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27.的中した予想
しおりを挟むディートリヒ卿はまず自身が貴族である話から始めた。
「名前の通り、ディートリヒ侯爵家が実家になります。今は神殿に所属しておりますので、貴族らしさはないかもしれません」
(どうだろう……品のある雰囲気はなんとなく出ると思うけど)
そもそも私がこの教会にこもり続けているせいで、あまり貴族というものを知らない。だからディートリヒ卿の言う貴族らしさは、いまいちわからなかった。
「教会に来るまでは、神殿で過ごしていました。それでも、年に数回は侯爵家に帰っているんです。あぁ、侯爵家自体は、王都の中心部から少しだけ離れた場所に……」
それもあまり想像ができない。私にわかるのは、この教会が王都にあることくらいだから。
わずかな微妙な反応からでも、ディートリヒ卿は私への配慮を怠らなかった。
「そうですね……教会だと、馬車で三十分ほどでつきますね」
(多分近い、のかな?)
彼は私に伝わるように、何度か細かく説明したくれた。そのおかげで、なんとなくの場所は想像できた。
「実は、侯爵家に滞在している期間は、決まってこちらの教会を訪れていたんです」
(……本当に? こんな青い髪が来たら、わかると思うけど)
初めて聞く話からは驚きよりも疑念の気持ちが込み上げた。私が忘れているだけかもしれない。そう思うと、じっとディートリヒ卿の顔を見つめ始めた。
見つめられることに関しては何とも思わないのか、申し訳なさそうな笑みを浮かべると話を続けた。
「見覚えがないのは無理ありません。こちらに来る時はあくまでも一人の信者として来たかったので、正体は隠しておりました。髪色をかつらで変え、眼鏡もしていたと思います」
ディートリヒ卿曰く、元の姿はどうしても目立ってしまうから、教会に限らず王都に来る時は変装を欠かさないのだとか。
(だとしてもこんな美形、一度見たら忘れないと思うんだけど……まぁ、相当頑張って変装していたのかもしれないよね)
騎士である今の姿からは、かえって想像ができないような姿なのだろうと勝手に結論付けると、続きの話に耳を傾けた。
「毎回訪れる際に、ルミエーラ様の神々しさと美しさを感じておりました」
(……あぁ、うん)
「聖女という肩書きに相応しい御方だと、直感的に思いました。その時から、既に惹かれていたのだと思います」
美しさもオーラも、何もかも隠して信者に紛れ込んでしまえば、私が認識することはまずない。けれど、向こうは長らく見てきたという話だった。
……だったのだが、今の話を聞く限り、私の予感は当たっていそうに思えた。
(……やっぱりこの顔が好みなのか)
私が、慕われる理由を難しく考えすぎたのかもしれない。
「もちろん、それだけではありません。騎士である私に、たいそう丁寧に接していただいたことが、私の心を大きく動かしました」
(……私の予想だけじゃなくて、ソティカの予想まで当たってそう)
その予感は見事的中してしまった。
「まず、ルミエーラ様は、しっかりと教会の案内をしてくださいました。適当に終わらせることもできたというのに、一つ一つ丁寧にお教えくださいました」
そこからは、話が早かった。というのも、ソティカから一度聞いたであろう推測の内容を、本人の口から聞くということだったから。
「……つまり、ルミエーラ様の魅力に、私は強く惹かれているというわけです」
(な、長かった……)
静かに話していく姿は、時折熱弁しているようにも見えて、話をさえぎるタイミングはなかった。
途中から、私の対応が貼り付けた笑顔で相槌をうつ作業に変わっても、ディートリヒ卿は話すことをやめなかった。
それだけ強い想いで語ってくれたのだ。感謝の言葉を文字に起こした。
『ありがとうございます』
頭を下げて伝えることもできるが、それだと冷たい気がした。その文字を見せれば、彼は柔らかな表情で微笑んだ。
反応を見てから、少しだけ考え込む。
(……ここまで慕われてるとまでは思わなかったけど、これなら)
ただ、私がしたい提案は、そう簡単に言葉にしていいものか悩んでしまった。
慕われていても、彼は神殿所属の騎士なのだ。私をお飾りの聖女とし、欠陥だと嫌う者達のいる、あの神殿の。
知識がないせいで、ディートリヒ侯爵がどんな家でどのような思想を持っているかもわからない。
(これで実は、反お飾り聖女派だったら笑えない……けど、賭けてみる価値はあるんじゃない?)
そもそも反対派だったら、私を何度も助けたりしないから。
答えを導き出すと、再び手を動かした。
『ディートリヒ卿、お願いしたいことがあります』
(協力者になってもらえるよう、頼まないと)
真剣な眼差しで、その言葉を見せる。そして、一度膝に戻して続きを書き始めた時だった。
「協力者、ですよね。もちろんです。ありがたく引き受けさせていただきます」
(…………)
思わずその言葉に反応し、驚愕の表情を浮かべてディートリヒ卿を見つめた。
(まだ私、協力者の“き”の字しか書いてないんだけど……!?)
固まった手が動き出すのは、少し経ってからのことだった。
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