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15話 いじわる
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「でも、ご安心下さい。俺の名前はルシル・メア・グッドナイト。この名に賭けて、貴方の様な人間でも、良き夢を見る事を約束しましょう」
ルシルさんは、廃人の様な誠先生にニッコリと微笑みます。
「……え」
「貴方に都合が良い夢を見ればいいのです。清水夕梨花は純潔のままで、貴方の告白を快く受け入れる事でしょう」
うなだれていた先生の瞳に、少しの光が宿るのが見えました。ですが私には、その光は退廃的な輝きに思えてならないのです。
「そんな事……出来るのか?」
「えぇ、簡単ですよ! 我々は夢のプロフェッショナルですから。ただし、ひとつ注意点があります」
ルシルさんは指に手を当て、ウインクをします。まるでテレビのコマーシャルの様に。または、詐欺師のように。
「今回は旧懐の夢でしたが、次は妄想の類の夢になります。夢の性質は随分と異なります。今の状態の貴方がその世界に行くことは、もう現実に戻れなくなる、と言う事になりますが」
「それでも、いい……最低な僕には過去も今も、居場所なんて無いのだから」
そう言った先生は、からっぽでした。
「――かしこまりました」
ルシルさんはそう言って目を閉じます。……どうしてでしょうか。ルシルさんは先生を突き放し、死をいざなう言葉を告げたのに、静寂に耳を傾けるような、そんな表情を一瞬だけしたのです。
「では今日はそろそろ帰らせていただきます。明日学校前で会いましょう。――今宵は良き夢を」
ルシルさんは歩き始めます。先生はずっと地面にへたり込んだまま動きませんでした。
「お待たせ。夢投影はきちんと出来たかい?」
ルシルさんは私にいつもの様に頬笑みます。今回私は遠くで見ている様にと言われたのでその通りにしました。【夢投影】という夢魔の力の一つで、夢の中では他人の視界を脳裏に映す事が出来ると教そわりました。
今回私は練習という事で、先生の視界を観ていました。……ですが。
「さて帰ろうか。葛城さんから前払い金も受け取っているから、御馳走でも食べに行こう」
「……ルシルさん。どうして、先生を殺すのですか?」
私はそう言いながら、声がいつもより低い事に少し驚いています。
今、私の中に、大雨が降り注いでいる。風が吹き荒れている。そんな気持ちです。
もしかして、私は今、怒っているのでしょうか?
羊だった頃は、あってはならない感情。許されない感情。そして思い出します。羊の私は、既に死んでしまっているのだと。
「あはは、人聞きが悪いなぁ。僕はそういう道もあると教えただけだよ。夢は人間が幸福を感じる事で作られるけど、絶望する事によっても作られる」
そう言いながらルシルさんは鞄からさっき私が飲んでいたラムネの瓶を取り出しました。中身は炭酸飲料では無く、オーロラの様な藍色や紫、シアンが入り混じった液体です。
「これが夢だよ。綺麗だろ? 希望と絶望を感じさせる事が一番夢を集めるのに効率的なのさ」
王様の言葉に、私は疑問を感じます。
効率的。それは、貴方が一番嫌っていた言葉では無いのでしょうか?
「……ルシルさんは意地悪です」
「うん、そうだよ。悪魔はみんな意地悪さ。幻滅したかい?」
私は首を振ります。そんなの嘘です。だって、私は貴方に奪われたのだから。
「意地悪は、私だけにしてください」
ルシルさんはほんの一瞬、表情が固まり、すぐに微笑みます。
「……なるほどね。じゃあこれ以上意地悪をしないように、後は君に任せよう。いちごちゃん。君が葛城誠を見届けるんだ。いいね?」
「ーーはい」
ルシルさんは頷くと翼を広げ、私の視界いっぱいに広がります。私は怒りを忘れて少し安心します。
ルシルさん、貴方はとても意地悪だけど、本当は優しい王様な事を、私は知っているのです。
ルシルさんは、廃人の様な誠先生にニッコリと微笑みます。
「……え」
「貴方に都合が良い夢を見ればいいのです。清水夕梨花は純潔のままで、貴方の告白を快く受け入れる事でしょう」
うなだれていた先生の瞳に、少しの光が宿るのが見えました。ですが私には、その光は退廃的な輝きに思えてならないのです。
「そんな事……出来るのか?」
「えぇ、簡単ですよ! 我々は夢のプロフェッショナルですから。ただし、ひとつ注意点があります」
ルシルさんは指に手を当て、ウインクをします。まるでテレビのコマーシャルの様に。または、詐欺師のように。
「今回は旧懐の夢でしたが、次は妄想の類の夢になります。夢の性質は随分と異なります。今の状態の貴方がその世界に行くことは、もう現実に戻れなくなる、と言う事になりますが」
「それでも、いい……最低な僕には過去も今も、居場所なんて無いのだから」
そう言った先生は、からっぽでした。
「――かしこまりました」
ルシルさんはそう言って目を閉じます。……どうしてでしょうか。ルシルさんは先生を突き放し、死をいざなう言葉を告げたのに、静寂に耳を傾けるような、そんな表情を一瞬だけしたのです。
「では今日はそろそろ帰らせていただきます。明日学校前で会いましょう。――今宵は良き夢を」
ルシルさんは歩き始めます。先生はずっと地面にへたり込んだまま動きませんでした。
「お待たせ。夢投影はきちんと出来たかい?」
ルシルさんは私にいつもの様に頬笑みます。今回私は遠くで見ている様にと言われたのでその通りにしました。【夢投影】という夢魔の力の一つで、夢の中では他人の視界を脳裏に映す事が出来ると教そわりました。
今回私は練習という事で、先生の視界を観ていました。……ですが。
「さて帰ろうか。葛城さんから前払い金も受け取っているから、御馳走でも食べに行こう」
「……ルシルさん。どうして、先生を殺すのですか?」
私はそう言いながら、声がいつもより低い事に少し驚いています。
今、私の中に、大雨が降り注いでいる。風が吹き荒れている。そんな気持ちです。
もしかして、私は今、怒っているのでしょうか?
羊だった頃は、あってはならない感情。許されない感情。そして思い出します。羊の私は、既に死んでしまっているのだと。
「あはは、人聞きが悪いなぁ。僕はそういう道もあると教えただけだよ。夢は人間が幸福を感じる事で作られるけど、絶望する事によっても作られる」
そう言いながらルシルさんは鞄からさっき私が飲んでいたラムネの瓶を取り出しました。中身は炭酸飲料では無く、オーロラの様な藍色や紫、シアンが入り混じった液体です。
「これが夢だよ。綺麗だろ? 希望と絶望を感じさせる事が一番夢を集めるのに効率的なのさ」
王様の言葉に、私は疑問を感じます。
効率的。それは、貴方が一番嫌っていた言葉では無いのでしょうか?
「……ルシルさんは意地悪です」
「うん、そうだよ。悪魔はみんな意地悪さ。幻滅したかい?」
私は首を振ります。そんなの嘘です。だって、私は貴方に奪われたのだから。
「意地悪は、私だけにしてください」
ルシルさんはほんの一瞬、表情が固まり、すぐに微笑みます。
「……なるほどね。じゃあこれ以上意地悪をしないように、後は君に任せよう。いちごちゃん。君が葛城誠を見届けるんだ。いいね?」
「ーーはい」
ルシルさんは頷くと翼を広げ、私の視界いっぱいに広がります。私は怒りを忘れて少し安心します。
ルシルさん、貴方はとても意地悪だけど、本当は優しい王様な事を、私は知っているのです。
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