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第32話 王城での報告
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「ヨシヒロ様。お久しぶりです。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます……」
正面玄関で馬車を降りると、クロノスさんが出迎えてくれた。
前回と同じように城内を案内されていくけど、
前回とは一味違う、重厚な扉の前で立ち止まった。
案内されたのは応接間ではなく、より格式の高い場所らしい。
その雰囲気に、なぜだか前回以上に緊張してしまっていた。
「こちらが、アーロン陛下の執務室です。どうぞ。」
「執務室……し、失礼します!」
「邪魔するぜー」
「少し待ってくれ。もうすぐ片が付く」
クロノスさんに案内され、扉を開けると、そこは書物が所狭しと並ぶ広い空間だった。
奥の大きな書斎机では、アーロンさんが書類に目を通している。
仕事中の姿を見るのは初めてで、思わず息をのむ。
やっぱり、いつもと全然違う。
一方、ガーノスさんは「邪魔するぜ」と軽く言いながら、ソファにドカンと腰を下ろした。
この二人、本当に仲が良いんだな……
そう思っていると、近くにいた年配の執事らしき人物が声をかけてきた。
「ヨシヒロ様も、お掛けになってください。すぐにお茶をお持ちいたします」
「あ、ありがとうございます……えっと……」
「失礼いたしました。
私は王家に仕えております執事長、ガロン・スミスと申します。
以後、お見知りおきを。ガロンとお呼びください」
「……ガロンさん、よろしくお願いします!」
側近のベル・ブラックさんに、執事長のガロンさん。
そして今、お茶を運んでくれているのは、きっとメイド長さんだろう。
未経験の世界の人員配置に、驚かされるというか、少し違和感すら覚える。
そんなことを考えていると、テーブルに置かれたカップから、懐かしい香りが漂ってきた。
――この黄緑色って……まさか?
「お待たせいたしました。王家自慢の茶葉を使用しております」
「ありがとうございます。えっと……お名前を伺っても?」
「申し遅れました。
王家にてメイド長を務めております、ネオ・ローザニアと申します。
気軽にネオとお呼びください」
「ありがとうございます、ネオさん。
よろしくお願いします。俺はヨシヒロです。
じゃあ……いただきます。
……ん。やっぱりこれ……緑茶?」
「え?」
「お、ヨシヒロ。気づいたか!
この味を再現するのは大変だったが、やはり緑茶は日本の心よな」
「ほっこりします。この味と香り、癒されますね」
「だろう? 分かる奴にしか分からんがな。
ヨシヒロならすぐ気づくと信じておったわ!」
透き通るような黄緑色の飲み物を一口含むと、
口の中に広がる渋みと、ほのかな甘み。
懐かしい味だった。
思わず「緑茶」と口にすると、周囲の人たちは驚いたように目を見開いた。
アーロンさんは「やっぱりな」と言って、大きく笑う。
どうやら、この味を開発して定着させたのはアーロンさんらしい。
――分かるよ。
緑茶は日本の心だよね。ホッとする。
そう思いながら、ゆっくりと味わっていると、アーロンさんが声をかけてきた。
「待たせてすまなかったな。
では早速、鉱山での話を聞こうか」
「あ、はい!」
俺は、今日あった出来事を最初から話した。
鉱山で何が起きていたのか。
セドラがどういう存在だったのか。
そして、これからも守護竜として鉱山に留まりたいという、セドラの願いも。
話を聞き終えたアーロンさんは、ドカンッとソファの背もたれに体を預けた。
「今回もまた、面白いことをやってのけたな。私も行きたかった」
「いやいや……今回は本当に違うんですよ。知らなくて……
でも、セドラはとても優しい“おじいちゃん”って感じでした」
「守護竜をおじいちゃん呼びか……大物だな。
それにしても、鉱山に本当に守護竜がいたとは……
セルリアが約150年前から稀にしか採れなくなったと資料にあったが、
まさか眠りについていたからとはな。
それでも完全に途絶えなかったのは、命が繋がっていたから……
ヨシヒロには感謝せねばならんな。守護竜の命を救ってくれたのだから」
約150年前からセルリアが採れなくなったと聞かされ、
その長い眠りを思うと、胸が少し締めつけられた。
「俺は、ただセドラが幸せに暮らしてくれたらそれでいいんです。
だから……この話は公にはしないでほしくて。
興味本位で近づかれて、傷つくことがあったら嫌なので」
「分かった。ここにいる者には箝口令を敷こう。
鉱山は国の宝でもある。今後も慎重に扱わせてもらうよ。
それと……セドラ殿に定期的に供物を捧げたい。好みを聞いてきてくれるか?」
「ありがとうございます! 今度、確認しておきますね!」
そんな会話をしていた時、ふとセドラにもらったセルリアを思い出し、
アイテムボックスから取り出した。
「あの、これ……“持って行け”って言われまして。
よっこらしょ……」
ゴトン――
「……なっ?!」
「な、なんだその量は……!」
「大岩サイズなのに軽いんですよ。すごいですよね。」
「陛下……この量のセルリアは……
この王国に、いくら財源をもたらしてくれるのでしょうか……」
「……数百億プラは下らんぞ」
「え、そんなに?
セドラが出してくれたんです。“国に献上して優遇してもらえ”って。
俺、別に優遇してもらおうとかは思ってないんですけど……
セドラの命の鉱石ですから、国のために使ってやってください」
数百億と言われても、俺にはピンとこなかった。
だけど、国にとってはとんでもない価値の量らしい。
「ヨシヒロよ……無欲すぎんか?」
「俺はモフモフ大国を築きたいだけです!」
「ははは! まったく……」
「しかし、これだけのことをしてもらって、何もせずに帰すわけにはいかん。
先日はダンジョンの問題も片付けてくれたのだろう? ガーノスから聞いている。
短期間でここまでしてもらって、何もせずに帰すなど有り得ん。
ヨシヒロ、何か要望はないのか? 何でも良いぞ?」
「のんびりライフを」
「それ以外でいこうか、ヨシヒロ。」
「ううっ……やっぱりロウキと同じ匂いが……
いやぁ、特にないんですよね。
俺は、この子たちとの生活が護られたら、それでいいです」
「無欲よのう……
しかしそれなら、ヨシヒロの領地は変わらず立ち入り禁止にしておこう。
もしそれを破り、お前たちに害をなす者が現れた時は、厳しい処罰を与える。
そのためにも、数人の警備を配置しておこう」
「助かります!
あ、できればなんですが……」
「他に何かしてほしいことがあるのか?」
今回の件だけでなく、ミルの時の話も知っていたようで、
アーロンさんは国王として「何もせずに帰すわけにはいかない」と言ってくれた。
俺はただ平穏に暮らせればと思って伝えたものの、秒で却下されてしまった。
「何でもいいって言ったじゃん……」と心の中でぼやきながら、
ふと、自分の領地についてよく分かっていないことを思い出し、
それについてお願いすることにした。
「俺の領地なんですけど……ちょ、ちょっと耳を貸してください。
女神アイリスに“東京ドーム11個分”って言われたんですが……
あ、アーロンさんがいた時代にも、東京ドームってありました?」
「ああ、もちろんあったさ。
あの領地は東京ドーム11個分もあるのか……
そう聞くと、まぁまぁ広いな」
「そうなんです。地図とか、ありませんか?
それが分かれば、私有地の看板を立てたり、
結界を張ったりしたいなと思って」
「おお、それはいいな。
我々も正確に区分けしたいと思っていたところだ。
ベル、ヨシヒロの領地の詳細な地図を持ってきてくれるか」
「承知しました。少々お待ちください。資料室に取りに行って参ります」
「ああ、頼む。」
転生した時に「東京ドーム11個分の広さがある」と言われていたけど、
正直、それじゃ全然ピンとこなかった。
ただ「広いんだろうな」という、大雑把なイメージしかなかったのだ。
これからのんびりライフを送るためにも、
自分の領地の境界線は、きちんと把握しておきたい。
それを伝えると、アーロンさんはすぐにベルさんへ指示を出してくれた。
自分の領地が分かれば、
何を建てるか、どう暮らすか――そんな構想も膨らむ。
この領地は、俺の生活基盤だ。
だからこそ、ちゃんと知っておかなきゃな。
そう思いながら、ベルさんが戻ってくるのを静かに待っていた――
◇
ガチャ――
「お待たせいたしました。
こちらがソウリアス王国の全体地図です。
そして、こちらが王都周辺と、ヨシヒロ殿の現在の領地になります」
「改めて見ると……やっぱりヨシヒロの領地、でかいな……」
「広大な土地って、こういうことですよね……」
ベルさんが広げた地図には、王国全体が描かれており、
俺の領地も【立ち入り禁止エリア】として記されていた。
地図の南側、海沿いに位置する王都から北へ50~60キロほど。
そこが俺の領地らしい。
……遠いな。
絶対、ギルドにゲート作る。アーロンさんには言わないけど。
王都を出て西へ10キロ行けば、セドラのいる鉱山。
少し東に3キロ行けば、ミルがいたダンジョン。
他にも、小さな町や村、別のダンジョン、山岳地帯の名前が並んでいて、
なんだかゲームの中で冒険者になったような気分だった。
地図を見て初めて、この大陸の広さと構造を実感し、
少しだけワクワクしてきた、その時――
ベルさんが、じっと俺を見つめていることに気づいた。
「ベルさん、何かありましたか?」
「あ、すみません……つい。
あの……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「ヨシヒロ殿は、あの広大な領地を、
これからどのように開拓されるおつもりなのでしょうか?」
「え? 特に深くは考えてないんですが……
自分と、この子たちが不自由なく暮らせたら、それでいいかなと。
今はまだ家と庭と畑しかないので……
そうですね、ふれあい広場みたいなのが欲しいですね。
結界を張って、草食系の動物や魔獣たちを住まわせたいです」
「ま、魔獣ですか……」
どうやら、俺の将来の構想を知りたかったらしい。
でも正直、まだ細かいことは決めていなかった。
ただ、護りたい命があって、弱いものを救える場所を作りたかった。
弱肉強食と言われれば、それまでかもしれない。
だけど、俺にとっては――
そういう存在も、同じ「命」だった。
「ロウキみたいに、1匹でも生きていける子はいいんですけど、
そうじゃない子もいます。
そういう子たちを集めて、一緒に暮らせたら……
少しでも、命を護れるかなって」
「命……ですか。
弱肉強食のこの世界でも、護りたい命がある、ということですか?」
「もちろんです。
綺麗ごとだって言われるかもしれませんが、
自分の手で護れる命があるなら、護る。
それが俺の考え方です。
たとえ、それがドラゴンだったとしても」
「……そうですか。
私には理解しがたいですが、何だかヨシヒロ殿らしいですね」
「そうだな。ヨシヒロはそういう男よ。
命あるものを大切にする。基本的なことだがな。
だからこそ、あの守護竜セドラ殿も、我々にセルリアを託したのだろう」
「……確かに。
私たちでは、とても太刀打ちできなかったでしょう。
ヨシヒロ殿の力と人柄ですね。尊敬いたします」
そう言って、ベルさんは深く頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待ってください!
俺は自由にやってるだけですから!」
「前回は失礼いたしました。
若いというだけで偏見を持っていた自分が、恥ずかしい。
どうかお許しください」
「大丈夫ですよ。
ベルさんはしっかりアーロンさんを支えてると思います。
そうじゃなきゃ、側近なんて任されませんって」
「……ありがとうございます。ヨシヒロ殿。」
律儀な人だなぁ、と思いながら、
そろそろロウキたちを待たせていることを思い出す。
「さて……そろそろおいとまします。
ロウキとミルを待たせているので」
「そうか。
ヨシヒロよ、次は2人でゆっくり話そう。
ギルドにゲートを作るんだろう?城に作ってもいいぞ」
「えっ?!
なんでそれを……ガーノスさん、言ったんですか?!」
「言わねぇわけねぇだろ。考えてもみろ?ゲートだぞ?」
「ひっそりこっそり、のんびりライフの予定がぁ……」
「諦めろ。
我らと関わった時点で、のんびりライフは遠のいたのだ」
「ひどい……」
ゲートのこと、アーロンさんに知られているとは思わなかった。
絶対に隠れて何かすることは出来ないだろうな……
そう思いながら、俺は、王城をあとにした。
俺の幸せなのんびりライフは、
今日もまた、一歩遠ざかっていく――
「ありがとうございます……」
正面玄関で馬車を降りると、クロノスさんが出迎えてくれた。
前回と同じように城内を案内されていくけど、
前回とは一味違う、重厚な扉の前で立ち止まった。
案内されたのは応接間ではなく、より格式の高い場所らしい。
その雰囲気に、なぜだか前回以上に緊張してしまっていた。
「こちらが、アーロン陛下の執務室です。どうぞ。」
「執務室……し、失礼します!」
「邪魔するぜー」
「少し待ってくれ。もうすぐ片が付く」
クロノスさんに案内され、扉を開けると、そこは書物が所狭しと並ぶ広い空間だった。
奥の大きな書斎机では、アーロンさんが書類に目を通している。
仕事中の姿を見るのは初めてで、思わず息をのむ。
やっぱり、いつもと全然違う。
一方、ガーノスさんは「邪魔するぜ」と軽く言いながら、ソファにドカンと腰を下ろした。
この二人、本当に仲が良いんだな……
そう思っていると、近くにいた年配の執事らしき人物が声をかけてきた。
「ヨシヒロ様も、お掛けになってください。すぐにお茶をお持ちいたします」
「あ、ありがとうございます……えっと……」
「失礼いたしました。
私は王家に仕えております執事長、ガロン・スミスと申します。
以後、お見知りおきを。ガロンとお呼びください」
「……ガロンさん、よろしくお願いします!」
側近のベル・ブラックさんに、執事長のガロンさん。
そして今、お茶を運んでくれているのは、きっとメイド長さんだろう。
未経験の世界の人員配置に、驚かされるというか、少し違和感すら覚える。
そんなことを考えていると、テーブルに置かれたカップから、懐かしい香りが漂ってきた。
――この黄緑色って……まさか?
「お待たせいたしました。王家自慢の茶葉を使用しております」
「ありがとうございます。えっと……お名前を伺っても?」
「申し遅れました。
王家にてメイド長を務めております、ネオ・ローザニアと申します。
気軽にネオとお呼びください」
「ありがとうございます、ネオさん。
よろしくお願いします。俺はヨシヒロです。
じゃあ……いただきます。
……ん。やっぱりこれ……緑茶?」
「え?」
「お、ヨシヒロ。気づいたか!
この味を再現するのは大変だったが、やはり緑茶は日本の心よな」
「ほっこりします。この味と香り、癒されますね」
「だろう? 分かる奴にしか分からんがな。
ヨシヒロならすぐ気づくと信じておったわ!」
透き通るような黄緑色の飲み物を一口含むと、
口の中に広がる渋みと、ほのかな甘み。
懐かしい味だった。
思わず「緑茶」と口にすると、周囲の人たちは驚いたように目を見開いた。
アーロンさんは「やっぱりな」と言って、大きく笑う。
どうやら、この味を開発して定着させたのはアーロンさんらしい。
――分かるよ。
緑茶は日本の心だよね。ホッとする。
そう思いながら、ゆっくりと味わっていると、アーロンさんが声をかけてきた。
「待たせてすまなかったな。
では早速、鉱山での話を聞こうか」
「あ、はい!」
俺は、今日あった出来事を最初から話した。
鉱山で何が起きていたのか。
セドラがどういう存在だったのか。
そして、これからも守護竜として鉱山に留まりたいという、セドラの願いも。
話を聞き終えたアーロンさんは、ドカンッとソファの背もたれに体を預けた。
「今回もまた、面白いことをやってのけたな。私も行きたかった」
「いやいや……今回は本当に違うんですよ。知らなくて……
でも、セドラはとても優しい“おじいちゃん”って感じでした」
「守護竜をおじいちゃん呼びか……大物だな。
それにしても、鉱山に本当に守護竜がいたとは……
セルリアが約150年前から稀にしか採れなくなったと資料にあったが、
まさか眠りについていたからとはな。
それでも完全に途絶えなかったのは、命が繋がっていたから……
ヨシヒロには感謝せねばならんな。守護竜の命を救ってくれたのだから」
約150年前からセルリアが採れなくなったと聞かされ、
その長い眠りを思うと、胸が少し締めつけられた。
「俺は、ただセドラが幸せに暮らしてくれたらそれでいいんです。
だから……この話は公にはしないでほしくて。
興味本位で近づかれて、傷つくことがあったら嫌なので」
「分かった。ここにいる者には箝口令を敷こう。
鉱山は国の宝でもある。今後も慎重に扱わせてもらうよ。
それと……セドラ殿に定期的に供物を捧げたい。好みを聞いてきてくれるか?」
「ありがとうございます! 今度、確認しておきますね!」
そんな会話をしていた時、ふとセドラにもらったセルリアを思い出し、
アイテムボックスから取り出した。
「あの、これ……“持って行け”って言われまして。
よっこらしょ……」
ゴトン――
「……なっ?!」
「な、なんだその量は……!」
「大岩サイズなのに軽いんですよ。すごいですよね。」
「陛下……この量のセルリアは……
この王国に、いくら財源をもたらしてくれるのでしょうか……」
「……数百億プラは下らんぞ」
「え、そんなに?
セドラが出してくれたんです。“国に献上して優遇してもらえ”って。
俺、別に優遇してもらおうとかは思ってないんですけど……
セドラの命の鉱石ですから、国のために使ってやってください」
数百億と言われても、俺にはピンとこなかった。
だけど、国にとってはとんでもない価値の量らしい。
「ヨシヒロよ……無欲すぎんか?」
「俺はモフモフ大国を築きたいだけです!」
「ははは! まったく……」
「しかし、これだけのことをしてもらって、何もせずに帰すわけにはいかん。
先日はダンジョンの問題も片付けてくれたのだろう? ガーノスから聞いている。
短期間でここまでしてもらって、何もせずに帰すなど有り得ん。
ヨシヒロ、何か要望はないのか? 何でも良いぞ?」
「のんびりライフを」
「それ以外でいこうか、ヨシヒロ。」
「ううっ……やっぱりロウキと同じ匂いが……
いやぁ、特にないんですよね。
俺は、この子たちとの生活が護られたら、それでいいです」
「無欲よのう……
しかしそれなら、ヨシヒロの領地は変わらず立ち入り禁止にしておこう。
もしそれを破り、お前たちに害をなす者が現れた時は、厳しい処罰を与える。
そのためにも、数人の警備を配置しておこう」
「助かります!
あ、できればなんですが……」
「他に何かしてほしいことがあるのか?」
今回の件だけでなく、ミルの時の話も知っていたようで、
アーロンさんは国王として「何もせずに帰すわけにはいかない」と言ってくれた。
俺はただ平穏に暮らせればと思って伝えたものの、秒で却下されてしまった。
「何でもいいって言ったじゃん……」と心の中でぼやきながら、
ふと、自分の領地についてよく分かっていないことを思い出し、
それについてお願いすることにした。
「俺の領地なんですけど……ちょ、ちょっと耳を貸してください。
女神アイリスに“東京ドーム11個分”って言われたんですが……
あ、アーロンさんがいた時代にも、東京ドームってありました?」
「ああ、もちろんあったさ。
あの領地は東京ドーム11個分もあるのか……
そう聞くと、まぁまぁ広いな」
「そうなんです。地図とか、ありませんか?
それが分かれば、私有地の看板を立てたり、
結界を張ったりしたいなと思って」
「おお、それはいいな。
我々も正確に区分けしたいと思っていたところだ。
ベル、ヨシヒロの領地の詳細な地図を持ってきてくれるか」
「承知しました。少々お待ちください。資料室に取りに行って参ります」
「ああ、頼む。」
転生した時に「東京ドーム11個分の広さがある」と言われていたけど、
正直、それじゃ全然ピンとこなかった。
ただ「広いんだろうな」という、大雑把なイメージしかなかったのだ。
これからのんびりライフを送るためにも、
自分の領地の境界線は、きちんと把握しておきたい。
それを伝えると、アーロンさんはすぐにベルさんへ指示を出してくれた。
自分の領地が分かれば、
何を建てるか、どう暮らすか――そんな構想も膨らむ。
この領地は、俺の生活基盤だ。
だからこそ、ちゃんと知っておかなきゃな。
そう思いながら、ベルさんが戻ってくるのを静かに待っていた――
◇
ガチャ――
「お待たせいたしました。
こちらがソウリアス王国の全体地図です。
そして、こちらが王都周辺と、ヨシヒロ殿の現在の領地になります」
「改めて見ると……やっぱりヨシヒロの領地、でかいな……」
「広大な土地って、こういうことですよね……」
ベルさんが広げた地図には、王国全体が描かれており、
俺の領地も【立ち入り禁止エリア】として記されていた。
地図の南側、海沿いに位置する王都から北へ50~60キロほど。
そこが俺の領地らしい。
……遠いな。
絶対、ギルドにゲート作る。アーロンさんには言わないけど。
王都を出て西へ10キロ行けば、セドラのいる鉱山。
少し東に3キロ行けば、ミルがいたダンジョン。
他にも、小さな町や村、別のダンジョン、山岳地帯の名前が並んでいて、
なんだかゲームの中で冒険者になったような気分だった。
地図を見て初めて、この大陸の広さと構造を実感し、
少しだけワクワクしてきた、その時――
ベルさんが、じっと俺を見つめていることに気づいた。
「ベルさん、何かありましたか?」
「あ、すみません……つい。
あの……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「ヨシヒロ殿は、あの広大な領地を、
これからどのように開拓されるおつもりなのでしょうか?」
「え? 特に深くは考えてないんですが……
自分と、この子たちが不自由なく暮らせたら、それでいいかなと。
今はまだ家と庭と畑しかないので……
そうですね、ふれあい広場みたいなのが欲しいですね。
結界を張って、草食系の動物や魔獣たちを住まわせたいです」
「ま、魔獣ですか……」
どうやら、俺の将来の構想を知りたかったらしい。
でも正直、まだ細かいことは決めていなかった。
ただ、護りたい命があって、弱いものを救える場所を作りたかった。
弱肉強食と言われれば、それまでかもしれない。
だけど、俺にとっては――
そういう存在も、同じ「命」だった。
「ロウキみたいに、1匹でも生きていける子はいいんですけど、
そうじゃない子もいます。
そういう子たちを集めて、一緒に暮らせたら……
少しでも、命を護れるかなって」
「命……ですか。
弱肉強食のこの世界でも、護りたい命がある、ということですか?」
「もちろんです。
綺麗ごとだって言われるかもしれませんが、
自分の手で護れる命があるなら、護る。
それが俺の考え方です。
たとえ、それがドラゴンだったとしても」
「……そうですか。
私には理解しがたいですが、何だかヨシヒロ殿らしいですね」
「そうだな。ヨシヒロはそういう男よ。
命あるものを大切にする。基本的なことだがな。
だからこそ、あの守護竜セドラ殿も、我々にセルリアを託したのだろう」
「……確かに。
私たちでは、とても太刀打ちできなかったでしょう。
ヨシヒロ殿の力と人柄ですね。尊敬いたします」
そう言って、ベルさんは深く頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待ってください!
俺は自由にやってるだけですから!」
「前回は失礼いたしました。
若いというだけで偏見を持っていた自分が、恥ずかしい。
どうかお許しください」
「大丈夫ですよ。
ベルさんはしっかりアーロンさんを支えてると思います。
そうじゃなきゃ、側近なんて任されませんって」
「……ありがとうございます。ヨシヒロ殿。」
律儀な人だなぁ、と思いながら、
そろそろロウキたちを待たせていることを思い出す。
「さて……そろそろおいとまします。
ロウキとミルを待たせているので」
「そうか。
ヨシヒロよ、次は2人でゆっくり話そう。
ギルドにゲートを作るんだろう?城に作ってもいいぞ」
「えっ?!
なんでそれを……ガーノスさん、言ったんですか?!」
「言わねぇわけねぇだろ。考えてもみろ?ゲートだぞ?」
「ひっそりこっそり、のんびりライフの予定がぁ……」
「諦めろ。
我らと関わった時点で、のんびりライフは遠のいたのだ」
「ひどい……」
ゲートのこと、アーロンさんに知られているとは思わなかった。
絶対に隠れて何かすることは出来ないだろうな……
そう思いながら、俺は、王城をあとにした。
俺の幸せなのんびりライフは、
今日もまた、一歩遠ざかっていく――
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ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜
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ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」
***
魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。
王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
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