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107.祝福の花と反論者

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 会場に蔓延していた反対派の嫌な空気は薄まり、花々の美しい香りで満たされていた。

 ジュリアやデトロフ達が驚愕のあまり言葉を失う中、アルフォンスは誇らしそうにこちらを見て微笑んでくれた。ルキウスも何が起こったのかわからないようで、思考停止をしていた。

「大神官様!! た、大変です!!」
「ど、どうした?」

 そんな中、会場の入り口から一人の神官が勢いよく登場した。全員がその神官に注目する。

「し、神殿が! 突然大量の花に囲まれて……!!」
「な、なんだと!!」

 神官の報告に食いついたのは、ルキウスではなくデトロフだった。

「窓をお開けください! 外は大量の花が咲き誇っています!!」
「皆、窓を開けよ」
「……」

 ルキウスの指示に反応するというより、デトロフは嘘だと言わんばかりに焦った表情で窓に近付いた。

「こ、これは一体……」
「な、何が起こっている……?」

 先程まで勢いのあった反対派は、困惑を隠せない様子だった。マティアス殿下は外の景色を見て絶句していた。一通り窓の外の景色が確認できた一同は、落ち着かない様子で席に着いた。それはデトロフもジュリアも同じようで、怒りの形相でこちらを睨みつけた。

「き、貴様! お飾りの分際で何をした!!」
「そうよ! どんないかさまをしたのよ!!」
「品のない方々ですね。私は聖女として神聖力を使ったまでです」

 荒ぶる二人に、私は淡々と説明をする。

「そんなはずはない! お飾りの偽物聖女が力を使えるはずが……!!」
「騙したのね! 聖女ともあろう者が!!」
「力を使えないと、勝手に思い込み決めたのは貴方方です。私に非はありませんよ」
「そんな暴論が……!」

 私が喋れることに加えて、これほどまでに力を使えるとは微塵も思っていなかったロディオ家の二人は焦って支離滅裂なことまで言い出した。その二人を軽くあしらうと、今度は会場内の神官達に向けて発言した。

「皆様。ご覧の通り、私にも神聖力はあります。しかし、あまりにも強力で使いこなせなかったため、自分の意思で力が使えるになるまで抑えていました。使えるように訓練をした結果、無事に聖女としての力に変化させることができました。……これも全て、二人の大神官様のおかげでございます」
「ふ、二人の大神官だと……?」
「はい」

 私を見つけたサミュエル。そして、長い間面倒を見続けたルキウス。今となっては、二人の内一人が欠けていてもこの場には立てていなかった。

「私の力に気が付き、力を制御できるまで教会で訓練するように配慮してくださったのがルキウス大神官様です」
「ルミエーラ」
「そうですよね?」

 当然事実ではないので、ルキウスに心当たりは無いはずだが笑顔の圧で同意を促した。

「……その通りだ」
「「「!!」」」

 その回答に驚いたのは、反対派ではなく容認派の重鎮だった。

「聖女を正しく導いた者こそ、大神官にふさわしいと私は思います」
「き、貴様!」
「少なくとも! 祝祭という祝うべき日に、このような悪意ある舞台を用意するような私欲にまみれた方は、大神官はおろか、神官としてもその名を名乗るべきではありません。恥を知りなさい」
「なっ!!」

 正論だけを並べたので、デトロフには返す言葉も見当たらないことだろう。

「ジュリア・ロディオ、貴女もです」
「な、何よ!!」
「聖女と名乗るのに、神への敬意無しですか。祭壇の前に現れるやいなや、自分の力を見せびらかして……この場は貴女のお遊戯会の場ではないんですよ」
「!!」
(……神への敬意、私が語っていいかはわからないけど、今の思いからは許してほしいです、レビノレア)

 神嫌いだった聖女でも、誤解を解いた身なので。そう心の中で許しを請うた。
 
「ぎ、偽聖女は貴女の方でしょう⁉」

 甲高い声からは、まだ自分が聖女であると勘違いしている様子が伺えた。

(……回帰で会っても会わなくても、人はそう変わらない。貴女は結局そう人よね、ジュリア・ロディオ)

 憐みの眼差しで二人と反対派を見つめていれば、再びデトロフがおかしな主張をし始めた。

「こ、この花びらはそこの偽物ではなくジュリアが神からいただいた祝福だ! だいたい、こんなに大量の花を神聖力を使って出現させるなんて話馬鹿げている!」

 明らかに私の声と共に出現した花々だというのに、それさえも見なかったことにするデトロフ。

「そ、そうですよ! これはきっとレビノレア様がジュリア様を聖女として認めた証!」
「や、やはりジュリア様こそ本物の聖女だ‼」

 後に引けなくなった反対派は、デトロフの意見に追従する。その様子を私はあきれた目で眺めた。

「そういうことだ。貴様はつまり、お飾りの聖女ということよ!」

 言い切ったという顔でこちらを見るが、あまりにも取ってつけた暴論に返す言葉がなかった。

「言い返さないのは図星だからか?」

 私が黙ったのを見て、何故か余裕のある笑みを浮かべ始めるデトロフ。それに触発されて、さすがに言い返そうとしたその時。

「あまりにも貴殿の意見が馬鹿馬鹿しく、返す気にもなれんだけだ」
「お、お前は……!」

 会場の視線を、今度はサミュエルが集めるのであった。
 

  
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