17 / 18
16話 アンズとポトフ
しおりを挟む次に瞼を開けると私たちのマンションに戻っていました。目の前のベッドには青白い表情をした先生の姿があります。
「先生……」
「彼は起きないよ。意識――いや、魂は向こう側だもの。ここにいる誠さんは空のビンさ」
ルシルさんは"夢"が入ったラムネ瓶を眺めながら答えました。
私は彼の寝顔を見ながら思います。先生。私はあれから考えたのです。そして答えが見つかりました。
貴方は何も無いはずなんてありません。
だって、あの時悪魔の私を天使と言ってくれた事が、とても嬉しかったから。何も無い人がそんな事を、言えるはず無いのだから。
私が、証明してみせますから。今日はおやすみなさい。
突然、インターフォンが鳴り響きます。こんな夜中なのに、一体どなたでしょうか?
「借金取りじゃなきゃいいけど」ルシルさんは背伸びをしながら言います。
「借金取り?」
「怖い人達さ。今僕はお金が無いから、いちごちゃんを渡す事になるかも」
「私はルシルさんの物なので、売られるのは構いませんが、怖いのは嫌です」
ルシルさんはため息をつきました。つまらない、と言いたげに。
「君にはこの手のジョークは通じないねぇ。大丈夫。俺はお金を持っていないんじゃなくて、お金を持ちすぎない様にしてるだけだからさ。お客はきっとあの子だな」
ドアが開き、現れたのはーー
「る、ルシル様はいますか……?」
私達と同じ夢魔の先輩、淫魔のアンズ姉様でした。両手には赤い大きな鍋を抱えています。
「お仕事、お疲れ様でした。あ、あたしポトフを作ったので良かったら食べてください。その……お口に合えば、ですけど……」
私は衝撃を受けています。以前会ったアンズ姉様とは性格が全然違います。自信に溢れていた前とは違い、まるで全てに恥じらっているかの様でした。
「やぁアンズ。君の料理は絶品だからね、是非食べたいな。ただ、ちょっと今から出掛ける用事があるんだ。そのポトフはいちごちゃんと食べててくれ」
「そんなっ! あたしはルシル様だけに食べて貰いたくて……」
アンズ姉様は泣き出すみたいに声をあげます。ルシルさんはなだめる様に笑います。
「いちごちゃんは俺の眷属だから、大体俺みたいなもんだよ。後で俺も食べるから、残しておいてくれ」
そう言ってルシルさんは向こう側を向きながら手を上げ、部屋を出て行ってしまいました。アンズさんが持ってきたポトフは、凄く美味しそう。……お腹空いたなぁ。
そう思うと同時に、私のお腹が音を立てました。
「……アンズ姉様。先に私達で食べちゃいましょう」
聞かれたアンズ姉様は凄く嫌そうな顔をします。
「なんであんたにあげなきゃいけないのよ。それに、あたしはあんたの姉になった覚えはないんだけど」
私は笑います。いつものアンズ姉様に戻りましたね。
「私、この前のアンズ姉様の言葉に凄く感動しました! 私もアンズ姉様に格好良く、美しい女性になりたいのです。だから、私は貴方を姉様と呼ばせてもらいます」
アンズ姉様は顔を赤らめ、それを隠す様に、そっぽを向きます。
「……ふーん。ま、まぁ悪い気はしないわね。それにルシル様は、見たところあんたを妹みたいに思ってるみたいだし……。――いいわ。一時休戦としましょう」
アンズ姉様は苦笑を浮かべて、鍋をキッチンコンロに運びます。
「ほらいちご、暖めるからちゃっちゃとお皿の準備して」
「――はい!」
私は最初から姉様と争っている訳ではないのですが。でも、姉様に認められ、一緒に食事が出来るという事は、とても嬉しいなと、私は思いました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる