として来たかったので、正体は隠しておりました。髪色をかつらで変え、眼鏡もしていたと思います」

 ディートリヒ卿曰く、元の姿はどうしても目立ってしまうから、教会に限らず王都に来る時は変装を欠かさないのだとか。

(だとしてもこんな美形、一度見たら忘れないと思うんだけど……まぁ、相当頑張って変装していたのかもしれないよね)

 騎士である今の姿からは、かえって想像ができないような姿なのだろうと勝手に結論付けると、続きの話に耳を傾けた。

「毎回訪れる際に、ルミエーラ様の神々しさと美しさを感じておりました」
(……あぁ、うん)
「聖女という肩書きに相応しい御方だと、直感的に思いました。その時から、既に惹かれていたのだと思います」

 美しさもオーラも、何もかも隠して信者に紛れ込んでしまえば、私が認識することはまずない。けれど、向こうは長らく見てきたという話だった。

 ……だったのだが、今の話を聞く限り、私の予感は当たっていそうに思えた。

(……やっぱりこの顔が好みなのか)

 私が、慕われる理由を難しく考えすぎたのかもしれない。

「もちろん、それだけではありません。騎士である私に、たいそう丁寧に接していただいたことが、私の心を大きく動かしました」
(……私の予想だけじゃなくて、ソティカの予想まで当たってそう)

 その予感は見事的中してしまった。

「まず、ルミエーラ様は、しっかりと教会の案内をしてくださいました。適当に終わらせることもできたというのに、一つ一つ丁寧にお教えくださいました」

 そこからは、話が早かった。というのも、ソティカから一度聞いたであろう推測の内容を、本人の口から聞くということだったから。

「……つまり、ルミエーラ様の魅力に、私は強く惹かれているというわけです」
(な、長かった……)

 静かに話していく姿は、時折熱弁しているようにも見えて、話をさえぎるタイミングはなかった。

 途中から、私の対応が貼り付けた笑顔で相槌をうつ作業に変わっても、ディートリヒ卿は話すことをやめなかった。

 それだけ強い想いで語ってくれたのだ。感謝の言葉を文字に起こした。

『ありがとうございます』

 頭を下げて伝えることもできるが、それだと冷たい気がした。その文字を見せれば、彼は柔らかな表情で微笑んだ。

 反応を見てから、少しだけ考え込む。

(……ここまで慕われてるとまでは思わなかったけど、これなら)

 ただ、私がしたい提案は、そう簡単に言葉にしていいものか悩んでしまった。

 慕われていても、彼は神殿所属の騎士なのだ。私をお飾りの聖女とし、欠陥だと嫌う者達のいる、あの神殿の。

 知識がないせいで、ディートリヒ侯爵がどんな家でどのような思想を持っているかもわからない。

(これで実は、反お飾り聖女派だったら笑えない……けど、賭けてみる価値はあるんじゃない?)

 そもそも反対派だったら、私を何度も助けたりしないから。

 答えを導き出すと、再び手を動かした。

『ディートリヒ卿、お願いしたいことがあります』
(協力者になってもらえるよう、頼まないと)

 真剣な眼差しで、その言葉を見せる。そして、一度膝に戻して続きを書き始めた時だった。

「協力者、ですよね。もちろんです。ありがたく引き受けさせていただきます」
(…………)

 思わずその言葉に反応し、驚愕の表情を浮かべてディートリヒ卿を見つめた。

(まだ私、協力者の“き”の字しか書いてないんだけど……!?)

 固まった手が動き出すのは、少し経ってからのことだった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...