従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第37話 スライムの洞窟

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海岸へと続く道を歩き続けること、約2時間半。
途中で小さな村を通りかかった。

子供たちが外で遊んでいるところへ、
魔獣や悪魔を連れた俺たちが現れたものだから、
泣き出す子もいれば、逆に目を輝かせて喜ぶ子もいて、なかなか大騒ぎだった。

最初は村の住人たちに刃を向けられたものの、
出てきた村長さんに事情を説明し、
冒険者ギルドの登録カードを見せると――
今度は一転、ギョッとした顔で突然土下座をされてしまい、
俺は思わず慌てて止めに入った。

いやぁ……
家から王都までの道中、村や町は見えていたけど、
こうして直接コミュニケーションを取るのは初めてだったからな。
それに、アーロンさんたち以外の人と話すのも初めてで、正直かなり緊張した。

そもそも、こんな魔獣だの悪魔だのを連れて歩いていれば、
怪しまれるのも無理はない。

そんなことを考えつつ村人たちに別れを告げ、
さらに歩いていくと、やがて視界が開け、海の見える海岸に出た。

岩場を進んでいくと、ほどなくして洞窟の入り口が見えてくる。

そこには一本の看板が立てられていて、注意書きが書かれていた。

俺は指をさしながら、そのまま読み上げる。


【この洞窟、入るべからず。魔物多し】

「魔物多しって書いてある、ロウキー」

「だからどうした。
さっさと自分に結界を張ればよかろう」

「あ、そっか!
俺には最強じいちゃんの結界があったんだ!」

「セルリアン・バリア!」


ヴィンッ――


「おお! なんか護られた感じがした!」

「ついでに、俺の結界も張っておいてやるよー!
主を守らなきゃいけないからな!」

「ありがとう、クロー!」


洞窟の入り口には、
『魔物が多いから入るな』という警告が出ていたが、
ロウキに言われてセドラの結界を張り、さらにクロが自分の結界まで重ねてくれた。

……今の俺、無敵状態なんじゃないか?

そんなことを考えながら、薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れる。

だけど、思った以上に暗く、先がよく見えない。


「見えんな……
ヨシヒロ、“ルーメンス”と言ってみろ。光魔法だ。」

「オーケー!
……ルーメンス!」


ポワァァンッ――


「わぁ! 明るくなったー!
主すげぇ! ルーメンスって広範囲の上級魔法だよー!」

「そうなの? なんで俺、使えたんだ?
エマ大先生!」

【……万能属性魔法適性のスキルにより、使用可能です。
ただし、精度は未計測です】

「ああ、なるほどー」


ロウキに言われるがまま唱えただけだったけど、
洞窟内は一気に明るくなり、
互いの表情がはっきり分かるほどになった。

どうやら上級魔法だったらしく、クロはキャッキャと大喜び。

最初にいいスキルを引いておいて、
本当に良かったな……と、しみじみ思う。


「ここ、まだ通路だったのか。狭いわけだ」

「奥に行ってみようぜー!」


明るくなったことで、
今いる場所が狭い通路だと分かった。

さらに奥へ進むと、やがて空間が開け、広い場所に出る。

そこから3つの穴が伸びていて、
それぞれ別の道になっているようだった。


「手分けした方が早いな。
ヨシヒロとミルは左。クロとユキは真ん中。
我は右だ。何かあったら、どうにかしろ」

「ひどい……」

「あるじ、だいじょうぶ。
まもってあげる」

「ミルーー! 頼りにしてるからねぇ!」


俺としては、
みんなで順番に見て回ればいいと思っていたんだけど、
ロウキは効率重視で即決だった。

そして、なぜか俺は左の穴担当。

不安になっていると、
ミルが「護ってあげる」とニッと笑ってくれた。

……なんていい子なんだろう。

そう思いながら、少し重たい足取りで穴の中へ向かう。

中はひんやりとしていて、
気持ちのいい空気が漂っていたが、
聞こえるのは自分たちの足音だけ。

50メートルほど進んだところで、行き止まりだった。
魔物の気配も、まったく感じられない。


「なにも、いないね」

「そうだな。
随分と古い洞窟みたいだし、
住処を変えたのかもしれないな」


しばらく様子を見たけど、魔物が現れる気配はなかった。

ひとまず引き返すことにして通路を戻ると、
すでにクロたちが合流していた。


「主、こっち何もなかったー」

「我のところも、もぬけの殻だったぞ」

「俺のところも同じだな。
もうスライムたちは、住処を変えたのかもしれないなぁ……」

「まぁ、スライム自体はどこにでもおるが、
特殊個体となると、こういう集団で生息していた場所を探す方が早い。
また別の洞窟を当たるしかあるまい」

「残念ですが……仕方がないですね、あるじさま」

「そうだな。また情報が入ったら、探しに行くか」


3つの穴すべてを確認したけど、
スライムどころか、魔物の姿すらなかった。

残念ではあるけど、住処を変えられてしまったのなら、どうしようもない。

スライムはすぐ見つかると思っていたけど、どうやらもう少し情報収集が必要そうだ。

そう考えながら、俺たちは洞窟を後にし、家へと帰ることにした――







「はぁ……今回もよく歩いたなぁー。
お風呂行こーっと」

「俺も行くー!」


家に戻ってきた俺は、エントランスホールに鞄を放り投げ、
そのまま地下のお風呂へ向かった。

疲れた体を癒すには、やっぱりお風呂だよなぁ。
そんなことを考えながら地下へ降り、
ゆっくりと時間をかけて湯船に浸かる。

途中でロウキたちもやってきて、
結局、毎回俺が洗うようになってるけど、
それもすっかり慣れてきてしまった。

……もし、日本に戻ったら、トリマーとして働けるんじゃないか?
なんて、どうでもいいことを考えながら。


「スライムって、他にどこにいるかな?」


「お前はまだ、王都からこの家までしか出たことがないだろう。
今まで行ったことのない、湿気の多い場所もある。
その辺りを探してみるとよいかもしれんな」

「確かに……
俺、この家と湖と王都までの道しか歩いてないな。
今度は王都とは逆の方向で探してみるのもアリかもなー」


そういえば、家の裏手に広がる領地だって、まだほとんど探索していない。
そもそも森の中には、行っていない場所の方が圧倒的に多い。
最初は、「冒険なんて無理だ」と思っていたけど、
少しずつ、いろんな出会いが生まれてきて……

そういう出会いがあるなら、少しは外に出てもいいのかもしれない。

そんなふうに、考え始めていた――


「ふぅ、さっぱりしたー!
卵たちの様子を見てから、上に上がろうか」

「そうだなー!」


お風呂から上がった俺たちは、戻る前に魔物管理室へ立ち寄った。

扉を開けて中を覗くと、そこには、いつもと変わらない光景がある。
……はずだった。

卵が2つ。
ドラゴンの子供が1匹。
そして、小さなスライムが1匹。

……うん、変わりない――
そう思った、次の瞬間だった。


「…………ん?」

「おい……
なぜ、卵の上にスライムがいるのだ?」

「え……?」

「主、スライムいつ来た?」

「僕たち……スライム、飼ってませんよね?」

「スライム……?」

「えええええっ!?
ちょ、なんでここにスライムがいるんだよ?!」

「誰か連れてきたんじゃないのか?」

「ええ……?
でも洞窟には、スライムなんていなかったよな……?」


卵の上には、青くて綺麗な、小さなスライムがちょこんと乗っていた。

その場にいた全員が固まり、一斉にスライムへと視線を向ける。

スライムは、俺たちと目が合った瞬間――
卵の上で、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「スライムー!ひとまず、こっちにおいでー?
卵に乗っちゃダメだよー?」

「…………」

「いい子だから、こっちにおいでー!」


ピキッ――
パキパキッ――


「あああっ!
こらっ! いい加減にしなさい!
俺は怒るよ、スライムちゃん!
いいから、こっちに来なさい!」

「……!?」


スライムは軽そうだから大丈夫だろう――
そう思っていた矢先、
卵から、はっきりとひび割れる音が聞こえた。

思わず、大きな声を出してしまう。

するとスライムは驚いたように、ぴたりと動きを止め、
その場で固まってしまった。

……ちょっと、声が大きすぎたか。

そう思いながら卵の前へ近づき、スライムと視線を合わせ、
ゆっくりと手を差し出す。

「大きな声出して、ごめんね。でもね、この子は卵の中で、
今、一生懸命生きてるんだ。
だから、飛び跳ねて驚かせちゃダメだよ。
……ほら、こっちにおいで?」

「…………」


ピョンッ――


「お、冷たい! スライムちゃん、いい子だねぇ。
じゃあ、ちょっと上に行こうか」

「行こー!」

「まったく……
卵が割れなくてよかったが、
このスライムは、なかなかヤンチャだな」

「そうですね、父上。でも、この卵の子が外に出る、
きっかけになればいいですね」

「確かにな。もしかすると、早まるかもしれんな」


しばらく考えたあと、スライムはぴょんっと跳ね、
俺の掌の上に乗ってきた。

ひんやりとして、不思議と心地いい感触。
俺はほっと息をつき、そのまま、ゆっくりと歩き出す。

…それにしても、このスライムはいったい、どこから来たんだろう?

十中八九、あの洞窟で誰かにくっついてきたんだと思うけど……
スライムの気配なんて、まったく感じなかった。
エマも何も言わなかったし…

もしかして、無害すぎて気配感知に引っかからないとか?
そんなことを考えながら、
掌に収まる小さなスライムを、じっと見つめていた――
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