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第23話 ご挨拶
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ガーノスさんの奥さんの手料理は、優しく、温もりを感じさせる味だった。
都会に出ていた人間が、久しぶりに実家へ帰り、懐かしい家の味を口にした時のような感覚。
——いわゆる“母の味”というやつ。
そんな奥さんやガーノスさん、受付のアリーシャさんと他愛のない話をしていた時、
別館のドアが控えめにノックされた。
「お迎えに上がりました。ヨシヒロ様」
「あ、あなたは……アーロンさんの……」
「クロノスと申します。陛下がお待ちです。参りましょうか」
「ありがとうございます。それでは……」
ドアの向こうに立っていたのは、アーロンさんの護衛騎士・クロノスさんだった。
どうやら俺を迎えに来てくれたらしい。
一緒に出ようとした、その時——ロウキが静かに口を開いた。
「我はここで待つ。城には行かん。ガーノスとやら、構わぬか?」
「ああ、俺は構わないぜ。ヨシヒロが戻るまで、俺と話でもしようや」
「そういうわけだ、ヨシヒロ。クロとユキを連れて行ってこい」
「分かりました。ガーノスさん、ロウキをよろしくお願いします」
「おう! 任せな」
やっぱりロウキは、王城そのものに近づきたくないようだった。
その意思を尊重し、俺はユキとクロを連れて、用意されていた豪華な馬車へと乗り込んだ。
ロウキの気持ちは、分かる。
それに、ガーノスさんなら安心して任せられるだろう。
そう考えながら、揺れる馬車の中から街の景色を眺めていた。
露店から漂ってくる美味しそうな匂い。
目を引く装飾品や、行き交う人々の活気。思わず胸が高鳴る。
やがて雰囲気は一変し、貴族の屋敷と思しき建物が立ち並ぶ区域へ入った。
そしてその奥に現れたのは、白く輝く大きな城だった。
「ここは変わらないな! 前より、だいぶ年季が入ってるけど!」
「そっか。クロは、前の主と来たことがあるんだよね?」
「うん! 魔道具を届けに来たり、頼まれごとを聞きに来たりしてた!」
城を前に、クロは懐かしそうに声を弾ませた。
それはきっと、温かく、大切な記憶なのだろう。
——だけど、ロウキにとっては違う。
この場所は、きっと今も癒えない傷を思い出させる場所だ。
そう思うと、胸の奥が少し重くなった。
馬車は城門前で止まり、降りると、鎧をまとった騎士たちが整然と並んでいた。
「アーロン陛下の客人です。失礼のないように」
「はっ! 話は伺っております直。どうぞ、お通りください!」
クロノスさんの一言で、俺たちはすんなりと城内へ通された。
それでも、この厳かな雰囲気に、どうしても背筋が伸びてしまう。
豪華な装飾が施された回廊を進み、やがて「応接間」と書かれた扉の前で足が止まった。
「失礼いたします」
「ああ。入ってくれ」
扉を開けると、そこには——
「……アーロン、さん?」
「やぁ、ヨシヒロ。何をそんなに固まっている。早くこちらへ」
王冠を戴き、深紅のマントを纏ったアーロンさん。
その姿は、どう見ても、この国を統べる“国王”そのものだった。
これまで感じたことのない圧倒的な威圧感に、
俺は言葉を失い、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
そんな俺を見てアーロンさんは楽しそうに笑い、手招きする。
そんな中、ユキが無邪気に歩み寄っていった。
「あっ! ユキ、ダメ——」
「構わんよ。そなたはユキというのか?」
「はい。男の子なんですけど、幸せになってほしくて、
“幸せ”という漢字でユキと名付けました」
「ほう……良い名だな」
アーロンさんはユキを抱き上げ、優しく頭を撫でる。
その様子は、王というより、動物好きな一人の男性そのものだった。
「俺はクロって言うんだぜ!」
「クロか。そなたにぴったりの名だな。良い主に出会えたな」
「そうだろ! 俺、今すっげぇ幸せなんだ!」
「こら、クロ……!」
「いい。私にこうして話しかけてくれる者は、そう多くない」
その光景を見て、胸の奥が少し温かくなる。
——だけど、その空気を切り裂くように、咳払いが響いた。
「王の御前です。従魔の躾は、主の責任ですよ」
現れた青年は、鋭い視線をこちらに向ける。
だけど、アーロンさんは即座に言い返した。
「やめろ、ベル。こちらは私の友人だ」
「申し訳ございません……
ヨシヒロ殿、失礼いたしました。
改めまして、私はここでアーロン陛下に仕えております、ベル・ブラックと申します」
青年——ベル・ブラックと名乗った彼は、慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、すみません」
冷静に見ても、陛下に友人と呼ばれている俺は違和感しかないだろう。
見た目は17歳の青年だからな……
俺がベルさんのことを気にしていると、アーロンさんはロウキのことを気にしてくれていた。
「ヨシヒロ、ロウキ殿は庭に?」
「あ、いえ。ギルドでガーノスさんと一緒にいますよ」
「ああ、ガーノスか。アイツは元・王国御用達の冒険者でな。
歳も近くて、若い頃から一緒にやってきたんだ。
だから今回のことも、快く引き受けてくれたよ」
「だからアーロンさんのことを呼び捨てにしてたんですね」
そんなことを思っていると、応接間のドアが開き、女性と男性が入室してきた。
「ヨシヒロ。私の妻と娘と息子たちだ直。よろしく頼む」
「初めまして。夫から話は聞いています。
妻のレイラ・ソウリアスと申します。今後も夫と仲良くしてやってくださいね」
「初めまして。私はソウリアス王国王家の長男、ルーク・ソウリアスです」
「ヨシヒロ様、初めまして。
私はソウリアス王国王家の長女、ルーシー・ソウリアスでございます」
「初めまして! 僕はソウリアス王国王家の次男、レイロン・ソウリアスです!」
「えーっと……ヨシヒロと申します。
アーロン陛下とは良いお付き合いをさせていただいています。
こちらは使い魔のクロ、そして従魔のユキです。
ユキの父親はロウキと言って、今は冒険者ギルドで待機中です」
突然、アーロンさんの妻と子どもたちが姿を現し、
王家全員との対面という、想定外の展開へ突入した。
礼儀正しく、穏やかで、どこか温かい王家の人々。それでも——
(……もう、帰りたい)
心の中で、何度目か分からない本音を叫びながら、俺は必死に笑顔を保っていた——……
都会に出ていた人間が、久しぶりに実家へ帰り、懐かしい家の味を口にした時のような感覚。
——いわゆる“母の味”というやつ。
そんな奥さんやガーノスさん、受付のアリーシャさんと他愛のない話をしていた時、
別館のドアが控えめにノックされた。
「お迎えに上がりました。ヨシヒロ様」
「あ、あなたは……アーロンさんの……」
「クロノスと申します。陛下がお待ちです。参りましょうか」
「ありがとうございます。それでは……」
ドアの向こうに立っていたのは、アーロンさんの護衛騎士・クロノスさんだった。
どうやら俺を迎えに来てくれたらしい。
一緒に出ようとした、その時——ロウキが静かに口を開いた。
「我はここで待つ。城には行かん。ガーノスとやら、構わぬか?」
「ああ、俺は構わないぜ。ヨシヒロが戻るまで、俺と話でもしようや」
「そういうわけだ、ヨシヒロ。クロとユキを連れて行ってこい」
「分かりました。ガーノスさん、ロウキをよろしくお願いします」
「おう! 任せな」
やっぱりロウキは、王城そのものに近づきたくないようだった。
その意思を尊重し、俺はユキとクロを連れて、用意されていた豪華な馬車へと乗り込んだ。
ロウキの気持ちは、分かる。
それに、ガーノスさんなら安心して任せられるだろう。
そう考えながら、揺れる馬車の中から街の景色を眺めていた。
露店から漂ってくる美味しそうな匂い。
目を引く装飾品や、行き交う人々の活気。思わず胸が高鳴る。
やがて雰囲気は一変し、貴族の屋敷と思しき建物が立ち並ぶ区域へ入った。
そしてその奥に現れたのは、白く輝く大きな城だった。
「ここは変わらないな! 前より、だいぶ年季が入ってるけど!」
「そっか。クロは、前の主と来たことがあるんだよね?」
「うん! 魔道具を届けに来たり、頼まれごとを聞きに来たりしてた!」
城を前に、クロは懐かしそうに声を弾ませた。
それはきっと、温かく、大切な記憶なのだろう。
——だけど、ロウキにとっては違う。
この場所は、きっと今も癒えない傷を思い出させる場所だ。
そう思うと、胸の奥が少し重くなった。
馬車は城門前で止まり、降りると、鎧をまとった騎士たちが整然と並んでいた。
「アーロン陛下の客人です。失礼のないように」
「はっ! 話は伺っております直。どうぞ、お通りください!」
クロノスさんの一言で、俺たちはすんなりと城内へ通された。
それでも、この厳かな雰囲気に、どうしても背筋が伸びてしまう。
豪華な装飾が施された回廊を進み、やがて「応接間」と書かれた扉の前で足が止まった。
「失礼いたします」
「ああ。入ってくれ」
扉を開けると、そこには——
「……アーロン、さん?」
「やぁ、ヨシヒロ。何をそんなに固まっている。早くこちらへ」
王冠を戴き、深紅のマントを纏ったアーロンさん。
その姿は、どう見ても、この国を統べる“国王”そのものだった。
これまで感じたことのない圧倒的な威圧感に、
俺は言葉を失い、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
そんな俺を見てアーロンさんは楽しそうに笑い、手招きする。
そんな中、ユキが無邪気に歩み寄っていった。
「あっ! ユキ、ダメ——」
「構わんよ。そなたはユキというのか?」
「はい。男の子なんですけど、幸せになってほしくて、
“幸せ”という漢字でユキと名付けました」
「ほう……良い名だな」
アーロンさんはユキを抱き上げ、優しく頭を撫でる。
その様子は、王というより、動物好きな一人の男性そのものだった。
「俺はクロって言うんだぜ!」
「クロか。そなたにぴったりの名だな。良い主に出会えたな」
「そうだろ! 俺、今すっげぇ幸せなんだ!」
「こら、クロ……!」
「いい。私にこうして話しかけてくれる者は、そう多くない」
その光景を見て、胸の奥が少し温かくなる。
——だけど、その空気を切り裂くように、咳払いが響いた。
「王の御前です。従魔の躾は、主の責任ですよ」
現れた青年は、鋭い視線をこちらに向ける。
だけど、アーロンさんは即座に言い返した。
「やめろ、ベル。こちらは私の友人だ」
「申し訳ございません……
ヨシヒロ殿、失礼いたしました。
改めまして、私はここでアーロン陛下に仕えております、ベル・ブラックと申します」
青年——ベル・ブラックと名乗った彼は、慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、すみません」
冷静に見ても、陛下に友人と呼ばれている俺は違和感しかないだろう。
見た目は17歳の青年だからな……
俺がベルさんのことを気にしていると、アーロンさんはロウキのことを気にしてくれていた。
「ヨシヒロ、ロウキ殿は庭に?」
「あ、いえ。ギルドでガーノスさんと一緒にいますよ」
「ああ、ガーノスか。アイツは元・王国御用達の冒険者でな。
歳も近くて、若い頃から一緒にやってきたんだ。
だから今回のことも、快く引き受けてくれたよ」
「だからアーロンさんのことを呼び捨てにしてたんですね」
そんなことを思っていると、応接間のドアが開き、女性と男性が入室してきた。
「ヨシヒロ。私の妻と娘と息子たちだ直。よろしく頼む」
「初めまして。夫から話は聞いています。
妻のレイラ・ソウリアスと申します。今後も夫と仲良くしてやってくださいね」
「初めまして。私はソウリアス王国王家の長男、ルーク・ソウリアスです」
「ヨシヒロ様、初めまして。
私はソウリアス王国王家の長女、ルーシー・ソウリアスでございます」
「初めまして! 僕はソウリアス王国王家の次男、レイロン・ソウリアスです!」
「えーっと……ヨシヒロと申します。
アーロン陛下とは良いお付き合いをさせていただいています。
こちらは使い魔のクロ、そして従魔のユキです。
ユキの父親はロウキと言って、今は冒険者ギルドで待機中です」
突然、アーロンさんの妻と子どもたちが姿を現し、
王家全員との対面という、想定外の展開へ突入した。
礼儀正しく、穏やかで、どこか温かい王家の人々。それでも——
(……もう、帰りたい)
心の中で、何度目か分からない本音を叫びながら、俺は必死に笑顔を保っていた——……
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