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8話 不安定な身体
しおりを挟むホテルから出るとフラフラしながらもなんとか自分の家へ帰ることが出来た。
何をされたかなんて別にどうだって良かった。
歩きながら
(疲れた……疲れた……疲れた……疲れた……)
頭の中で、ゲームのモブのように同じ言葉を繰り返していた。
家へ入ると、持っていたカバンを雑に玄関に置く。
服のままベッドへ倒れると、目の前にある布団を手繰り寄せて、抱きしめながら泥のように眠った。
◆
悲しい……
いつも見る夢。泣いてるのは……僕?
「何で?どうして?」
勝手に話し始める自分の声が聞こえた。
「ごめん。本当にごめん……これから絶対に大切にするから……戻ってきてよ……」
上手く言葉が出てこない。
「お願い。尚人ぉ……」
尚人は微動だにせず、呆れた顔をし、興味が無いといった表情になりツキを見つめるだけだった。
──尚人の服に泣きながら必死に縋る自分。
繰り返し見る夢。
──無理だよ
尚人は感情の無い声で、必ずそう答える。
新しい恋人がいる彼には、僕の言葉はもう届かない。
「やだよ……。戻って来てよ……」
涙が溢れて止まらない。
悲しい……悲しい……
寂しい……
……ごめんなさい。
◇
ふと、目が覚める。
夢との境がわからず、喉の奥が痛いくらい熱かった。
起きてからも、勝手に涙が溢れて止まらない。
あまりにも余韻が強くて、この夢をみてしまうと気持ちが抑えられなくなってしまう。
脳裏に焼きついた記憶に喉が締め付けられた。
「……ウゥ……」
痛いくらい自分の身体を抱きしめながら、気持ちのコントロールが出来ずに泣いた……
夢だったと理解しながらも、心臓が締め付けられているように呼吸がしづらかった。
目を閉じてしまうと、夢の中の自分に飲み込まれてしまい、怖い──
僕にとって、現実よりも夢の中は苦しい世界なんだ……
少しすると、やっと落ち着いてきた。
「──仕事に行かなきゃ……」
”やることがある”と、頭が認識すると、さっきまでの苦しさが、急に和らいだ。
──今日は土曜。
夜はバーでの勤務がある。
この夢を見てしまった日は、特に夜は一人でなんていられない。
一人は──嫌だ。
◇
……あれから身体が痛い。
一晩限りの相手を探していた時ですら、無理矢理されたことは無かった。
──また呼ぶから。
アイツはそう言っていた。
目的は?
興味本位?
シャワーを浴びながら考えてみたけど、答えにはたどり着けなかった。
鏡に映る身体には、アザや噛まれた跡がいくつもある……
「あいつ……」
昨晩の出来事を思い出すと、無力な自分と押さえつけられながらした乱暴な行為にイライラした。
◇
シャワーから出ると、スマホの画面が光っていた。
見ると壮一からのメッセージだった。
《今日は?》
《迎えに来て》
《わかった》
店での勤務が終わると、迎えに来た壮一と一緒に、彼の家へ向かった。
──今日、千景は店に来なかった。
◇
壮一はいつもと様子が違う僕を心配して、ずっととなりに居てくれた。
お風呂に入ると、身体を洗って、ドライヤーで髪を乾かして、温かい飲み物を入れてくれる。
僕の方が二つ年上だけど、壮一の方がお兄さんでみたい……むしろ「お母さん」と言ってもいいくらい世話焼きになる。
壮一は僕の身体のキズに気付いている……
でもそのことには触れなかった。
少し眠くなり、布団に横になっていると『もう遅いから寝よう』そう言って、優しく声を掛けてきた。
「まだ……こっちにきてよ……」
両手を広げて、壮一を身体へ招き入れる。
僕がワガママを言うと、壮一は小さくため息をつきながらも、諦めたように微笑んだ。
そっと唇を重ねて、身体に残るアザや傷跡を優しくなぞりながら丁寧に肌に触れてくれた。
昨夜のことも、夢の続きを思い出すのも、全部……。
もう考えたくなかった。
「眠るまで抱いて……」
「わかった」
痛まないように……まるで壊れ物のように丁寧に動き始めた。
優しい熱が体の奥まで広がり、思考がゆっくりと薄れていく──
昨日の冷たい手を忘れさせてくれる、甘くて穏やかな波に、僕は無理やり溺れていった。
◇
瞼が重くなり、壮一に身体を寄せてうとうとしていると、
「これ、どうしたんだ?」
と、ついに聞かれた。
「──なんでも無いよ」
「わかった。でも、何か困ったことがあるなら話せよ」
「うん……」
セックスなんて気持ちよければそれでいいじゃないか……。
誰でもいいから、夢をみないで眠れるくらい深く抱いて欲しい……
何も考えたくない。
──ただ、眠りたいだけなんだ。
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