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55.責任の行方
しおりを挟むサミュエルに力を奪われ、自身の衰退を感じ取ったレビノレアは、どうにか自分の代わりを探し始めたと言う。神の代わりとなれば、そう多くはない。
「ルミエーラは器として最適だったんだ」
「だから勧誘したんですね」
「あぁ」
初めてこの空間に来た日を思い出した。あの日レビノレアが、祝福をやるからこの世界に転生しないかと持ちかけたことを。
「……私が欠陥チートだと思っていたこの力は、祝福ではなくレビノレアの一部ということですか?」
「け、欠陥……いや、そう言われて当然だな。元々祝福も私の一部だが、ルミエーラに渡した力はより私に濃い力だった」
状況や渡された力の意味を理解していく内に、ぼそりと言葉を落としてしまった。
「……詐欺師?」
「えっ」
「あ……すみません。祝福を授けると言いながら神の力の一部だったり、必ず役立つ力と言いながら不便極まりない力でしたので……レビノレアはもしや詐欺師かなぁなんて思ってました」
「……そ、そう言われるだけのことをしてしまった。面目ない」
私の言葉は予想以上にレビノレアに刺さったのか、どんよりと落ち込みながら謝罪をされた。
「神の力の与えようとした理由まではわかりました。納得したかは置いておいて。……それで。何故こんなにも制御不可能な力を渡したんですか?」
「本当なら、ルミエーラが使いこなせるだけの力を渡すつもりだったんだ。……ルミエーラは、初めて私と会った日のこと、どれくらい覚えている?」
「……そうですね」
記憶をさかのぼってみれば、祝福を付与されたのかどうか確かではないところで、意識が飛んでしまった気がする。そのことをレビノレアに伝えれば、思いもよらない言葉が返ってきた。
「突然意識が飛んだだろう?」
「はい」
「あの時、ルミエーラは消滅しかけたんだ」
「……え?」
消滅。
それはつまり転生もできずに、魂が消えてしまうことだと、静かにレビノレアは告げた。
「この空間は私の管理場ではあるが、サミュエルに支配権が渡ってしまう時がある。それが、彼が世界を回帰される時なんだ」
「……つまり、私を勧誘していたあの時、回帰が起こったと?」
「あぁ。回帰の影響を受ける、つまり時間が戻されるのはこの空間も同じことなんだ。戻された時に、元々ここになかったものは消滅してしまう。だから回帰は、魂を送り届けてから起こさなくてはいけない。……そもそも回帰自体してはならないことだが」
今この空間にきて、初めて背筋が凍った。何も言えずにいると、レビノレアは申し訳なさそうに話を続けた。
「だからあの時は急いで送り出したんだ。その際、力を慌てて付与してしまった。本当なら上手く調節して与えるべき力を」
「…………」
「サミュエルが回帰し始めて間もなかった頃、私はまだ彼の動向が読めてなかった。もっと慎重にルミエーラをここに連れてくるべきだったんだ。……本当にすまない」
そう言うと、レビノレアは頭を下げて謝罪をした。
真実というものは、自分の想像だけでは決してたどり着けるものではない。それでも予想して、近いことを考えようとして。
それで導き出された答えがどうであっても、自分が置かれた状況からレビノレアを恨まずにはいられなかった。
だが、どうだろう。
レビノレアは、彼は、思うほど酷いことをしてはいないのではないか。もちろん、結果的に酷い目にあったのは私だが、そこにレビノレアという神の悪意は一切なかった。不運が重なった、という言葉で表すには軽すぎるが、事実そうなのだ。
そして、いくらでもこれを言い訳にできたのに、レビノレアは決して逃げずに自身の責任だと謝罪をし続けた。
(……私が許さない理由がないわ)
頭を下げるレビノレアをじっと見つめると、今度は私はしゃみ込んで彼を見上げた。
「……頭をおあげください、レビノレア。そして先程の言葉を訂正します」
「……それは」
「謝罪を受け取るという言葉です」
「ルミエーラ!」
どうして、という悲壮漂う声が響いた。
「私には、その謝罪を受け取る権利がありません。……レビノレアを恨む理由がまるでないことがわかりましたから。そして、私の方こそ逆恨みをした罪で罰されるべきです」
「そんなことはない! ルミエーラはどこまでいっても被害者だ!!」
「……なるほど。ではお互い様というところで、手を打ちましょう」
「それは」
納得がいかない、そんな顔をするレビノレアに内心少しだけため息が出た。
(恨んでた時は、自分勝手でとんでもない神様だと思っていたけど……そんなことまるでない。どこまでも真摯で、力が弱まっても逃げることなく、神という自分の役目を全うし続ける……とても立派な神様ね)
全てを知ったからか、私の中でレビノレアの評価が変わっていった。
「では先程の手刀を加えておあいこで。神を殴るという不遜すぎる行動を含めたら、ちょうどいい気がします」
「そ、それでいいのか?」
(……まだ納得してないのね)
いいのか、なんて聞く割にはまるで承諾できないという考えが表現表情にしっかり現れていた。
「……先程レビノレアは自分が慎重にここに連れてくるべきだったといいましたよね」
「あぁ」
「私が前世で亡くなったタイミングを考えれば、それは難しいのでは。こればかりはレビノレアのせいではありませんし、このタイミングが全ての不運の引き金になっているので、レビノレアは悪くないということです」
「ルミエーラ……」
だから必要以上に気に止まないでくださいと伝えれば、レビノレアはやっと、安堵の笑みを浮かべてくれるのだった。
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