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7話 アンズ
しおりを挟む次の日の夜、私はまた、ペンギンさん像の前で誠先生を待ちます。
以前何故ペンギンが祭られているのかとルシルさんに聞くと、この都市の動物園では国内最多数のペンギンがいるそうです。つまり霧夜はペンギンの街でもあるという事。今度、ルシルさんにお願いして連れて行ってもらいましょうか。
そんな事を考えてると、「あんたがいちご?」と私の名を呼ぶ女性の声。
振り返るとつり目の女の人が立っていました。抜群のスタイル。くるくるとした髪、派手なメイクが印象的です。
「はい。どうして私の名を?」そう聞くと、女性は前髪をかきあげ答えます。
「あたしも夢魔だから。あんたとはちょっと違うけどね」
驚きです。私とルシルさん以外に夢魔の方と始めて会いました。私とは違うということは、サキュバスの方でしょうか。それなら彼女のスタイルにも納得です。
「初めましていちごと申します。貴方のお名前は――」
何というのですか――そう伺おうとした瞬間、つり目の女性は私の言葉を遮り、
「アンズ。それにしても……ルシル様が眷属にしたって聞いて見に来たけど、なんであんたみたいなお子様なのかしらね」苛立つようにアンズは髪を指で巻き、答えます。
私はまたびっくりしてしまいます。
これは、敵意。私にこんな明確な感情を向ける人物はこの人が初めて。
「貴方も眷属なのですか?」
「違う。イヤミで言ってんの? いい? 眷属って事はあの人に一番近い存在でとても特別な事なの。……あの人は今まで誰も眷属にしなかったのだから。だからって思い上がらないでよね」
よく、分かりません。どうしてこの人は、私に怒っているんでしょうか?
言うなれば私はルシルさんの所有物。食器みたいな物なのです。それには何も特別な感情を抱いていません。主人は誰かと言うことだけですもの。
――あぁ、なるほど話が見えてきました。分かってしまえば簡単な事です。私は微笑みを浮かべて答えます。
「貴方も、ルシルさんの物になりたいのですか?」
私にも出来た事です。その望みは、決して難しい事ではありません。するとアンズさんは私を一層強く睨み、叫んだのです。
「あんた、自分を物みたいに言わないで! ルシル様はあんたを、女を物だと思う様な方じゃないわ!」
「ご、ごめんなさい……」あまりの剣幕で私は下に目線をずらしてしまいます。アンズさんはふぅっと息を吐き「あんたがルシル様の一番近くにいるのも気に入らないけど、自分を道具扱いする事にはもっと腹が立つわ。あんたはルシル様とあたし達、女を侮辱した。……もういい、行くわ」そう言って首を振り、カラフルな街灯の方へ歩いて行ってしまいました。
その後しばらく私は動けずに、街の雑音だけが耳に鳴り響いていました。
「……怒られた」私は呟きます。――不思議です。鋭い言葉をぶつけられたのに、ショックなのに、なんだか嬉しい。きっとあの人は、ルシルさんの為に、そして少しだけ私の為に怒ってくれたのだと思いました。
私はふと、後ろのペンギンさん像を見つめ、「良い人。あの人が嫌じゃ無いなら、また会いたいな」と、答えられる筈も無い銅像の動物に話しかけたのでした。
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