滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

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50. 込められた意味

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 最終選考当日。

 いつも以上に早く起きて、入念に特訓を行った後即座にお嬢様の元へと向かった。

 今日という日はやはり早起きしているものではという予想が当たり、お嬢様の目は開いていた。

「おはようございます」

「おはよう、シュイナ」

 目覚めたのを確認すると、直ぐ様朝食の準備をする。それが終わり次第支度へ取りかかるという、思いの外今日のスケジュールは忙しいものであった。

「ではお嬢様、本日のお召し物ですが如何なさいますか」

「お茶会の時に着たドレスがあるでしょう」

「あぁ、銀色のとても綺麗な」

「それにするわ」

「かしこまりました」

 いつ見ても、細かな装飾は単一な色に対して華やかさを生み出している。

「このドレスはお嬢様史上最も大切なものですよね」

 着替える最中にお嬢様へ聞く。

「えぇ。願掛けをしてあるから」

「そのようなドレスが1つあると、やはり心の持ちようが違いますか」

「とてもね。……と言っても、私はこのドレスというよりは銀色に思いを込めてるのだけど」

「なるほど、と言いますと?」

 どうやらこのお守りには他にも何か深い意味があったようだ。
 
 一通り支度を済ませて、旦那様を待つ間に話を聞くことにした。

「シュイナは銀色というと何が想像できる?」

「そうですね……銀色は滅多に使いませんが、きらびやかとかでしょうか」

「ふふっ」

 身近に銀色は中々存在しないこともあり、お嬢様のドレスはとても珍しく思っていた。

「私はね、尊敬する方がいらっしゃるの。その方を連想させるから、御守りの色としてるのだけど」

「それは……もしかして、この件を引き受けた時にも言っていましたが、大公殿下のことですよね?」

「違うわよ?」

「えぇっ」

「ふふふっ。勘違いさせてたのね、ごめんなさい」

「い、いえ。お嬢様には何の非はないかと」

 突然の衝撃に思わず変な声がでてしまう。
 以前話した時、好意はないとはっきり示していた。だから尚更、尊敬する気持ちがあるから縁談を受けたのだと勝手に思考を固めていた。
 
「尊敬する方というのがね、エルフィールド国のロゼルヴィア王女なの」

「…………………え」

 世界が静止するとはこういうことか。

「シュイナは知らないと思うけれど、実は大公殿下の元婚約者様なの。今は亡きね」

「………………………」


「私はね、一度だけ姫様のお茶会に招待されたことがあって。その時は確か15歳とかだったかしら。ちょうど色々と自分の生き方に悩んでた頃だったの。たくさん抱えながら参加したのだけれど」

 そんな様子だったかどうかは、緊張し過ぎていた当時の私には何も思い出せない。

「浮かない表情は出さずに気を引き締めてたわ。お茶会の中で姫様と話す機会があって、その時に何気ない会話から、思わず悩みをこぼしてしまったの。世界を見てみたいと思うことはきっと叶わぬ夢なのだと」

「…………姫様は、何と」

「叶わない夢はないと。世界を見に足を運べなくても、他にも方法はある。他国にいく機会がない姫様でも、送られてきた朝顔の花に触れて初めて他国について触れられた。これはあくまでも例だけれど、多角的な視点から考えて挑戦してみればきっと叶えられる夢だと仰ってくれたわ」

「………………な、なるほど」

「その言葉を聞いてから語学の勉強とかをより精力的に取り組んだの。本当に姫様は素晴らしいお方よ。幼いとは思えない考え方、周りへの気遣いや対応の丁寧さ、一つ一つの所作もとても綺麗で」

「素晴らしい姫だったのですね!」

「えぇ、とても」

 何だかいたたまれなくなり、思わず遮ってしまった。顔は赤くなってないものの、心は恥ずかしさと照れで暖かくなっていた。

「だから……その姫様の代わりとして、恥じることのない姿で婚約者を務めたいの」

「…………」

 その言葉が酷くもどかしく感じた。

 フローラお嬢様はフローラお嬢様だ。誰かの代わりにならずとも、持ち合わせる魅力は多くある。だから、そんな風に背負わないでほしい。どうか、自分らしく生きてほしいと願った。

 だが、それを声に出すことはできない。

 虚しい想いが時間と共に、静かに溶けていった。

「そろそろお父様が来る頃かしら」

「そうですね」

「そう言えばシュイナ。貴女はしっかりとご実家に手紙を出してるの?」

「ついこないだ出しましたね。もう少しで最終選考だと伝えました」

「返事は?」

「昨日届いていましたが、まだ読んでいませんね」

「ならこの後読めるわね」

「はい、そうします」

 ライナックには簡潔な手紙になってしまったが、返事も恐らく同じようなものだろう。

「……騒がしくなってきたわね」

「到着したみたいですね」

「えぇ」

 旦那様の到着により、大公家の使用人には緊張感が走っているようだ。

 私とお嬢様も出迎える準備をするのであった。

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