果実少女にグッドナイトを。

椎名幸夢

文字の大きさ
8 / 18

7話 アンズ

しおりを挟む

 次の日の夜、私はまた、ペンギンさん像の前で誠先生を待ちます。
 以前何故ペンギンが祭られているのかとルシルさんに聞くと、この都市の動物園では国内最多数のペンギンがいるそうです。つまり霧夜はペンギンの街でもあるという事。今度、ルシルさんにお願いして連れて行ってもらいましょうか。
 そんな事を考えてると、「あんたがいちご?」と私の名を呼ぶ女性の声。
 
 振り返るとつり目の女の人が立っていました。抜群のスタイル。くるくるとした髪、派手なメイクが印象的です。
「はい。どうして私の名を?」そう聞くと、女性は前髪をかきあげ答えます。
「あたしも夢魔だから。あんたとはちょっと違うけどね」

 驚きです。私とルシルさん以外に夢魔の方と始めて会いました。私とは違うということは、サキュバスの方でしょうか。それなら彼女のスタイルにも納得です。
「初めましていちごと申します。貴方のお名前は――」
 
 何というのですか――そう伺おうとした瞬間、つり目の女性は私の言葉を遮り、
「アンズ。それにしても……ルシル様が眷属にしたって聞いて見に来たけど、なんであんたみたいなお子様なのかしらね」苛立つようにアンズは髪を指で巻き、答えます。
 私はまたびっくりしてしまいます。
 これは、敵意。私にこんな明確な感情を向ける人物はこの人が初めて。
「貴方も眷属なのですか?」
「違う。イヤミで言ってんの? いい? 眷属って事はあの人に一番近い存在でとても特別な事なの。……あの人は今まで誰も眷属にしなかったのだから。だからって思い上がらないでよね」 
 よく、分かりません。どうしてこの人は、私に怒っているんでしょうか? 
 
 言うなれば私はルシルさんの所有物。食器みたいな物なのです。それには何も特別な感情を抱いていません。と言うことだけですもの。
 ――あぁ、なるほど話が見えてきました。分かってしまえば簡単な事です。私は微笑みを浮かべて答えます。
「貴方も、ルシルさんの物になりたいのですか?」
 私にも出来た事です。その望みは、決して難しい事ではありません。するとアンズさんは私を一層強く睨み、叫んだのです。
「あんた、自分を物みたいに言わないで! ルシル様はあんたを、女を物だと思う様な方じゃないわ!」
「ご、ごめんなさい……」あまりの剣幕で私は下に目線をずらしてしまいます。アンズさんはふぅっと息を吐き「あんたがルシル様の一番近くにいるのも気に入らないけど、自分を道具扱いする事にはもっと腹が立つわ。あんたはルシル様とあたし達、女を侮辱した。……もういい、行くわ」そう言って首を振り、カラフルな街灯の方へ歩いて行ってしまいました。
 
 その後しばらく私は動けずに、街の雑音だけが耳に鳴り響いていました。
「……怒られた」私は呟きます。――不思議です。鋭い言葉をぶつけられたのに、ショックなのに、なんだか嬉しい。きっとあの人は、ルシルさんの為に、そして少しだけ私の為に怒ってくれたのだと思いました。
 
 私はふと、後ろのペンギンさん像を見つめ、「良い人。あの人が嫌じゃ無いなら、また会いたいな」と、答えられる筈も無い銅像の動物に話しかけたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...