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9話 旧懐の世界
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笑い声が聞こえる。子供がはしゃぐ様な陽気な声だ。
目を開ける。すると視界はぼやけていて、目に染みる。ーーここは水の中だった。息が苦しい。僕はすぐに水面に上がると、目の前には太陽と青空と、水着姿の少年少女が映った。太陽の光が水面を反射して眩しい。近くにいた男子生徒が僕を見てはにかむ。
「お、誠ここに潜ってたのかよ? 探したんだぜ?」
この人は……見覚えがある。そうだ、思い出した。友人の一人だった、木村だ。最後に会ったのは、10年前に行われた同窓会だったか。
その時会った時は、すっかりおじさんだったのに、目の前の彼は若々しい。
「みんなあっちで集まってるから、誠も行こうぜ」
「あ、ああ……」
僕は随分と間抜けな返事をしてしまった。水面を見つめると、僕の姿は、少年の姿だった。髭も無いし、目元にしわも無い。――そうか、今は水泳の授業だ。職場の学校はプールすら無いから、とても懐かしい。
「本当に、僕は夢を見ているのか?」
夢にしては水の冷たさがはっきりしている。夢というより、まるで僕は20年前にタイムスリップしてきたようだ。
「――そう、これは貴方が見たいと願った夢。貴方が望んだ旧懐の世界ですよ」
聞き覚えのある声がした。振り向くとそこにはルシルと名乗った女性的な顔つきの青年の姿があった。
「木村君、楽しそうな所悪いんだけど、彼を借りてもいいかい? 話したい事があるんだ」
「あ、先生。了解っす。誠、じゃあまた後でな」木村は彼の言葉に頷き、向こうへ泳いでいく。
クラシックな背広を着ていた彼も今は水着姿の半裸で、身体付きは男なのに、どこか艶めかしく、恥ずかしくなった僕は咄嗟に目を背けてしまった。
「あはは、どうしたんですか?」ルシルは悪戯っぽい笑顔を見せる。最初から分かっていて聞いている様な……掴み所のない男だ。
「ど、どうして君はここに? それに先生って……?」
「せっかく貴方が望んだ素晴らしい世界だ。僕らもご一緒したいと思いましてね。なに、邪魔はしません。ただ、貴方を眺めていたいのです。今だけ僕は体育教師という事になっています。そういう風に、夢を書き換えたのです。学校の関係者じゃ無ければ、僕は不審者ですからね」ルシルは軽いジョークを言う様に告げた。
彼の話は現実味が無い。しかし、彼の口から聞かされると、妙に納得してしまう自分がいた。
そういえば、いちごという名のあの美少女は? 僕はあたりを見渡すと突然顔に水しぶきが掛かった。バシャバシャと水面を叩く音が聞こえる。
「ル、ルシルさん、待って下さい。私、そんなに早く泳げませんから……」
いちごは必死な表情でビート板を掴み、こちらに近づいてきた。「いちごちゃんは泳ぐの練習しないとね」ルシルは楽しそうに笑う。いちごは、この学校指定だったスクール水着を着ていた。
彼女はその幼い、子供らしい振る舞いとは逆に、とても淫美な印象を感じる。眺めていると、僕の全てが彼女に染まっていく様な、妖しい色気を放っていた。
「……あ、誠先生こんにちは。」ようやく近くまで来た彼女は息を切らしながら僕に頭を下げた。彼女には悪いが、そのギャップに僕は少し笑ってしまう。
「今の僕は、先生じゃないよ」
僕がそう言うと、今度はいちごは薄く頬笑んだ。
「そうでしたね。ですが、私はこの呼び方がとても好きなので、これからも貴方を先生と呼びたいのです」
――不意を突かれた。
「先生……か」
……やはりこの子は、清水夕梨花に似ている。
――誠君は、先生よりせんせいだね。
遠い日のあの言葉が、脳裏で再生された。そうだ、夕梨花はどこだろう? そう考えた瞬間、ルシルは目を細め、口元を緩める。
「さて、いちごちゃん、どうやら僕らはお邪魔みたいだから、向こうで泳ごうか」
「――はい、では先生、頑張って下さいね」二人はそう言うと、僕から離れていく。僕は慌てて二人に叫ぶ。
「待ってくれ! 彼女はどこに――」
「誠せんせい」
僕を呼ぶ少女の声がした。振り向く。20年の年月、一度だって忘れた事が無い声。
「今日も勉強を教えてくれる? ――せんせい」
あの美少女、いちごと同じ長い髪を揺らした清水夕梨花が頬笑んでいた。
目を開ける。すると視界はぼやけていて、目に染みる。ーーここは水の中だった。息が苦しい。僕はすぐに水面に上がると、目の前には太陽と青空と、水着姿の少年少女が映った。太陽の光が水面を反射して眩しい。近くにいた男子生徒が僕を見てはにかむ。
「お、誠ここに潜ってたのかよ? 探したんだぜ?」
この人は……見覚えがある。そうだ、思い出した。友人の一人だった、木村だ。最後に会ったのは、10年前に行われた同窓会だったか。
その時会った時は、すっかりおじさんだったのに、目の前の彼は若々しい。
「みんなあっちで集まってるから、誠も行こうぜ」
「あ、ああ……」
僕は随分と間抜けな返事をしてしまった。水面を見つめると、僕の姿は、少年の姿だった。髭も無いし、目元にしわも無い。――そうか、今は水泳の授業だ。職場の学校はプールすら無いから、とても懐かしい。
「本当に、僕は夢を見ているのか?」
夢にしては水の冷たさがはっきりしている。夢というより、まるで僕は20年前にタイムスリップしてきたようだ。
「――そう、これは貴方が見たいと願った夢。貴方が望んだ旧懐の世界ですよ」
聞き覚えのある声がした。振り向くとそこにはルシルと名乗った女性的な顔つきの青年の姿があった。
「木村君、楽しそうな所悪いんだけど、彼を借りてもいいかい? 話したい事があるんだ」
「あ、先生。了解っす。誠、じゃあまた後でな」木村は彼の言葉に頷き、向こうへ泳いでいく。
クラシックな背広を着ていた彼も今は水着姿の半裸で、身体付きは男なのに、どこか艶めかしく、恥ずかしくなった僕は咄嗟に目を背けてしまった。
「あはは、どうしたんですか?」ルシルは悪戯っぽい笑顔を見せる。最初から分かっていて聞いている様な……掴み所のない男だ。
「ど、どうして君はここに? それに先生って……?」
「せっかく貴方が望んだ素晴らしい世界だ。僕らもご一緒したいと思いましてね。なに、邪魔はしません。ただ、貴方を眺めていたいのです。今だけ僕は体育教師という事になっています。そういう風に、夢を書き換えたのです。学校の関係者じゃ無ければ、僕は不審者ですからね」ルシルは軽いジョークを言う様に告げた。
彼の話は現実味が無い。しかし、彼の口から聞かされると、妙に納得してしまう自分がいた。
そういえば、いちごという名のあの美少女は? 僕はあたりを見渡すと突然顔に水しぶきが掛かった。バシャバシャと水面を叩く音が聞こえる。
「ル、ルシルさん、待って下さい。私、そんなに早く泳げませんから……」
いちごは必死な表情でビート板を掴み、こちらに近づいてきた。「いちごちゃんは泳ぐの練習しないとね」ルシルは楽しそうに笑う。いちごは、この学校指定だったスクール水着を着ていた。
彼女はその幼い、子供らしい振る舞いとは逆に、とても淫美な印象を感じる。眺めていると、僕の全てが彼女に染まっていく様な、妖しい色気を放っていた。
「……あ、誠先生こんにちは。」ようやく近くまで来た彼女は息を切らしながら僕に頭を下げた。彼女には悪いが、そのギャップに僕は少し笑ってしまう。
「今の僕は、先生じゃないよ」
僕がそう言うと、今度はいちごは薄く頬笑んだ。
「そうでしたね。ですが、私はこの呼び方がとても好きなので、これからも貴方を先生と呼びたいのです」
――不意を突かれた。
「先生……か」
……やはりこの子は、清水夕梨花に似ている。
――誠君は、先生よりせんせいだね。
遠い日のあの言葉が、脳裏で再生された。そうだ、夕梨花はどこだろう? そう考えた瞬間、ルシルは目を細め、口元を緩める。
「さて、いちごちゃん、どうやら僕らはお邪魔みたいだから、向こうで泳ごうか」
「――はい、では先生、頑張って下さいね」二人はそう言うと、僕から離れていく。僕は慌てて二人に叫ぶ。
「待ってくれ! 彼女はどこに――」
「誠せんせい」
僕を呼ぶ少女の声がした。振り向く。20年の年月、一度だって忘れた事が無い声。
「今日も勉強を教えてくれる? ――せんせい」
あの美少女、いちごと同じ長い髪を揺らした清水夕梨花が頬笑んでいた。
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