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48.やり直しの時間(アルフォンス視点)
しおりを挟む神像が破壊された。なんの予兆もなく。
(おかしい。前回壊されたのは祝祭前日だった。それに、場所もこの教会じゃなかった)
様々な疑問が残るまま、神像を壊した犯人がまだ教会内にいるのではないかと思って、急ぎ確認をし始めた。
(神像は聖なる象徴。それを壊せるのも、壊そうとするのも、恐らくこの世界に一人しかいない。……前大神官サミュエル)
彼が何故神像を壊し、ルミエーラ様に危害を加えようとしたのか。残念ながら今回も前回も、まだわからない。
(ただなにも知らない自分でもわかること……それは、サミュエルが神像を壊すほど神を嫌い、もう信仰心はないに等しいということ)
さすがは前大神官というべきか、どこを探しても、小さな痕跡一つみつからなかった。
(……何か手がかりがあれば、ルミエーラ様にお伝えできたのだが)
何も知らない彼女に、神像を壊した犯人はサミュエルだと伝えるには、納得できるだけの証拠が必要だった。
証拠がない場合、それこそ明確な動機が語れれば少しは信じられるものだが、あいにく、それが一番わからない。
(……前回までのルミエーラ様なら、知っていたのかもしれないな)
彼女の力で記憶を持ったままやり直しをすることになり、私は二回目の人生を始めた。その際に、今までの記憶を思い出すことになったのだ。それも全て。
そして始めて知った。
この世界がループし続けていることを。
私が二回目だと思っていたやり直しは、もう何度も繰り返された時間であることを、その記憶が教えてくれた。
繰り返された回数は、気の遠くなるような数で、到底信じられなかった。自分の記憶なのに、そうではないみたいで、気味が悪く、違和感しかない状態。
それでも信じられたのは、ルミエーラ様のおかげだった。私が思い出していく記憶の中にいたルミエーラ様は、ループしていることを知っていた。
知っているが故の常軌を逸した行動や、思い切った決断がいくつもあった。あまりにも長い時間すぎて、彼女が疲弊していた回もあった。
その時に、嘘のような本当の話と本人から祝福の話を聞いたのだ。
(あの時のルミエーラ様は……限界だったのだろう。全てを告げて、誰かに助けてほしい、そんな想いだった)
当時、言葉で教えられるだけではなく、実際に力を見せてもらった。彼女の言うことは真実で、祝福は存在していた。
ただ、力を披露した彼女は、酷く恐れていた。まるで、使ってしまったことを後悔するように。その理由まではわからなかったが、結局私は、それをルミエーラ様が神より授かった祝福について、長い間忘れてしまった。
(世界のほとんどの者が何も知らずに、ループされていることにも気が付かずに、ただ毎日を生きていたが……彼女は違う)
何度も何度も繰り返される世界で、孤独に生きてきたことが、今となって知った。そして、それがどんなに辛いことか、痛いほどわかる。ただ、どれだけ世界が繰り返されたかは私にはわからない。
しかし、想像もできないほど長い間、彼女は一人でこの時間に閉じ込められていた。
(……でも、今度は私がやり直すことになった)
こうして私は、今まで行われたループ、全ての記憶を抱えながら、自身にとっては初めてのやり直しに挑戦することになったのだった。
(もう祝祭近くまで来てしまった)
ぼんやりと意識を現在に戻すと、止めていた足に力を入れる。
(最後にルミエーラ様の部屋の周囲を見回って終わりにしよう)
さすがに教会の外に出ることはせずに、正面玄関に背を向けた。すると奥の方に、人影が見えた。サミュエルが中にいたのか、という警戒心はすぐに消え去った。
「ルミエーラ様!?」
(こんな時間に何をしているんだ……?)
眠っているはずの彼女が、何故かそこにいた。疑問を浮かべながら急いで駆けよった。
「どうされましたか?」
近付いて顔を見れば、どこか安心したような柔らかな笑みを向けられた。しかし、よく見れば彼女の目は泣きはらした跡があって、私自身の不安は消えずに、むしろ大きくなっていった。
ただ無意識に見つめていれば、彼女は突然私のことを抱き締めた。
「ル、ルミエーラ様!?」
(ど、どうしたんだ!?)
その瞬間不安や疑問は吹き飛び、動揺と緊張が走っていた。果たして腕を回し返して良いのか、何か声をかけた方が良いのかわからずに、ただ困惑してしまった。
(……泣いてる? 怖い夢でも見たのだろうか)
いつもなら、彼女の考えていることは手に取るようにわかる。ずっと見てきたから。けれども今日は異例の事態すぎて、上手く読み取れなかった。
回らない頭で考えていると、彼女はそっと離れて私の右手を取った。それは、伝えたいことがあるという合図だった。
(……?)
なんだろう、という思いを含んだふわふわとした気持ちは、嘘のように消え去った。言葉にできないほど、大きな衝撃に襲われた。
彼女が伝えたかったこと、それはーー。
「……アルフォンス?」
ポツリと呟けば、涙を散らしながら、彼女はコクりと頷くのだった。
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