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97.下された裁き
しおりを挟むレビノレアの言葉は核心をついていたようで、サミュエルの表情の変化が物語っていた。
「サミュエル。そなたが何を意図して焦るのかはわからないが、裁きなら決まっている。回帰を繰り返した年数分、私の補佐として働くことだ」
「!!」
(……回帰の年数)
レビノレアは下す裁きについて、詳細に語り始めた。
「今回の件、当然ながら人間界の法律で裁ける問題ではない。そうなれば管轄は私へと移る。初めこそ魂の消滅を考えたが、先程も言った通り私にも非がある。この点を踏まえた結果、サミュエルにはしばしの間彷徨ってもらうことにした」
「それは、償いになるのですか……!?」
レビノレアという神にしか下せない罰は、果たしてサミュエルの犯したものに相応しい償いになるのか私でも疑問だった。
「なるとも。そなたは定められた生を全うした後、本来の道から外れて労働を課されるのだ。死してもなお、安らかに眠ることは許されず、過酷な業務を行わなくてはいけない。そして何よりも、ここに来てしまえば逃げ場はない。相応ではないか」
「…………何故、今すぐではないのですか」
時間にこだわるサミュエルに、私は段々と彼の意図がわかるような気がした。
「私にはサミュエルの意図はわからない。だか、こちらの意図としては、そなたは本来の生を経験するべきだ。訪れるはずだった、愛する者を失った時間を」
「!!」
(……確かに。これはある種の罰になるわ)
はっとしたようなサミュエルは、納得したような寂しそうな顔をして頷いた。
「……かしこまりました」
深々と頭を下げ終えると、私はそこでようやく口を開いた。
「サミュエル」
「……」
名前を呼ぶと、ゆっくりとこちらに視線を向けた。
「貴方が、私には想像できないような罪悪感に押し潰されそうになっているとしても……謝罪は、本人の目を見て行うべきだと思いますよ」
「ーーっ!」
彼は合わせる顔がない、そう呟いていた。苦しく辛い、そんな思いに駆られた結果、そうなってしまうのは当然の答えだと思う。それでも、サミュエルがしようとしていたことが逃げであることには気が付いて欲しかった。
「……私はまた、クロエを傷付けてしまうところだった」
「そうですね」
「……ありがとう、聖女」
悲しい眼差しでも、少しだけ笑みをこぼしていた。一連の流れが終わったことを察したレビノレアが、サミュエルに手をかざす。
「それではサミュエル。そなたの果たすべき使命と残りの生を最期までやりとげよ。償いはもう既に始まってると思ってな」
「はい」
「ではまた」
再び会うことを意味する言葉を最後に、サミュエルは空間から消え去った。
「……ルミエーラ、本当に心から感謝する。ここまでよく頑張ってきてくれた」
「ようやく終わりましたね」
「あぁ。……力を戻そう。この祝福も、いらぬことだろう」
「それなのですが、少し待っていただけませんか」
「!」
やれ欠陥チートだと嘆いていた私からは、想像のつかない答えが返ってきたので、レビノレアは固まってしまった。
「……理由があるのか」
「はい。やりたいことが……一つだけ」
「なるほど……わかった」
「早いですね、承諾が」
「信用しているからな。……何よりも、その祝福をルミエーラ自身が悪用することを嫌っているだろう」
「……えぇ」
神様は何でも知っているようで、私のトラウマもわかっているようだった。
「レビノレア。この後はどうなるのでしょうか。元通りとは、一体いつのことを指しますか」
「それは」
ずっと、気になっていたことがある。
私は、本当だったならばいなかった転生者。サミュエルを止めて回帰をなくせば……元に戻せば、ルミエーラという聖女もいなかった本当の一回目へとなるのではないかと。
「……私はもう、消滅するのでしょうか」
不安が一気に込み上げる中、レビノレアの瞳を見つめる。すると、レビノレアは穏やかな笑みを浮かべながら、首を横へ振った。
「安心してほしい。今はもう、ルミエーラが存在した世界線へと移り変わった。つまり、ルミエーラが聖女として連れていかれた一回目こそが、本当の一回目となったんだ」
「!!」
「ルミエーラという功労者を消滅させるのは、私だけでなく地球の神にも怒られてしまうさ。大丈夫だ。この書き換えが許されるほど、ルミエーラの功績は大きい」
「…………良かった」
心の底か安堵した。頑張った意味があったと思うと、自然と笑みがこぼれてきた。
「では、一回目の続きから再開するということですね?」
「大方はあっている。ただ、他の回の影響がなくなるわけではないから、そこは気を付けてほしい」
「なるほど……わかりました」
「本当によく役目を果たしてくれた。どうかゆっくり休んでほしい」
「レビノレアも」
笑顔で頷き合うと、私にも手をかざして目を覚まさせようとした。
「ではルミエーラ。祝福についてはまた後ほど。祈ってくれれば、今度は対話することができると思う」
「それは便利ですね」
「これぞ本当の神託だ」
「ふふ、わかりました」
わがままを聞いてもらえた感謝の気持ちをこめて深々とお辞儀をすると、そこで意識が薄れていった。
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