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17話 メリーの涙
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「味の感想はどう?」
食後の珈琲を飲みながらアンズ姉さまは言いました。
「はい! 美味しかったです。私凄く、満たされてます」
私は食器を洗いながら答えます。
「そ、なら良かった。……後でルシル様も喜んでくれるかな」
姉様はそっぽを向きながら喋ります。口元が微笑んでいるのが見えました。
「きっと! それにしても食べる事がこんなにも幸せな事だったなんて、羊だった私に今すぐ教えに行ってあげたいくらいです」
私がそう言うと姉様は、「羊? なにそれ」と不思議そうに疑問を口にします。
「あ、私、ルシルさんと出会う前は羊だったんです。前の名前はメリーと言います。」
「……意味が分からない」姉様は難しい顔をします。私は昔を思い出し、少し笑いました。ほんの半年くらい前なのに、ずっと昔を思い出す様に感じられます。
「ですから私は人間では無かったのです。私は生まれた時から私は14歳で、主あるじである男性に、食べられる為に生まれたんです。だから私は、羊に近い生き物だったと思うのです」
「いちご、あんた……」
姉さまは手を口に添えました。添えた手が少しだけ震えていました。私は笑います。このお話は、姉さまが驚く様な事なんてないのに。
「メリーの私は、食べられる前に死にました。ルシルさんはそんな私を眷属として生かしてくれました。私は食べられる以外の生き方はまだ分からないから、とりあえず捜してみようと思うのです。」
「だから眷属に……。ルシル様は優しい人だから……。事情は分かった。」
アンズ姉さまの目線は、部屋で眠る先生に移ります。
「あれが今回の客ターゲットね。話は聞いているけど、女に夢を見て、自分が愚かな事に気が付かなかったなんて、馬鹿な男」
姉さまが先生に向けた言葉は、あまりにも厳しいものでした。
「そうでしょうか? 私はとても一途で、素敵な人だと思います」
「あんた、買われそうになったのよ? それも他の女と重ねられて。あいつが憎くないの?」
「ちっとも。先生がそれで幸せになれるのなら、私はとても嬉しいのです」
「……あんたは私より淫魔に向いてそうね」アンズ姉さまはため息を吐きました。
「叶うなら、あたしは天使になりたい。穢れを知らないで、ルシル様に会いたい。」
そう言って、珈琲を飲む姉様の瞳は、海面の様に揺らいでいました。私達悪魔がいるなら、天使もきっと存在するのでしょう。
私はもっと姉様を知りたくて、訪ねてみます。
「姉様は、淫魔がお嫌いなのですか?」
「少し前からね。前は当たり前の事だと思っていたけれど、ルシル様と出会ってから、自分が凄く恥ずかしくなって……そして悩むの。私はこの人を好きになる資格があるのか……てね」
「……姉様」その言葉は冷静な姉様から想像できない様なか弱さがありました。
「あんた……泣いてるの?」
「――えっ」
瞳に触れると、手の甲は濡れていました。
私は、何故こんなにも悲しいのでしょうか?
恋。夢で見かけた、既に食べられてしまった夕梨花さん。
恋を20年間ひきずり続けた誠先生、自分を恥じるアンズ姉様。
みんなみんな恋をしています。ルシルさんだって、好きな人がいるのかもしれない。
私は、違う。
私には恋い焦がれた男の人はいません。
私は羊だから。少女では無いのだから。
夜が恐ろしいのと同じで、私は世界で一人ぼっちという事実を突き付けられた様に思えたのです。
アンズ姉さまは私の頭をそっと撫でます。とても、優しい感触でした。
「そっか。あんたにとって、その美しさは呪いなのね」
食後の珈琲を飲みながらアンズ姉さまは言いました。
「はい! 美味しかったです。私凄く、満たされてます」
私は食器を洗いながら答えます。
「そ、なら良かった。……後でルシル様も喜んでくれるかな」
姉様はそっぽを向きながら喋ります。口元が微笑んでいるのが見えました。
「きっと! それにしても食べる事がこんなにも幸せな事だったなんて、羊だった私に今すぐ教えに行ってあげたいくらいです」
私がそう言うと姉様は、「羊? なにそれ」と不思議そうに疑問を口にします。
「あ、私、ルシルさんと出会う前は羊だったんです。前の名前はメリーと言います。」
「……意味が分からない」姉様は難しい顔をします。私は昔を思い出し、少し笑いました。ほんの半年くらい前なのに、ずっと昔を思い出す様に感じられます。
「ですから私は人間では無かったのです。私は生まれた時から私は14歳で、主あるじである男性に、食べられる為に生まれたんです。だから私は、羊に近い生き物だったと思うのです」
「いちご、あんた……」
姉さまは手を口に添えました。添えた手が少しだけ震えていました。私は笑います。このお話は、姉さまが驚く様な事なんてないのに。
「メリーの私は、食べられる前に死にました。ルシルさんはそんな私を眷属として生かしてくれました。私は食べられる以外の生き方はまだ分からないから、とりあえず捜してみようと思うのです。」
「だから眷属に……。ルシル様は優しい人だから……。事情は分かった。」
アンズ姉さまの目線は、部屋で眠る先生に移ります。
「あれが今回の客ターゲットね。話は聞いているけど、女に夢を見て、自分が愚かな事に気が付かなかったなんて、馬鹿な男」
姉さまが先生に向けた言葉は、あまりにも厳しいものでした。
「そうでしょうか? 私はとても一途で、素敵な人だと思います」
「あんた、買われそうになったのよ? それも他の女と重ねられて。あいつが憎くないの?」
「ちっとも。先生がそれで幸せになれるのなら、私はとても嬉しいのです」
「……あんたは私より淫魔に向いてそうね」アンズ姉さまはため息を吐きました。
「叶うなら、あたしは天使になりたい。穢れを知らないで、ルシル様に会いたい。」
そう言って、珈琲を飲む姉様の瞳は、海面の様に揺らいでいました。私達悪魔がいるなら、天使もきっと存在するのでしょう。
私はもっと姉様を知りたくて、訪ねてみます。
「姉様は、淫魔がお嫌いなのですか?」
「少し前からね。前は当たり前の事だと思っていたけれど、ルシル様と出会ってから、自分が凄く恥ずかしくなって……そして悩むの。私はこの人を好きになる資格があるのか……てね」
「……姉様」その言葉は冷静な姉様から想像できない様なか弱さがありました。
「あんた……泣いてるの?」
「――えっ」
瞳に触れると、手の甲は濡れていました。
私は、何故こんなにも悲しいのでしょうか?
恋。夢で見かけた、既に食べられてしまった夕梨花さん。
恋を20年間ひきずり続けた誠先生、自分を恥じるアンズ姉様。
みんなみんな恋をしています。ルシルさんだって、好きな人がいるのかもしれない。
私は、違う。
私には恋い焦がれた男の人はいません。
私は羊だから。少女では無いのだから。
夜が恐ろしいのと同じで、私は世界で一人ぼっちという事実を突き付けられた様に思えたのです。
アンズ姉さまは私の頭をそっと撫でます。とても、優しい感触でした。
「そっか。あんたにとって、その美しさは呪いなのね」
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