従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第97話 行方不明者

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ギルドにいたガーノスさんを呼び止め、事情を話すと、
「少し待ってくれ」と言われ、俺たちはそのまま待機することになった。

それからおよそ30分ほど経ち、ようやく手が空いたのか、
ガーノスさんが別館へ顔を出してくれた。


「悪いな、待たせちまって。今日はやけに魔物討伐の報告が多くてな。
地域ごとにまとめてたところだ。
万が一、大事になりそうならヨシヒロたちにも依頼を出させてもらうから、頼むぞ」

「うう……分かりました」


魔物討伐の報告が増えている――
それを面倒くさそうに言うガーノスさんを見て、内心ゾッとした。

この辺りで討伐が増えているって、普通に考えて嫌な兆候だ。
できれば、討伐依頼なんて受けたくない。
そう思っていたところで、俺より先にロウキが口を開いた。


「ガーノスよ。最近、“迷いの樹海”に誰かを派遣したことはあるか?」

「……なぜそれを知っている?」


ガーノスさんの表情が、一瞬だけ強張った。


「我らが育てている、“心願樹”という植物の姿をした精霊がいる。
通称、“追憶の欠片”と呼ばれており、人間の感情を吸収し、記憶する性質を持つ。
感情魔力をエネルギー源としていてな。
毎日のように誰かの感情を口にする……正直、やかましくて仕方がない」
その中の言葉に、こうあった。
『森の洞窟に閉じ込められている』
『一人で向かわせてごめんなさい』
――その意味を探るため、ここへ来たのだ」

「……なんじゃその植物は……
すげぇもん育ててんだな……」


呆然と呟くガーノスさんに、ロウキは淡々と続ける。


「先日の花冥祭で、感情があまりにも大きく動いた結果、突発的に生まれたのだ。
で?どうなのだ。迷いの樹海に、何かあるのか?」


ロウキがコダマのこと、そしてその言葉の意味を探るために来たことを説明すると、
ガーノスさんの眉がピクリと動いた。
……やっぱり、何かある。
そう確信しながら、俺はガーノスさんの次の言葉を静かに待った。


「お前たちと出会う前……そうだな。
ちょうど1年前くらいだったか。
ルセウスのところの騎士団、第2部隊の騎士の一人が、
“迷いの樹海”へ向かったことがある。
理由は……馬鹿げた話だ」


ガーノスさんは、少し間を置いてから語り始めた。


「第2部隊の中で仲の良い連中が何人かいてな。
当時、同じ女を好きだったらしい。
で、その女がこう言ったんだ。
『迷いの樹海にあるとされる“ルミグミ”を取ってきた人と付き合う』ってな」

「ええ……どっかのおとぎ話のやつじゃん……
っていうか、ルミグミなら、うちにたくさんありますけど……
立ち入り禁止エリアでしたし、無理だったんですね……」

「ああ。ルミグミは昔から“幻の果実”として有名だったからな」

「他の騎士たちは“無理無理”って笑ってたそうだ。
だが、皆がその話を忘れた頃――
一人の騎士が、それを真に受けて迷いの樹海に行っちまった」

「そして……帰ってこなくなった」


空気が、重く沈んだ。


「誰も、もうルミグミの話なんて覚えてなかった。
だから、無断欠勤を続けた末に、逃げて辞めたんだろうって扱いになってな。
だが……その女が、罪の意識に耐えられなくなったんだろう。
別の騎士に、『あの人、迷いの樹海に行くって言ってた』、
そう話したことで、ようやく発覚したんだ」

「……愚かな女子(おなご)だな。
もっと早く言っておれば、助かったかもしれんというのに」

「そうだな……
一応、ルセウスの命で、副団長のランティスが第2部隊を率いて捜索に行った。
だが……結局、何も分からなかった」

「……そうだったんですね」


“迷いの樹海”で起きた出来事。
事件とも、事故とも言い切れない話。
それを聞いた俺の胸には、言葉にできない感情が広がっていた。

好きな人に振り向いてほしくて頑張った。
そう言えば、聞こえはいい。

だけど――
話を聞く限り、彼は利用されたのではないか。
そんな考えが、どうしても浮かんでしまう。
それでも。
自分の軽はずみな言葉が、一人の青年を危険な場所へ向かわせ、
帰らぬ人にしてしまったかもしれないと知ったら――
冷静でいられるはずがない。

……バカなことをしたな。
そう思わずにはいられなかった。


「結局、帰らぬまま……なのだろう?」

「ああ……
迷いの樹海の調査は、思うように進まなかった。
ルセウスもランティスも、諦めたくはなかったが……
アーロンが捜索を打ち切らせた。
『これ以上、大切な人間を失うわけにはいかない』
――そう言ってな」

「……苦渋の決断ですね」

「ああ……
アーロンの気持ちも分かる。正直、何とも言えねぇ話だ」


ロウキの問いに、ガーノスさんは静かに頷いた。
アーロンさんが捜索を打ち切った理由も、痛いほど分かる。
誰も間違っていないのに、誰も救われなかった。

――きっと、コダマが記憶していた“悲しい声”は、
その彼女の懺悔だったのだろう。
1年前、あんなことを言ってしまってごめんなさい。
そんな、遅すぎる後悔。

まだ、人間らしい心が残っていたのだと思うと同時に、
言葉の重さを、改めて突きつけられた気がした。

二度と、同じようなことを口にしないでほしい。
そんな願いが、胸に湧き上がっていた。


「ガーノスさん、辛い話を教えてくださって、ありがとうございます」

「いや、大丈夫だ。……ってわけだからよ。
お前たちも、あの森には近づかないでくれよ?
お前たちまで失ったら、俺は本当に泣くからな?」

「はは、分かりました。大丈夫ですよ。
俺、のんびり生活したいので、そういう危険な場所には行きませんから」

「ははは、そうだったな。
じゃあ、俺は仕事に戻るわ。また今度、ゆっくり飯でも食いながら話そう」

「はい! ありがとうございました!」


ガーノスさんに「絶対に行くなよ」と念を押された迷いの樹海。
当たり前だけど、行くつもりなんてなかった。
そんな恐ろしい場所に、俺が行くはずがない。

そう思いながら、ひとまずゲートをくぐって家に戻ると、
ミルたちが、他の子たちに何があったのかを話し始めていた。

……良くないよなぁ、こういうの。
だって俺、分かっちゃうから。
皆が、なんて言うのか。

聞こえないふりをしたいけど、どうしたらいいんだろう。
そう思っているうちに事情の説明が終わり、
案の定、皆が口をそろえて言い始めた。


「主、行くよな?」

「あるじさま、生きてはいないでしょうけど、
せめて連れて帰ってあげた方がいいのではないでしょうか?」

「私もついて行くわよ、ヨシヒロ様」

「パッパ! モモも行く!」

「シンゴもー! お助けする!」


……ほらね。
そう言うと思ってたんだよ。

分かってた。
皆が、この手の話を聞いて放っておけるわけがないって。

しかも、モモやシンゴまで皆に似てきて、
「一緒に行く」なんて言い出すなんて……
さすがに危ないからダメだろうと思いながらも、
どうしたものかと悩んでいた。


「ロウキ、どうすればいいんだよ、これ……」

「全員連れて行けばよかろう。
この領地には誰も入れはせんし、危ないようなら馬車の中で待機させておけばよい。
ガーノスに言って、馬を借りてくるのだ」

「えええ……全員で行くのか? 大丈夫かよ……」

「たまには、全員で出かけるのも悪くなかろう?」

「いやいや……いやいやいや……」

「クロ、ガーノスに馬を借りられるか、確認してこれるか?」

「いいぜ!ユキ、行こうぜー!」

「行きましょう!クロ兄さん!」

「また勝手に……」


悩んでいる俺に、ロウキは「皆で出かけたらよい」と、
相変わらず適当なことを言い始めた。

さすがに無理だろうと思っていたけど、
「馬車に待機させればいい」という一言で、
その場にいた全員が、“迷いの樹海に行く気満々”になってしまった。

クロはユキと一緒に、ガーノスさんのところへ向かってしまったし、
ラピスたちは眷属の子たちに
「出かけてくるから、いい子にしててね」と説明を始めている。

シンゴはモモとあっくんに向かって、
「お外は危ないから、パッパの言うことをちゃんと聞くんだよ」と、
すっかりお兄ちゃんモードだ。

……もうダメだね。
完全に収拾がつかなくなってる。
これはもう、行くことが決定だな。

迷いの樹海って、どんなところなんだろうか……
俺、死んじゃったりしないよな?

不安しかないけど、もし騎士団の人らしき人物がいた場合は、
どうにかして連れて帰る方向で考えていた。


「諦めるのが早くなったのではないか?」

「皆のせいだからな?」

「フン。そうさせておるのは、お前だからな」

「俺が何をしたっていうんだよ……!」

「まぁ、とにかく出かける準備をしておくのだ」

「はいはい。じゃあ、準備しますかね」


ロウキは、俺が“行かない”ことを諦めて、
皆と一緒に行くと決めたのが分かったのか、
ニヤニヤと笑っていた。

そして、「皆がこうなったのはお前のせいだ」と言っていたけど、
俺が一体、皆に何をしたっていうんだよ……
……なんて、分からないことを考えても仕方がないか。

俺はミルと一緒に、出かけるための食事作りを始めた。
何が起こるか、まったく予想はつかない。

それでも、今回も――
とにかく無事に帰ってこられますように。

そう祈りながら、出かける支度をしていた――……
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