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59. 落ちた意識の先で
しおりを挟む深く落ちた意識は、懐かしい記憶へと繋がった────。
ーーーーーー
「驚いたわ、城内で迷子になってる客人に会うのは初めてだったものだから」
「いや、本当に助かりました」
いつものように王立図書館へ行こうとした矢先、見知らぬ顔が少し困った顔で反対側から歩いてきたのである。
「格好から見るに商人よね」
「はい。アトリスタ商会の会長をしてるライナックという者です」
「アトリスタ商会?今日来てる商団は南の小国からと聞いたのだけれど、名前が違う気が……」
「今、臨時で手伝いをしてて」
「手伝い?」
どうやらこのライナックという男は、アトリスタ商会を立ち上げたはいいものの、より良い商品を探して世界を旅しているみたいだ。それと同時に自身の商会の商品の取り引き先も見つけているようだ。
南の小国の商団とはとは商会立ち上げ当初からの付き合いのようで、つい先日に取り引き内容の更新で訪問したらしい。すると慌ただしくする商団を見て、どうしたのかと尋ねれば不手際で他国への商談日が重なってしまったらしい。人手が足りない状況で、何かできることはあるかと手伝いを名乗り出たようだ。
無事にエルフィールドとの手伝いは終えたものの、移動の最中にはぐれて軽く迷子になっていたようだ。本人曰く、極度の方向音痴らしい。
「この後はもう予定がないので、皆が帰るまでに合流できれば大丈夫です」
「それなら時間があるの?」
「えぇ、ありますけど」
「なら少し話し相手になってほしいわ」
「いいんです?自分なんかで」
「世界各国を回ってるのでしょう?滅多に会えないわよそのような人には。とても価値のある時間になると思っているのだけれど」
「それは光栄ですね、では喜んで」
そうしてライナックによる楽しい旅の話が始まった。
「……凄く面白かったわ」
「何よりです」
商人だからか、話上手な彼の経験談はあっという間に終わった。
「何かお礼をさせて。本当に価値のある時間だったから」
「いや、話しただけですけど」
「その話がとてもよかったのよ」
「……あの姫様」
「何?」
「変わってるって言われません?」
「……婚約者によく言われてるわ」
「なるほど」
ライナック曰く、話に価値をつける人間には今まで一度も出会ったことが無かったようだ。商人にとって、こういう経験談はあくまでも取り引きをする際に役立つ程度のもので、こちらが主体になることなど無いと言う。
「俺は吟遊詩人ではなく、商人ですからね」
「話が上手いのは感じたわ」
「商人にとってそれは最大の褒め言葉ですよ」
「へぇ……」
それからもたくさんのことを教えてくれたり、暇な私に付き合ってくれた。
これが私とライナックの出会いだ。
そして時間は流れ、再会を果たしたのはあの惨劇の夜だった。
「おい、大丈夫か!?」
「…………」
意識が朦朧とする中、聞き覚えのある声がした気がした。
「しっかりしろ!」
呼び掛けながら彼は私を介抱した。後に安全を考慮して、デューハイトン帝国へ向かい私を匿った。
回復した時には、国は既に崩壊していた。残党狩りが行われていた為に、エルフィールドに近づくことはできなかった。ライナックは、失意に陥る私をただ静かに見守り支えてくれた。
それから数年は同胞を探す旅に付き合い、旅を終えた後は養父を名乗り出てくれた。
「姫様、貴女もそろそろ第2の人生を嫌でも歩み始めなくてはならないだろう。しがない商会長でよければ、いくらでも面倒見てやる」
「ライナック……」
「責任を持つ。巣立つまではな」
「そこまでしてもらう理由は……」
「今更何言ってんだ。気を遣うような間柄では無くなったと思ったんだが」
「確かに……そうだけれども」
「ならいいだろう。それに一番安全だろ、ここが」
裏表の無い、純粋な心配をしてくれたライナック。
彼は紛れもなく、私の第2の家族であった。
ライナックと過ごした日々が、たくさん思い出されていった。
ーーーーーー
どれくらい経ったのかわからないが、少しだけ意識が浮上したある日のこと。
「…………ん」
「……………………」
暖かな気配を感じた。
その気配はゆっくりと頭を撫でながら呟いた。
「……まだ寝てろ、回復しきってないからな」
何度も聞いた筈なのに、とても久しく感じたその声は安堵をもたらした。
自然と力が抜けて、再び私は意識を落とした。
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