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50.迎えられない祝祭
しおりを挟む二日連続で更新できずに大変申し訳ありませんでした。本日よりよろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
祝福当日の朝になると、過去へと戻された。これは毎回決まっていて、何度も繰り返された中で私が二十歳になってから、祝祭を行えたことは一度もなかった。
「前大神官様……サミュエル様の動きが前回と異なっているのは、やはりあの方も、記憶持ちの回帰者なのですか」
(うん。私はそう思ってる)
コクりと頷けば、アルフォンスは神像が破壊された時に生じた違和感に、納得したようだった。
確かに前回から、サミュエルの行動が大きく変わってきている。残念ながらその意図まではわからず、行き詰まっていたのが忘れる前の私だった。
「サミュエル様は、一体いつから記憶が引き継がれているのでしょうか。私が知る限り、この世界は十回は繰り返されていますよね」
そう尋ねるアルフォンスの手をそっと取った。
『私が記憶を持ってからは、今回で十四回目』
「十四……そんなに長い時を一人で」
(あ……胸を痛めてくれるのはなんだか申し訳ないな)
ありがたくも喜べはしない複雑な気持ちを感じながら、伝えたかった話の続きを手のひらに記した。
『でもサミュエル様も、十四回は記憶を持ったまま回帰し続けてる』
「!」
こちらは予想外だったのか、アルフォンスは反射的に一瞬だけ目を見開いた。
「……サミュエル様も、ですか?」
その問いに頷くのには、しっかりと根拠がある。
サミュエル様とは間接的に関わり続けた私だが、彼の態度は一律して同じということは決してなかった。
アルフォンスの胸を貫いたあの冷酷なサミュエルも、私にとって初めての人生の時は驚くほど優しい人だったから。
(貴女をお待ちしていました、くらい丁重に迎えられたのを今でも覚えている)
しかしその態度は続かずに、回を追うごとに冷たく無機質なものになっていった。もちろん根拠は些細な変化だけに収まらない。
失踪する時期が毎回違うのだ。一日くらいなら誤差だが、数年の違いはサミュエル様に何らかの意図があったと伺える。
この二つを揃えて考えれば、サミュエル様も私と同じく、長い間同じ時間を旅していることはほぼ間違いないと言える。
では何故彼は記憶を引き継げるのか。
この疑問にたどり着くと、常々思うのが自分自身もどうして覚えたままループし続けているのかということ。
今回アルフォンスが記憶を引き継いだのは恐らく私の能力が作動したからだとは思う。しかし、前回だけでなくそれまでの記憶全ても思い出せた理由まではわからない。
「疑問が多すぎますね」
(……多いのに何一つ答えが見つからない)
ため息混じりに頷けば、アルフォンスは「気休め程度の考察ですが」といって話を始めた。
「私を除けば、現状記憶を保持しているのはルミエーラ様とサミュエル様のお二人です」
(そうだね)
「お二方の共通点と言えば?」
(……なんだろう)
少し考えると、一つ答えを落とす。
『神に通じる者?』
「私もそう思います」
聖女と前大神官。
私達は肩書きは違えども、神レビノレアに関係する役職なのだ。
「ルミエーラ様、つかぬことをお聞きしますが」
(なんでしょう)
「以前……ルミエーラ様ご本人が仰っていたのですが、朝の祈りを適当に行っているというのは本当ですか?」
(!!)
突然の言葉に驚いてしまう。
そう、どうせアルフォンスは忘れるからと、適当に過ごした回もあった。自暴自棄に近かったと思うが、まさかその記憶を思い出すとは想定外だった。
(軽蔑されるのは嫌……でも聖女なのに神を敬愛していないことは、やっぱり心証が悪いわよね)
話をまた今度にしようかと悩んでいる間にも、アルフォンスは自身が伝えたいことに向けて話し続ける。
「もしそうであれば、一度真剣に祈りを捧げるのはいかがでしょうか」
(え……?)
「神託、という言葉があります。これは神殿の中では大神官のみ聞くことが許されています」
神託、それは神の声。
「聖女様が聞けるかどうかまではわかりません。今まで神託とは、大神官様が聞かれることが当たり前でしたので、かつての聖女様達ももわざわざ大神官のいる手前、神託を聞こうとはしなかったと思います」
(……神託)
アルフォンスが何を言いたかったのかがわかった。
「もしかしたら、神託をもらえるかもしれません」
レビノレアのことを嫌っても、神像の前で頼んだことはあった。この祝福をなくしてほしいと。悲しいことにその思いは少しも届くことはなく、それ以来は嫌うだけで心からの深い敬意を示したことはなかったのだ。
(初めてこの世界に来た時と、今回だけ願ったことがある。でもあれはただの願望で、祈りではなかった)
考えてみれば、確かに私はレビノレアに向けて祈ったことがない。
(……どうして今まで気が付かなかったんだろう。祈って、声を聞こうとすれば、正解を教えてくれたかもしれないのに)
そう悔やもうとして、すぐにやめた。私が祈らなかった理由は単純で、ある意味貫き通していて変わることのない感情だった。
(でもそれだけ嫌いだったのよね、レビノレアのこと)
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