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18. 鮮やかな対処

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 お茶会という名の選考は、いよいよ当日を迎えた。ここ数日で一番良い晴天の青空だった。

 時刻は朝の8時。
 ベアトリーチェ嬢が午前中に行い、お昼休憩を挟んだ後に午後がお嬢様の番となっている。

「そろそろベアトリーチェ嬢は準備が終わる頃かしら」

「そうですね」

 緊張を一切見せずに落ち着いた様子で座るお嬢様は、招待客リストを手に最終確認をしていた。

「招待客のほとんどが国内の貴婦人ばかりだけど、その中に他国からのお客様がいらっしゃる……挨拶は」

 他国というのは、デューハイトン帝国に隣接するトルム国。
 小さな国ながらも、安定した作物の収穫量と確かな技術力を持つ国だ。比較的穏やかな天候が続くため、とても住みやすい国でもある。今回お茶会に参加するのは、トルム国で外交を勤める侯爵の奥方だ。名をリブル夫人。
 お嬢様曰く、とても見識が広く人を見る目に優れているのだとか。それだけには留まらず、自国で数多くのご令嬢の淑女教育をしてきた実績もある。小さなミスでも彼女の前では誤魔化しが聞かない。

 トルム国では自国だけの言葉、トルム語が存在するが多くのものがここ周辺の公用語である大陸語を身につける。だが、事前に参加がわかっている手前無知で挑むのは得策と言えないだろう。
 
 それを心得ているお嬢様は、ぶつぶつとトルム語を確認し始めた。

 今回私は、お嬢様の指示で動くだけであまり役には立てなかった。それでも、お茶会のメインと言える茶葉に関しては知識をいくつか出すことができた。

ーーーーーー

 準備期間の出来事。

「トルム国ではミントティーが主流なのよね」

「そうですね。以前訪れた時にはミントティーが出されました」

「あら、シュイナは行ったことがあるの?」

「アトリスタ商会を立ち上げる前は養父ちちと世界各国を回りました。その際に」

「それは凄いわ……!」

 目を輝かせる姿を見ると、もしかしたらお嬢様は他国の地に興味があるのかもしれない。

「やはり知識として身につけるだけではなく、自分の目で確かめることに意味があると思うの。いつか行ければ良いのだけど」

「……問題が片付けば行けます、きっと」

「そうね」

 いつになく楽しそうにする姿を見ると、どうかお嬢様がいつか訪れることができるようにと心のどこかで願ってしまう。

「お嬢様に仕える前にトルム国との取り引きを割りと直近で担当したことがあるのですが、最近はフレッシュミントではなくドライミントを使う方が主流なんだとか」

「なるほど……当日までの時間で作れるかしら」

「最近は暖かいので3日でできるとは思いますが、保険をかけてフレッシュミントも用意しましょう」

「そうしましょう」

 お嬢様の言葉に頷くと、すぐさまミントの準備に取り掛かったのであった。


ーーーーーー

 前日に確認したが、ギリギリでドライミントは完成しそうだった。

「お嬢様、私はミントの最終準備に取り掛かりますね」

「えぇ、お願い」

「何かあったら叫んでください」

「今日に限って何かは起こらないと思うけど、わかったわ」

 普段の姿からあまり叫ぶ様子が想像できなかった為少し心配だが、ここから調理室までそう遠くなかったために大丈夫だろうと判断して部屋を出た。

 お茶会と言えばシュイナと名乗ってからは、指で数える程しか参加したことがない。ましてや主催したことは一度もない。だから、久しぶりにお茶会の裏方に関われてとても楽しかった。

 急ぎ足で調理室に向かうと、入り口に人影が見えた。どこか見覚えがある顔だ。

 向こうもこちらに気づいたが、意地の悪い笑みを浮かべて直ぐに去っていった。

 嫌な予感がする。

 そう感じて更に足を早めながら調理室へ入った。

「…………やりやがったな」

 思わずライナックの口調になってしまったが、誰も聞いてないので良しとしよう。
 問題は目の前で滅茶苦茶にされた茶葉ミントだ。

「…………」

 ご丁寧に、ドライミントとして作っていたものだけでなく予備として置いておいたフレッシュミントも駄目にしてくれた。
 
 そういえば、先程入り口からそそくさと逃げたのは先日私を無理やり連れていった侍女の一人だ。教養がないのは感じていたがここまでとは。手段を選ばない卑劣な手に思わず顔が曇る。

「そっちが手段を選ばないなら」

 こっちも選ぶ必要はないだろう。

 そう思いながら駄目になった茶葉ミントを集める。もはやドライミントもフレッシュミントも関係なく一つに集める。

 普通であれば、この光景を目にした瞬間諦めの文字しか浮かばないだろう。

 だがそれはであればの話だ。

 私は魔法使用をバレないように、小さな結界を展開する。そして、ミントに向かって復元魔法をかけた。

「……よし」

 駄目にされる前に戻ったミントをドライミントとフレッシュミントに分ける。
 幸いにも、茶葉ミントが盗まれた訳ではなかった為にこのような処置ができた。

 茶葉ミントを駄目にしてやったと思っているのはあの侍女だけで、指示を出したであろうベアトリーチェ嬢は目にしていない。だから何食わぬ顔でお茶会が成功したところで、内輪揉めが始まるだけで私の魔法がバレてしまう可能性は低い。悪事を働いているのだから、確認する術もない。

「相手にする人間を間違えたわね」

 そう呟くと整えた茶葉ミントを手に調理室を後にしたのだった。

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