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100.大神官との再会
しおりを挟む急いで本堂に向かえば、ちょうど朝の礼拝の時間だったようで私もこっそりと混ざって神像へ祈りを捧げた。
すると、無事レビノレアと繋がることができた。クロエさんとサミュエルについて尋ねれば、私達よりは前の時間に戻り、二人で残りの時間を過ごしているという。
(それも今日まで……二人に会うことはできないけど、どうか平穏でありますように)
レビノレアなりの配慮がわかったところで、今日の合流は終わった。
「良かった。ではお二人は本当に最後のやり直しができたのですね」
(えぇ、そうみたい)
いつもの癖で声に出さずに笑顔で頷いたところで、バートンがやってきた。
「ルミエーラ……準備は済んでいるようだな」
(バートン……)
そこには、少し不安げかつ不満げな表情の神官長が立っていた。いつも助けてくれたバートンは回帰を終えた今もその本質は変わらなさそうだ。
「今さらになって神殿に呼び出されるのは納得いかないが、本当によいのか」
どこまでも心配してくれる気持ちが胸に染み込んだ。私は揺るぎない眼差しで、力強く頷いた。
「……わかった。何事もないことを祈るばかりだが」
「神官長様、私もついております」
「ディートリヒ卿……だが貴方は」
「仰りたいことはわかります。確かに私は神殿所属の騎士です。しかし今は、それ以前にルミエーラ様の剣ですから」
「!」
確固たる意思をバートンに改めて伝えるアルフォンス。その言葉が響いたのは私も同じだった。
「そうか……それなら任せられますね。どうかルミエーラをよろしくお願いします」
「はい」
バートンの安堵しながらもどこか寂しそうな瞳は、まるで娘を送り出す父親のようなものだった。その温かさをぎゅっと噛み締めた。
「神官長様、大神官様がご到着なされました」
「あぁ、行こう」
見習い神官によって、大神官の来訪が告げられた。いつものようにバートンと並んで迎え入れるが、私は少しだけ緊張していた。
(……私の知らない人、ではないわよね?)
回帰を繰り返す中で、現在に影響が強く出ることもある。そう語るレビノレアを思い出しながら、前回はサミュエルが大神官のままであることが少しだけ心配の要素になっていた。
「……」
ちらりと後ろを見れば、アルフォンスも静かに入り口を見つめている。
「ようこそいらっしゃいました、大神官様」
バートンの声が合図のように頭を下げるも、今日だけは早く顔を上げたいと思ってしまった。
(…………)
ゆっくりと顔を上げれば、そこには懐かしい人が立っていた。
「ルミエーラ、準備はできていますか」
(ルキウスだ…………ルキウス・ブラウンだ!)
ルキウスを見て、嬉しく感じる日が来るとは思わなかった。だが彼に会わなかった時間は、酷く長く思えたのだ。
反射的に込み上げてくる涙をどうにか収めようと、目をめいいっぱい広げる。
(まばたきしたら、涙が流れそう……!)
それに集中していたからか、ルキウスの問いかけは耳に届いていなかった。
「ル、ルミエーラ……?」
「失礼ながら。聖女様のご準備は整っております。神殿へ向かう意思をおありです」
(あります……!)
涙と戦っていたが、そんなことはルキウスからすれば知らない話。
「行く気があるのは良いことです。ならば参りましょう。……ルミエーラ。そこまで力をいれずとも問題ありませんよ」
(えっ)
ガン開きになってしまった瞳が、却ってやる気の現れに見えたらしい。ルキウスに苦笑いをされて、初めて自分の表情がおかしいことに気が付いた。
はっとすれば、恥ずかしくて涙も引っ込んでしまった。
「……バートン。短い滞在になってしまい申し訳ありません」
「いえ。……どうか、ルミエーラをよろしくお願いいたします」
「……もちろんです」
バートンの方を向けば、そっと背中に手を伸ばされた。とんっと軽く押されると同時に「行ってきなさい」という優しい声色で送り出された。
「行ってきます」
笑顔でその思いを受け取ると、私は神殿に向かうのだった。
◆◆◆
〈ルキウス視点〉
教会へ向かう間から到着してまで、胸騒ぎが収まらなかった。
(……なぜだろう。ここに、ルミエーラがいない気がする)
そんな不安感に駆られていた。
ソティカという監視の下、教会から抜け出すようなことはほとんど不可能なはずなのに。そう頭でわかっていても、嫌な予感は拭いきれなかった。
いざ教会の扉が開くと……そこには、予感とは違って無事にルミエーラと対面することができた。
(……良かった)
自分でも驚くくらい、妙に安心感を胸に感じていた。胸を撫で下ろしながらも、顔には出さずルミエーラ達に近付いた。
「ルミエーラ、準備はできていますか」
神殿に連れていくこと。
急に決まったことに、ルミエーラに加え騎士のディートリヒ卿からも不満の声を聞いていた。考えてみれば、神官長であるバートンでさえ納得していないだろう。
複雑な思いでルミエーラを見つめれば、彼女はなぜか力強い眼差しでこちらを見つめていた。
(な、なんだ。どうしたんだルミエーラは)
不満が今爆発しているのだろうか。そう焦りが生まれてくる。
(こんなルミエーラの表情は初めて見た……すまない。強引なことになってしまって)
驚きと申し訳なさを感じていると、ディートリヒ卿によって表情とは異なる回答が返ってきた。
(ほ、本当に神殿に行く気満々なのか? どうにもそういう風には見えないが……)
自分が半ば無理矢理連れていくことに後ろめたさもあったため、どうしてもルミエーラのあの表情が馬車に乗っても消えることはなかった。
▽▼▽▼
本日、この後もう一度更新があります。よろしくお願いいたします。
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