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第48話 ガーノスの一日 ~無謀な冒険者~
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―ソウリアス王国 重要告知―
【本王国において、新たに魔王の存在が確認された。
魔王と聞けば、不安に思う市民もいるだろう。 だが、案ずることはない。
アーロン陛下自ら魔王と交渉を行い、 現在は親交を深める重要な存在となっている。
魔王は、王国に仇なす存在ではない。
今後は「王家直属の守護冒険者」として、
我らが王都を護る盾となることを、王家として正式に認めている。
よって、軽率な挑発や無用な詮索は固く禁ずる。
王国としても、魔王との良好な関係を保持することを、ここに宣言する。
なお、魔王ならびに魔王の配下に手出しをした者がいた場合、厳重に処罰するものとする。
【追記:重要事項】
本王家が信頼を寄せ、直接の依頼を行っている冒険者ヨシヒロならびにその一行は、
本件の魔王とは一切無関係の別人である。
魔王と混同して不当な扱いをすることは厳禁とする。
万が一、彼らに対して失礼な言動や根拠のない噂を流す者がいた場合、
それもまた王家への反逆とみなし、厳罰に処すものとする】
――王都広報局
そんな張り紙が王都中に貼り出されたのは、
ヨシヒロとアーロンと“魔王”の出現について話をした翌日のことだった。
アーロンの奴は、決めたら即行動するタイプだ。
案の定、お抱えの記者に命じて、
魔王についての告知を、即座に出させやがった。
……これをヨシヒロが見たら、
少しはホッとするんじゃねぇかなとは思うが。
そんなことを考えながら、
冒険者ギルドにも同じ張り紙を大々的に掲示させる。
これをやっておかねぇと、「魔王討伐だ!」とか言い出す馬鹿が、
必ず出てくるからな。
「……発行されて少し経っちまったが、
一応、あいつにも一言書いて送っておくか」
次に来た時に伝えりゃいいかとも思ったが、
さすがに「こういうことになった」という事実くらいは、
事前に知らせておくべきだろう。
そう判断して、簡単な手紙を書き、
転移ゲートから伝書ガラスを飛ばした。
……こんな便利なもんを、平然と作り出す魔王なんて、
世間が知ったら腰を抜かすだろうな。
もっとも、この別館は特別客しか入れねぇ。
だから外部に漏れる心配はないが。
そう考えながら日常業務に戻り、
書類に目を通していた――その時だった。
コンコンッ――
ガチャッ――
「ガーノスさん! 大変です!!
新人冒険者パーティ、“光の破壊神”が、
魔王討伐とか言い出して、領地に向かったそうです!
出発したのは、5、6時間前とのことで……
もう、領地付近に到達しているかと!」
「……はぁ?!」
突然の報告に、思わず声が荒くなる。
「あの馬鹿ども……
注意書き、読んでねぇのか?!
手出し厳禁って、
あれだけデカデカと書いてあっただろうが!」
頭を抱えたくなる。
“光の破壊神”。
冒険者の間では、悪い意味で有名な新人パーティだ。
ルールは破る、
周囲に迷惑はかける、
討伐対象外の魔物にまで手を出す。
しかも――
以前、ヨシヒロのところのスライムをいじめていた、
あの魔導士二人も加入したって話だ。
救いようがねぇ。
「……とりあえずだ。
あいつらが死なねぇように、
話をしに行かなきゃならねぇだろうな。
俺も向かう」
嫌な予感しかしねぇ。
特に――
ロウキがキレちまったら、あいつら、食い殺されかねない。
そう考えると、さすがの俺も放っておけなかった。
なんで、あいつらはこうも
周りに迷惑をかけることしかしねぇんだ……
堪忍袋の緒も、さすがに限界だ。
俺はすぐさま、
もう一羽の伝書ガラスに状況を書き、アーロン宛に飛ばす。
ルセウスを呼んでもらうためだ。
そして馬にまたがり、馬腹を蹴って、連中の後を追った。
頼むから――
ロウキ、早まるなよ……!
◇
2時間半ほど馬を走らせたところで、
ヨシヒロの領地付近をうろつく冒険者たちが目に入った。
……ああ、やっぱりな。
結界に阻まれて、
入れずに右往左往してやがる。
ヨシヒロの知ってる奴しか通れねぇ結界だ。
そう簡単に突破できるわけがない。
「お前たち!
何をやってるんだ!」
「げっ!
ガーノスさん……っ!」
「まさかとは思うが、魔王討伐なんて考えてんじゃねぇだろうな?
今すぐ引き返せ! ライセンス、失いたいのか!」
「でもガーノスさん! 魔王ですよ?!
国王と仲がいいなんて、絶対に騙してるに決まってるじゃないですか!
魔王を倒してこその冒険者! 勇者パーティです!
俺たちがやってみせます!」
「……勇者パーティ?
お前ら、自分の実力分かって言ってんのか。
魔法も剣も、ロクに使えねぇくせに!」
訳の分からないことを言われ、俺は声を荒げた。
「いいから戻れ!
ここは、お前たちが来ていい場所じゃねぇ!!」
だが、連中は引かなかった。
「ガーノスさんまで、なんで魔王の味方するんですか?!
魔王ですよ?!
いい奴なわけないじゃないですか!!
それが王都で冒険者って…皆怖がってるに決まってるんだ!」
「頼むから帰れ……
これ以上いると、お前……」
そう言いかけた、その時――
背筋を凍らせるほどの殺気が、背後から叩きつけられた。
「……なっ……」
「え、えっ……
フェ、フェンリル?!
しかも……漆黒……」
「漆黒のフェンリルって……
世界を一瞬で滅ぼせるっていう、
あの伝説の……」
「や、やばい……
俺たち……殺される……」
目の前に現れたフェンリルに固まる奴ら。
立っているだけで、体が動かなくなるほどの覇気。
……だが、おかしい。
ロウキは、真っ白なフェンリルだったはずだ。
じゃあ、この目の前のフェンリルは――?
まさか、ヨシヒロのやつ、
また新しい従魔契約でも――
そう思った瞬間だった。
大木の影から、見知った顔がこちらを見ているのに気づく。
その手から放たれた伝書ガラスを受け取り、
中身を読んだ瞬間――
俺は、力が抜けた。
【このフェンリルはロウキです。
普段の姿だと、魔王の手下だと思われかねないため、
毛色を変えています。
脅しているだけなので、安心してください。
ちなみに、この大きさがロウキ本来の大きさです】
……ああ、そういうことか。
魔法で毛色を変えるって……
ほんと、発想が違うな、ヨシヒロは。
だが、ロウキだと分かれば話は別だ。
俺は前に出るのをやめ、
ロウキの出方を見守ることにした。
「貴様ら。
この領地が我が主の領地と知って、
足を踏み入れようとしておるのか」
「ひっ……
ま、魔王は……討伐対象で……」
「貴様らに問う。
我が主が、貴様らに何をした?」
「……それは……」
「今すぐ食い殺すことも可能だが……
アーロンに確認してからだな。
なぁ、ガーノスよ」
「……ああ。
この件は、すでに王家に報告済みだ。
ただじゃ済まねぇだろうな」
「そ、そんなっ?!
俺たちは善意で――!」
ドスの効いた声でロウキは奴らと俺に問いただした。
王家に報告済みだと言ったその瞬間、
背後から聞き覚えのある声が響いた。
「誰が、そんなことを頼んだのだ?」
「……え?」
「あ……あ、あなたは……
王国騎士団団長……
ルセウス様……!」
……やっと来たか。
俺は胸をなで下ろしながら、
ヨシヒロからの手紙をルセウスに手渡した。
状況を把握したルセウスは、
一瞬だけ、表情を和らげ――
そして、その場で静かに跪き、
ロウキに深く頭を下げた。
「フェンリル様。
この度は、私どもの不用意な行動により、御身に不敬を働きましたこと、
心よりお詫び申し上げます。
なお、本件に関与した者どもにつきましては、
相応の処罰を受けるべく、厳重に対処いたします。
以後、二度と同様の過ちが起こらぬよう、
細心の注意を払う所存です。」
「そ、そんなっ……!
俺たちはただ……この王都を護ろうと……」
「魔王様が、すでに護ってくださっている。
お前たちが口を出すことではない。
ただちに、この者たちを連れて行け!」
「ハッ!」
「ま、待ってくださいよ!
俺たちは悪いことなんてしてないっ!
魔王が“良い奴”だなんて、騙されてるんだっ!
おかしいよ、こんなのっ!」
「……お前たち。
私が、何も知らないとでも思っているのか?」
「……え?」
「王家直属の冒険者の従魔に手を出した魔導士を、
パーティに入れているようだな。
お前たちが手を出したのは、魔王様だ。
ガーノスの恩情で見逃してやっていたというのに……
もう知らぬ。
その件も含めて、お前たちを断罪する。覚悟しておけ!」
「嫌だっ!
せっかく冒険者になったのに!
お願いしますっ!
もう、こんなことはしませんからっ!
ですからどうか、ライセンスの剥奪だけは……っ!」
「……なぜ最初から、
きちんと考えて行動しなかったのか。」
「うぅっ……やだよ……」
「……連れて行け。」
「ハッ!」
ルセウスは深々と頭を下げて謝罪し、
連れていた兵士に冒険者たちを捕らえさせた。
それでも彼らは、
「こんなのはおかしい」「魔王に肩入れするなんて」と、
最後まで喚き続けていた。
……その気持ちは分かる。
きっと、感覚としては正しいのだろう。
魔王と仲良くするなんて、普通なら考えられない話だ。
だがな。
この国のルールを守れない奴に、居場所はない。
きちんと話を聞いていれば、
こんな行動は取らなかったかもしれない。
そう思うと、これは俺の教育不足でもあったなと、
痛感した瞬間だった。
「フン……我は帰る。」
「ああ、ありがとうな、ロウキ。
俺も後で帰るよ。」
「早く来るのだぞ。」
「分かってる!」
事が片付くと、ロウキは即座に背を向け、家へと戻っていった。
普段なら、こんな態度は取らない。
だが、すぐに理由は分かった。
――ルセウスがいるからだ。
王族を嫌っている、という話は聞いている。
まあ、仕方がねぇな。
そう思いながら、
俺はヨシヒロから、今回の件について話を聞いた。
「すみません!
ガーノスさんに……ルセウスさん。
あ、ルセウス様……ですね、すみません。」
「いや、さん付けで構わんよ。
私も、ヨシヒロと呼ばせてくれ。」
「ありがとうございます……
ガーノスさんから魔王の件について知らせをもらって、
しばらくしたら、気配感知に引っかかって……
警備の方々もいないようだったので、誰だよってなって。
それで、冒険者だってすぐ分かったので、
ロウキに変装してもらいました。
色が目立つのでどうしようかと思ってたんですけど、
“漆黒のフェンリルが存在している”って
ロウキから教えてもらったので、それにしたんです!
めっちゃカッコよかったですよね!」
「まあ、確かにな……
あのロウキからは、とんでもない覇気を感じたぜ。
普段のロウキが、どれだけ大人しくしてくれているか、
よく分かった。」
「ヨシヒロ。
今回の件で、ロウキ殿は気を悪くしていないだろうか?
兄上は、それを一番気にしていた。」
「あ、大丈夫ですよ。
久々に自分の魔力を解放できる~とか言って、
ノリノリでしたから。」
「そうか……
それなら良いのだが……
申し訳なかったと、再度詫びておいてくれるか」
「ありがとうございます、ルセウスさん。
そのお気持ちだけで、十分ですよ!」
改めて話を聞くと、ロウキは今回の件に、割とノリノリで付き合ってくれていたようだ。
それを知って、俺は胸をなで下ろした。
同時に、普段のロウキが、いかに“良い奴”でいてくれているかも、
改めて実感する。
……あれが本気を出せば、
間違いなく国が滅ぶだろう。
フェンリルが“破滅の魔獣”と呼ばれる理由が、
少しだけ分かった気がした。
そんなことを考えていると、
ヨシヒロが鞄から何やら箱を取り出し、
俺とルセウスに手渡してきた。
甘い匂いがするが……
お菓子か?
「あの……
今日はわざわざお越しいただいたお礼と、
驚かせてしまったお詫びと言っては何なんですが……
ルミグミ、良かったらお持ち帰りください。
甘くて美味しいですよ!」
「は? ルミグミだぁ?
あの、高値で取引されてるっていう……?」
「そうみたいですね。
うちの湖に、ルミグミがめっちゃ生ってるんですよ!
クロが昔からすごく好きで、
たまに、みんなで食べてます!」
「いいのか?
こんな高価なものを、もらっちまって……」
「構いませんよ!
クロが“いいよ”って言ってくれましたし」
甘い匂いの正体は菓子だと思っていたが、
それが、高値で取引されているルミグミだと知って驚いた。
この辺りでは、もう採取できる場所がなく、
他国から取り寄せるにしても、とんでもなく高価だと聞いている。
まさか、そのルミグミを
無料で渡される日が来るとは……
――これは、うちのカミさんが喜ぶぞ!
最高のご機嫌取りアイテムだな、と
内心でガッツポーズを決めていると、
パタパタと翼を羽ばたかせながら、クロが俺の肩に乗ってきた。
「これ、美味しいぞー!
特別だからな!
ガーノスと……ルセウス?」
「ああ。
私のことは、ルセウスと呼んでくれ。
私も、クロと呼んでもいいか?」
「いいぜー!
こっちはロウキの息子のユキで、
こっちがミル!
で、新しくスライムが仲間になったんだぜ!
青いスライムがラピス、
黄色いのがシトリン、
赤いのがガーネット、
緑色がルド、
銀色がムーンだ!
新しい仲間だから、よろしくなー!」
「ガーノス師匠!
皆、従魔になってくれました!」
「そうかそうか!良かったな、ラピス!
お前、頑張ってたもんな!」
クロは満面の笑みで「美味しいぞ」と言い、
いつの間にかルセウスと名前交換を済ませ、
ユキたちを紹介したかと思えば、
新しく仲間になったスライムたちの名前まで教えてくれた。
すると、ヨシヒロの肩に乗っていたラピスが、
嬉しそうに「皆が従魔になってくれた」と報告してくる。
その頑張りを知っていた俺は、
思わずラピスの頭を撫でまわした。
……なんだか、我が子みたいだな。
良い報告が聞けて、本当に良かった。
「それじゃあ、俺たちは戻りますね。
今日は色々とすみません……
ありがとうございました!」
「ああ、また会おう、ヨシヒロ。」
「じゃあな。
また近いうち、飯食いに来いよ!」
「はーい!」
少し話し込んだあと、
俺たちは王都へ戻るため、馬にまたがった。
一時はどうなることかと思ったが、
丸く収まって何よりだ。
……しかし、
あの冒険者たちは、どんな処罰を受けることになるのか。
冒険者ライセンスの剥奪は間違いない。
だが、それ以上に、重い罰が下るかもしれねぇな。
他の冒険者が、同じ過ちを犯さないように、
魔王についての講習会でも開くべきか。
それとも、王国側から改めて警告を出すか……
まあ、アーロンから何か話があるだろう。
その時にでも、相談するか。
そんなことを考えていた――
【本王国において、新たに魔王の存在が確認された。
魔王と聞けば、不安に思う市民もいるだろう。 だが、案ずることはない。
アーロン陛下自ら魔王と交渉を行い、 現在は親交を深める重要な存在となっている。
魔王は、王国に仇なす存在ではない。
今後は「王家直属の守護冒険者」として、
我らが王都を護る盾となることを、王家として正式に認めている。
よって、軽率な挑発や無用な詮索は固く禁ずる。
王国としても、魔王との良好な関係を保持することを、ここに宣言する。
なお、魔王ならびに魔王の配下に手出しをした者がいた場合、厳重に処罰するものとする。
【追記:重要事項】
本王家が信頼を寄せ、直接の依頼を行っている冒険者ヨシヒロならびにその一行は、
本件の魔王とは一切無関係の別人である。
魔王と混同して不当な扱いをすることは厳禁とする。
万が一、彼らに対して失礼な言動や根拠のない噂を流す者がいた場合、
それもまた王家への反逆とみなし、厳罰に処すものとする】
――王都広報局
そんな張り紙が王都中に貼り出されたのは、
ヨシヒロとアーロンと“魔王”の出現について話をした翌日のことだった。
アーロンの奴は、決めたら即行動するタイプだ。
案の定、お抱えの記者に命じて、
魔王についての告知を、即座に出させやがった。
……これをヨシヒロが見たら、
少しはホッとするんじゃねぇかなとは思うが。
そんなことを考えながら、
冒険者ギルドにも同じ張り紙を大々的に掲示させる。
これをやっておかねぇと、「魔王討伐だ!」とか言い出す馬鹿が、
必ず出てくるからな。
「……発行されて少し経っちまったが、
一応、あいつにも一言書いて送っておくか」
次に来た時に伝えりゃいいかとも思ったが、
さすがに「こういうことになった」という事実くらいは、
事前に知らせておくべきだろう。
そう判断して、簡単な手紙を書き、
転移ゲートから伝書ガラスを飛ばした。
……こんな便利なもんを、平然と作り出す魔王なんて、
世間が知ったら腰を抜かすだろうな。
もっとも、この別館は特別客しか入れねぇ。
だから外部に漏れる心配はないが。
そう考えながら日常業務に戻り、
書類に目を通していた――その時だった。
コンコンッ――
ガチャッ――
「ガーノスさん! 大変です!!
新人冒険者パーティ、“光の破壊神”が、
魔王討伐とか言い出して、領地に向かったそうです!
出発したのは、5、6時間前とのことで……
もう、領地付近に到達しているかと!」
「……はぁ?!」
突然の報告に、思わず声が荒くなる。
「あの馬鹿ども……
注意書き、読んでねぇのか?!
手出し厳禁って、
あれだけデカデカと書いてあっただろうが!」
頭を抱えたくなる。
“光の破壊神”。
冒険者の間では、悪い意味で有名な新人パーティだ。
ルールは破る、
周囲に迷惑はかける、
討伐対象外の魔物にまで手を出す。
しかも――
以前、ヨシヒロのところのスライムをいじめていた、
あの魔導士二人も加入したって話だ。
救いようがねぇ。
「……とりあえずだ。
あいつらが死なねぇように、
話をしに行かなきゃならねぇだろうな。
俺も向かう」
嫌な予感しかしねぇ。
特に――
ロウキがキレちまったら、あいつら、食い殺されかねない。
そう考えると、さすがの俺も放っておけなかった。
なんで、あいつらはこうも
周りに迷惑をかけることしかしねぇんだ……
堪忍袋の緒も、さすがに限界だ。
俺はすぐさま、
もう一羽の伝書ガラスに状況を書き、アーロン宛に飛ばす。
ルセウスを呼んでもらうためだ。
そして馬にまたがり、馬腹を蹴って、連中の後を追った。
頼むから――
ロウキ、早まるなよ……!
◇
2時間半ほど馬を走らせたところで、
ヨシヒロの領地付近をうろつく冒険者たちが目に入った。
……ああ、やっぱりな。
結界に阻まれて、
入れずに右往左往してやがる。
ヨシヒロの知ってる奴しか通れねぇ結界だ。
そう簡単に突破できるわけがない。
「お前たち!
何をやってるんだ!」
「げっ!
ガーノスさん……っ!」
「まさかとは思うが、魔王討伐なんて考えてんじゃねぇだろうな?
今すぐ引き返せ! ライセンス、失いたいのか!」
「でもガーノスさん! 魔王ですよ?!
国王と仲がいいなんて、絶対に騙してるに決まってるじゃないですか!
魔王を倒してこその冒険者! 勇者パーティです!
俺たちがやってみせます!」
「……勇者パーティ?
お前ら、自分の実力分かって言ってんのか。
魔法も剣も、ロクに使えねぇくせに!」
訳の分からないことを言われ、俺は声を荒げた。
「いいから戻れ!
ここは、お前たちが来ていい場所じゃねぇ!!」
だが、連中は引かなかった。
「ガーノスさんまで、なんで魔王の味方するんですか?!
魔王ですよ?!
いい奴なわけないじゃないですか!!
それが王都で冒険者って…皆怖がってるに決まってるんだ!」
「頼むから帰れ……
これ以上いると、お前……」
そう言いかけた、その時――
背筋を凍らせるほどの殺気が、背後から叩きつけられた。
「……なっ……」
「え、えっ……
フェ、フェンリル?!
しかも……漆黒……」
「漆黒のフェンリルって……
世界を一瞬で滅ぼせるっていう、
あの伝説の……」
「や、やばい……
俺たち……殺される……」
目の前に現れたフェンリルに固まる奴ら。
立っているだけで、体が動かなくなるほどの覇気。
……だが、おかしい。
ロウキは、真っ白なフェンリルだったはずだ。
じゃあ、この目の前のフェンリルは――?
まさか、ヨシヒロのやつ、
また新しい従魔契約でも――
そう思った瞬間だった。
大木の影から、見知った顔がこちらを見ているのに気づく。
その手から放たれた伝書ガラスを受け取り、
中身を読んだ瞬間――
俺は、力が抜けた。
【このフェンリルはロウキです。
普段の姿だと、魔王の手下だと思われかねないため、
毛色を変えています。
脅しているだけなので、安心してください。
ちなみに、この大きさがロウキ本来の大きさです】
……ああ、そういうことか。
魔法で毛色を変えるって……
ほんと、発想が違うな、ヨシヒロは。
だが、ロウキだと分かれば話は別だ。
俺は前に出るのをやめ、
ロウキの出方を見守ることにした。
「貴様ら。
この領地が我が主の領地と知って、
足を踏み入れようとしておるのか」
「ひっ……
ま、魔王は……討伐対象で……」
「貴様らに問う。
我が主が、貴様らに何をした?」
「……それは……」
「今すぐ食い殺すことも可能だが……
アーロンに確認してからだな。
なぁ、ガーノスよ」
「……ああ。
この件は、すでに王家に報告済みだ。
ただじゃ済まねぇだろうな」
「そ、そんなっ?!
俺たちは善意で――!」
ドスの効いた声でロウキは奴らと俺に問いただした。
王家に報告済みだと言ったその瞬間、
背後から聞き覚えのある声が響いた。
「誰が、そんなことを頼んだのだ?」
「……え?」
「あ……あ、あなたは……
王国騎士団団長……
ルセウス様……!」
……やっと来たか。
俺は胸をなで下ろしながら、
ヨシヒロからの手紙をルセウスに手渡した。
状況を把握したルセウスは、
一瞬だけ、表情を和らげ――
そして、その場で静かに跪き、
ロウキに深く頭を下げた。
「フェンリル様。
この度は、私どもの不用意な行動により、御身に不敬を働きましたこと、
心よりお詫び申し上げます。
なお、本件に関与した者どもにつきましては、
相応の処罰を受けるべく、厳重に対処いたします。
以後、二度と同様の過ちが起こらぬよう、
細心の注意を払う所存です。」
「そ、そんなっ……!
俺たちはただ……この王都を護ろうと……」
「魔王様が、すでに護ってくださっている。
お前たちが口を出すことではない。
ただちに、この者たちを連れて行け!」
「ハッ!」
「ま、待ってくださいよ!
俺たちは悪いことなんてしてないっ!
魔王が“良い奴”だなんて、騙されてるんだっ!
おかしいよ、こんなのっ!」
「……お前たち。
私が、何も知らないとでも思っているのか?」
「……え?」
「王家直属の冒険者の従魔に手を出した魔導士を、
パーティに入れているようだな。
お前たちが手を出したのは、魔王様だ。
ガーノスの恩情で見逃してやっていたというのに……
もう知らぬ。
その件も含めて、お前たちを断罪する。覚悟しておけ!」
「嫌だっ!
せっかく冒険者になったのに!
お願いしますっ!
もう、こんなことはしませんからっ!
ですからどうか、ライセンスの剥奪だけは……っ!」
「……なぜ最初から、
きちんと考えて行動しなかったのか。」
「うぅっ……やだよ……」
「……連れて行け。」
「ハッ!」
ルセウスは深々と頭を下げて謝罪し、
連れていた兵士に冒険者たちを捕らえさせた。
それでも彼らは、
「こんなのはおかしい」「魔王に肩入れするなんて」と、
最後まで喚き続けていた。
……その気持ちは分かる。
きっと、感覚としては正しいのだろう。
魔王と仲良くするなんて、普通なら考えられない話だ。
だがな。
この国のルールを守れない奴に、居場所はない。
きちんと話を聞いていれば、
こんな行動は取らなかったかもしれない。
そう思うと、これは俺の教育不足でもあったなと、
痛感した瞬間だった。
「フン……我は帰る。」
「ああ、ありがとうな、ロウキ。
俺も後で帰るよ。」
「早く来るのだぞ。」
「分かってる!」
事が片付くと、ロウキは即座に背を向け、家へと戻っていった。
普段なら、こんな態度は取らない。
だが、すぐに理由は分かった。
――ルセウスがいるからだ。
王族を嫌っている、という話は聞いている。
まあ、仕方がねぇな。
そう思いながら、
俺はヨシヒロから、今回の件について話を聞いた。
「すみません!
ガーノスさんに……ルセウスさん。
あ、ルセウス様……ですね、すみません。」
「いや、さん付けで構わんよ。
私も、ヨシヒロと呼ばせてくれ。」
「ありがとうございます……
ガーノスさんから魔王の件について知らせをもらって、
しばらくしたら、気配感知に引っかかって……
警備の方々もいないようだったので、誰だよってなって。
それで、冒険者だってすぐ分かったので、
ロウキに変装してもらいました。
色が目立つのでどうしようかと思ってたんですけど、
“漆黒のフェンリルが存在している”って
ロウキから教えてもらったので、それにしたんです!
めっちゃカッコよかったですよね!」
「まあ、確かにな……
あのロウキからは、とんでもない覇気を感じたぜ。
普段のロウキが、どれだけ大人しくしてくれているか、
よく分かった。」
「ヨシヒロ。
今回の件で、ロウキ殿は気を悪くしていないだろうか?
兄上は、それを一番気にしていた。」
「あ、大丈夫ですよ。
久々に自分の魔力を解放できる~とか言って、
ノリノリでしたから。」
「そうか……
それなら良いのだが……
申し訳なかったと、再度詫びておいてくれるか」
「ありがとうございます、ルセウスさん。
そのお気持ちだけで、十分ですよ!」
改めて話を聞くと、ロウキは今回の件に、割とノリノリで付き合ってくれていたようだ。
それを知って、俺は胸をなで下ろした。
同時に、普段のロウキが、いかに“良い奴”でいてくれているかも、
改めて実感する。
……あれが本気を出せば、
間違いなく国が滅ぶだろう。
フェンリルが“破滅の魔獣”と呼ばれる理由が、
少しだけ分かった気がした。
そんなことを考えていると、
ヨシヒロが鞄から何やら箱を取り出し、
俺とルセウスに手渡してきた。
甘い匂いがするが……
お菓子か?
「あの……
今日はわざわざお越しいただいたお礼と、
驚かせてしまったお詫びと言っては何なんですが……
ルミグミ、良かったらお持ち帰りください。
甘くて美味しいですよ!」
「は? ルミグミだぁ?
あの、高値で取引されてるっていう……?」
「そうみたいですね。
うちの湖に、ルミグミがめっちゃ生ってるんですよ!
クロが昔からすごく好きで、
たまに、みんなで食べてます!」
「いいのか?
こんな高価なものを、もらっちまって……」
「構いませんよ!
クロが“いいよ”って言ってくれましたし」
甘い匂いの正体は菓子だと思っていたが、
それが、高値で取引されているルミグミだと知って驚いた。
この辺りでは、もう採取できる場所がなく、
他国から取り寄せるにしても、とんでもなく高価だと聞いている。
まさか、そのルミグミを
無料で渡される日が来るとは……
――これは、うちのカミさんが喜ぶぞ!
最高のご機嫌取りアイテムだな、と
内心でガッツポーズを決めていると、
パタパタと翼を羽ばたかせながら、クロが俺の肩に乗ってきた。
「これ、美味しいぞー!
特別だからな!
ガーノスと……ルセウス?」
「ああ。
私のことは、ルセウスと呼んでくれ。
私も、クロと呼んでもいいか?」
「いいぜー!
こっちはロウキの息子のユキで、
こっちがミル!
で、新しくスライムが仲間になったんだぜ!
青いスライムがラピス、
黄色いのがシトリン、
赤いのがガーネット、
緑色がルド、
銀色がムーンだ!
新しい仲間だから、よろしくなー!」
「ガーノス師匠!
皆、従魔になってくれました!」
「そうかそうか!良かったな、ラピス!
お前、頑張ってたもんな!」
クロは満面の笑みで「美味しいぞ」と言い、
いつの間にかルセウスと名前交換を済ませ、
ユキたちを紹介したかと思えば、
新しく仲間になったスライムたちの名前まで教えてくれた。
すると、ヨシヒロの肩に乗っていたラピスが、
嬉しそうに「皆が従魔になってくれた」と報告してくる。
その頑張りを知っていた俺は、
思わずラピスの頭を撫でまわした。
……なんだか、我が子みたいだな。
良い報告が聞けて、本当に良かった。
「それじゃあ、俺たちは戻りますね。
今日は色々とすみません……
ありがとうございました!」
「ああ、また会おう、ヨシヒロ。」
「じゃあな。
また近いうち、飯食いに来いよ!」
「はーい!」
少し話し込んだあと、
俺たちは王都へ戻るため、馬にまたがった。
一時はどうなることかと思ったが、
丸く収まって何よりだ。
……しかし、
あの冒険者たちは、どんな処罰を受けることになるのか。
冒険者ライセンスの剥奪は間違いない。
だが、それ以上に、重い罰が下るかもしれねぇな。
他の冒険者が、同じ過ちを犯さないように、
魔王についての講習会でも開くべきか。
それとも、王国側から改めて警告を出すか……
まあ、アーロンから何か話があるだろう。
その時にでも、相談するか。
そんなことを考えていた――
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