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49.二人の再会

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 何度もこの世界を繰り返す中で、私にとってディートリヒ卿はいなくてはならない存在になっていた。

 想いはいつしか恋心となり、大きく変化していった。そしてある回を境に、私は彼のことをアルフォンス、と呼ぶことにしたのだ。もちろん、本人からの許可をもらって。

 それ以降は、何かと理由をつけて名前呼びをすることにしていた。たとえ彼が忘れていても、それだけは続けていたのに。

(今回は私の方が忘れるなんて)

 やり直して。
 
 私がやり直したいという意味で急いで放った言葉だったが、世界は“アルフォンス、もう一度やり直して”という意味に捉えようだった。

 おかげさまで、彼だけが知っている状況が作り上げられたわけだが。

(やっぱり欠陥。……でも、思い出せて本当によかった)

 そんなことを思いながら、抱き締め続けていた。少し経つと、彼から離れる。会ってから第一に伝えたかったことーーアルフォンスという呼び方を彼の手のひらに書けば、驚き固まってしまった。

「……アルフォンス?」

 確認されると、笑顔で頷いた。ただ、溜まっていた涙が限界だったようで、空中に散っていった。

「……思い、出されたのですか?」

 信じられない、という感情で彼は染まっているのが表情からわかった。

(全部……しっかりと思い出した。前回だけじゃなく、これまでの記憶全て)

 確かな動きで頷けば、アルフォンスは泣きそうになりながら、力強く引き寄せた。

 今度は彼が私を抱き締める番だった。

 ただ言葉はなく、ひたすら優しい腕の中に収まっていた。その温もりは、本当に暖かなもので、私の心を芯から癒していく。

 顔を上げれば、アルフォンスは目に涙を溜めていた。どうにか流さないようにと堪えていたようだが、出る寸前だった。

 私はそっと手を伸ばすと、出かかっていた涙を取った。アルフォンスは恥ずかしそうに笑ったが、柔らかな笑みを浮かべて告げられる。

「……おかえりなさい、ルミエーラ様」
(ただいま、アルフォンス)

 届かないと思っていても、口パクで彼に伝えた。それはいらない杞憂で、アルフォンスには読み取れた様子だった。

 もう一度だけ力強く抱き締められると、ゆっくりと腕をほどかれた。その際に、また私はアルフォンスの右手を取った。

『待たせてごめん』
「謝らないでください。……今回、思い出されることはないと思っていたんです」

 その選択を最初から捨てていたと言わんばかりのアルフォンスの気持ちが、わからなくもなかった。

 私も、自分しか記憶がなかった時は、諦めていたから。そうわかっていても、聞きたいことがある。

『どうして、思い出させようとしなかったの?』
「!」

 機会はいくらでもあったはずだ。

 もしかしたら、直接この世界はループする世界だと教えれば、わかった可能性だってある。もちろん思い出せないこともあるとは思うが。 
 
 それでもやってみる価値はあった。

 けれども、アルフォンスは前回の人生について明確に語ることはなかった。

「……今まで、ルミエーラ様はお一人でやり直しをされてきましたよね。何度も」
(それは……そうだけど)

 意図がまだ読めずに、おもむろに頷く。

「自分しか覚えていない、という孤独感は想像していたよりも胸を苦しめられました」
(……どうして覚えていられなかったんだろう)

 あの時もっと具体的に願っていれば。そう後悔の感情が浮かんでしまう。

「……ルミエーラ様」

 思わず下を向いてしまったが、アルフォンスが優しく名前を呼んだ。 

「ルミエーラ様は本当に凄いです。その孤独に何回も耐えてきたのですから」
(……)
「私はきっと、ルミエーラ様にどうか今回は、何も知らずに穏やかな時間を過ごしていただきたかったのだと思います」
(!!)

 それは痛みを理解したが故の、最上級の心遣いだった。予想してもなかった答えに、ただ驚く。返すべき言葉が何もみつからずに、アルフォンスを見つめる。
 
 確かにアルフォンスの願い通り、今回は孤独で心が空っぽになるということはなかった。何度も繰り返されるなかで、当たり前になった痛みを感じることも。

 彼は私を守り続けてくれたのだ。それは物理的なだけでなく、心情までも。

(……ありがとう、アルフォンス) 

 感じていた罪悪感が消えたわけではないけれど、私が一番伝えるべきは謝罪ではなく感謝である気がした。

『貴方は最高の騎士です。本当にありがとう』
「! ……身に余る光栄です」

 静かな風に吹かれながら、私達は微笑み合った。優しさと温かさに包まれた、穏やかな空間。

 それがずっと続くことを願いたいけれど、残念ながら現実は険しいもので。 

「……本当ならこのままずっと二人だけの時間を過ごしたいのですが、今は叶いそうにありませんね」
(えぇ、私たちに残された時間は限られているから)

 アルフォンスに同意しながらこくりと頷く。私達か動ける時間は限られていた。

 なぜならここはループする世界で、その機転となるのが祝祭だから。

(今回もいつもと一緒なら…………祝祭はやってこない)

 
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