従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第43話 従魔契約とは

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とある日――


「綺麗な湖は、空気も澄んでて落ち着くねぇ。」

「深呼吸はいいから、ちゃんと耕さんか。」

「分かってるよ! ちゃんとやってるだろー?」


家から歩いて10分もかからない場所にある、聖水の湖。
澄んだ空気に思わず深呼吸していると、
ロウキから「真面目に畑を耕せ」と小言が飛んできた。

……いつからそんな現場監督みたいになったんだよ。

そう思いながらも、鍬を握り直して畑を耕す。
というのも今日は、この場所に念願のふれあい広場を作るための作業日だった。

俺とロウキは、小動物たちのための野菜を育てる小さな畑を担当。
クロとユキ、ラピスは近くで楽しそうに遊び回っていて、
ミルは率先して作業を手伝ってくれている。

力持ちなミルは、開拓に必要な分だけ大木を伐採し、
きれいにまとめて運んでくれていた。

……力持ちって、本当にありがたい。


「畑を作って、俺たちが過ごせる小屋と、動物たちがそれぞれ休める小屋。
動き回れるように周囲には柵を作って、
強固な結界で肉食系の魔物や獣が入らないようにする。
完璧じゃない? 俺の楽園!」

「好きだな、お前は動物が……
人間より前の前世は動物だったんじゃないのか?」

「かもしれないなー。
もうね、俺が生きていくうえで絶対に必要なんだよ。
この世界に来て、今は本当に良かったって思ってるところ!」


俺のふれあい広場計画を聞いて、ロウキは呆れたようにそう言った。
前世は動物だったんじゃないか――
あながち間違いじゃないかもしれない。

それくらい、動物たちと過ごす時間は、今の俺にとって生きる糧そのものだった。
だからこそ、この領地にいる弱い存在は、俺が護らなきゃいけない。
そんな使命感を、自然と抱いていた。


「よーし! 俺はミルが伐採してくれた場所に小屋を建てるぞ!
イメージはもう出来てるんだ……
――クレオ!」


ミルが整えてくれた場所に立ち、
俺は頭に描いた小屋の姿を思い浮かべながら呪文を唱えた。
すると、じわじわと形を成し、
可愛らしい小屋が目の前に生成される。

これをいくつも並べれば、種族ごとに分けて使えるし、
きっと過ごしやすい環境になるはずだ。
そう思っていたんだけど……


「……お前、これ」


ロウキは眉間にしわを寄せ、そっと前足で小屋に触れた。


「グラグラではないか。
見た目はいいが、強度が足りんぞ」

「……本当だ。
あれ? 俺、ヘパイトスの加護、持ってたよね? エマちゃん?」

【ヘパイトスの加護による生成は、ほぼあらゆるものが可能です。
しかし、マスターが実際に触れたことのない物は、“見た目のみ”の生成となります。
そのため、生成後に専用のスキルを持つ者による補強が必要です。
城を復元できたのは、魔法使いの強い記憶が元になっていたため、
構造まで完全に再現できただけです。
なお、転移ゲートも強度補強を行わなければ、いずれ破損します。】

「ええー?! そうだったの?!
じゃあ強化魔法とか使えばいいじゃん!
俺、どんな魔法でも使えるんだよね?」

【火・水・土・風・光・闇魔法は使用可能です。
しかし、強化魔法は別系統の魔法であり、取得しなければ使用できません。】

「まじかよ……
ダメじゃん。ヤバイじゃん……どうしよう……」


見た目は完璧なのに、触ると頼りなく揺れる小屋。
エマの説明によれば、今の状況を打開するには、
・強化魔法を扱える誰かに頼む
・自力で強化魔法を取得する
このどちらかしかないらしい。

しかも、
先日完成させた転移ゲートも強度不足だという。
……いや、なんでそういう大事なこと、もっと早く言わないの?!

そう叫びたい気持ちを必死で飲み込み、俺は頭を抱えた。


「ヨシヒロ様!
少し、よろしいでしょうか?」

「ラピス、どうした? お腹空いた?」

「いえ!僕の仲間に、強化・補強を専門にしている子がいます。
先日、救っていただいた四匹のうちの一匹なんですが……」

「え? そんなことできるスライムがいるの?!」

「はい! ちょっと話をしてきますね!待っていてください!」


悩んでいた俺のもとへ、
ユキの背に乗ったラピスが駆け寄ってきた。
強化魔法を扱えるスライムがいると教えてくれて、
話をすると言ってラピスはユキと一緒に家の方へと戻っていった。

スライムの常識、俺の中でどんどん書き換えられていくな……


「スライムって、セドラが言ってた通り、やっぱり有能なんだなぁ。」

「稀ではあるがな。スライムは進化前の見た目では、ほとんど個体差が分からん。
だから手あたり次第に集め、特殊個体を探すために奴隷のように扱う人間もいる。
従魔契約を結んでしまえば、本来は主の命令に逆らうことはできんからな」

「へぇ……って、ロウキは全然俺の言うこと聞かないじゃん?」

「馬鹿め。我がそんなもので縛られるはずがなかろう?
契約は結んだが、自由を奪うことまでは許しておらん」

「そんなことできるの? やっぱり高貴な魔獣は違うねぇ」


スライムの知られざる能力について話していると、ロウキは呆れたような表情で、
特殊個体を求めてスライムを乱獲する人間がいることを教えてくれた。
従魔契約は、本来、魔物の自由を奪い、強制的に従わせるためのもの。

そう聞いて、改めて「契約は軽々しく結ぶものじゃない」と思わされた。

そして、フェンリルのような最上位クラスの魔獣は、
そもそも完全に支配できる存在じゃないと知らされた。
まぁ、当然と言えばそうなのかもしれないけど。
すると、後ろからクスクスと笑う声がした。
いつの間にか俺の頭にちょこんと座ったクロが、
楽しそうに教えてくれる。


「違うよ、主ー。
主がしてる従魔契約は、普通のやつとは全然違うんだよー。
お互いの意思がちゃんと繋がらないと成立しない契約だから、強制じゃないんだ。
だから皆、自由なんだよ。
……でもそれって、普通じゃないからねー。
主が俺たちを“家族”だって思ってるからこそ、できる契約なんだよ」

「そうだったの?
へぇ……じゃあ、普通はどうやってるんだ?」

「え?多分、戦って瀕死にしてから従魔契約してるんじゃない?
俺は使い魔契約しかしたことないから、詳しくは知らないけどさ。」

「ええー……。それ、可哀想じゃん……何が楽しいの?」

「楽しくなくとも、それが一般的なのだ」


クロの話を聞いて分かったのは、ロウキが高貴だから自由なのではなく、
俺の従魔契約そのものが“異質”だということだった。

信頼関係がなければ成立しない契約。
そう言われて初めて、自分のやってきたことが特別だったのだと知った。

俺は何も考えずに契約していたけれど、
実は「繋がりたい」という想いがなければ、
そもそも成立しないものだったらしい。

本来の契約方法を聞かされて、胸の奥が、少しだけ重くなった。

瀕死に追い込み、無理やり契約して従わせる――
そんなこと、俺にはできない。

この世界で生まれ育っていたら、
それが当たり前だったのかもしれないけど……。

俺は、できるなら皆で楽しく、ゆるく、のんびり暮らしていきたい。
嫌がる相手を縛るなんて、無理無理だ。
そんな俺を見て、ロウキは目を細めて言った。


「そもそもだ。
我のような存在と従魔契約を結び、
さらにユキやミルといった“大物”まで従魔にしている時点で、異常なのだ。
スライムのような低級魔物を複数抱える者は、探せばそれなりにいる。

だが、お前は違う。周囲から見れば、恐ろしく映る者がいても不思議ではない。
……まあ、転生者特有といったところだな」

「そうだったのかぁ……。
じゃあ俺、今けっこう異常な状態で生きてるんだなぁ。
まぁ、俺は今、最高に幸せだからいいけどさ」


ロウキの話によると、大きな魔物を次々と従魔に迎えている今の状況は、かなりの異例らしい。
転生者だからこそ、できること。そう思うと、少し得した気分にもなる。

それに、俺は今の暮らしが幸せだ。周りからどう見られようと関係ない。

俺は、俺が“大切だ”と思った人や魔物を、これからも大切にしていくだけだ。
そう思いながら、
ラピスの帰りを静かに待っていた――
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