Liar’s Love ― 嘘つきな僕らの恋 ― 嫌いだったはずの君に恋をするまで

ソラリアル

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第31話 言えない秘密

「侑斗、何かあるならちゃんと話、聞くから」

「あ……ありがとう、ございます」

「あー、あと。もう敬語、使わなくていい。呼び捨てなのに敬語って、変だろ?」

「む、難しいですねぇ……」

「まあ、少しずつ慣れていけばいい」

「はいっ……じゃなくて、うん。ありがとう、翔真」


そんな温かい会話を交わしたのは、もう一週間も前のことだ。
翔真は心から俺のことを心配してくれていて、それが真っ直ぐに伝わってくるのが、ただ単純に嬉しかった。

だからこそ、彼には絶対に言えない秘密があるのだと自覚した時。
翔真という存在が、俺の中で取り返しのつかないほど大きくなっているのだと思い知らされた。


「はぁ……」

「どしたんだよ? 翔真さんからの楽曲提供も決まって、クリスマスライブも目前だってのにさ」

「んー……」

「ライブのあとはどうすんの? 打ち上げ、パーッとやるか?」

「あー……いや。予定があるから、ライブが終わったらすぐ帰らなきゃいけないんだ」

「おっ!? え、それってもしかして……あっちと?」

「違うよ。向こうもイブはライブだし、そのまま打ち上げだと思う。
俺は、ただ個人的な用事があるだけ」

「なんだ。てっきり翔真さんと過ごすのかと思ったのに」


スタジオでのリハーサル中、拓真から振られたイブの話題に、胃がキリキリと痛み始めた。
運命の日へのカウントダウンは、もう始まっている。

覚悟を決めなければと、自分に呪文のように言い聞かせているけれど、未だに心の中では「拒絶」と「諦め」が激しくぶつかり合っていた。

そして極めつけは紫音だ。
最近大人しくなったかなと思っていたけれど、先日マンションのエントランスホールで偶然顔を合わせた時に言われた言葉がずっと引っかかっていた。


『侑斗さんだから言いますけど……
俺、翔真さんのことが好きなんです。誰にも渡したくない。
だから、彼の周りをうろちょろする人は、何があっても消します』


そんな物騒なことを真顔で言い放った紫音の目は、冗談ではなく本気で何かを仕掛けてきそうな冷たい光を宿していて、底知れない恐怖を感じた。

同時に、彼が俺のことを目の敵にしていた理由が、ようやく腑に落ちた。
翔真は何かと、俺を庇うような素振りを見せていた。
紫音にとって、それは何よりも許しがたい光景であり、俺はその執着の標的に選ばれたのだろう。

年下の紫音が恋のライバルというのは、正直言ってかなりキツい。
翔真との付き合いも、きっと紫音の方が長いだろう。
それに加えて、もし俺が翔真に特別な好意を抱いていると知られたら……

「消す」という彼の言葉が脳裏でリフレインし、背筋に冷たいものが走る。
夫人の脅迫、心愛の執着、そして紫音の異常な愛情。

どれをとっても俺には恐ろしく、可能であればすぐにでも排除してほしい存在だった。


「ああああ……っ。何か、思いっきり歌いたい……!」

「お? いいんじゃないの。じゃあ今日は、“いい子”な歌い方はやめてみたら?」

「……っ!?」

「さあ、翔真さんが作った曲、やってみる? 気分上がるんじゃない?」

「いいですねぇ! んじゃ、ちょっとやっちゃいましょうねぇ」

「みんな、いくよ――!」


考えることが多すぎて、破裂しそうなほどに痛んでいた俺の心。
思わず漏れた叫びに、琉輝は「“いい子”な歌い方をやめてみろ」と笑って答えた。
俺の歌の「窮屈さ」を敏感に感じ取っていたことに、心臓が跳ねる。

そうだ。今の俺には、すべてをなぎ倒すような熱量が必要だ。
そう思いながら、翔真が俺のために書き下ろしてくれた新曲に音を乗せた。

(……裏で操られていることだけは、絶対に知られてはいけない)

爽快な旋律の中で、俺は必死に自分に言い聞かせる。
みんなの大切な場所を、このバンドを護るため。あんな女たちの言いなりになっているなんて、知れば彼らはどう思うだろう。

きっと、みんなのことだ。俺を救うために、バンドを辞めるという選択をしてしまいそう。

(だから……俺ひとりで、いい)

マイクを握る指先に力を込め、俺は翔真がくれた最高のメロディを奏でた――








【翔真Side】


「翔真、ちょっと変わったな」

「そうか?」


クリスマスライブのリハーサル。
休憩に入った途端、ギターの颯《はやて》がそんなことを言い出した。
何が変わったのか、自分ではさっぱり分からない。


「分かる。ちょっと柔らかくなったっていうかさ」

「トラまで……」


颯の言葉に即座に反応したのは、同じくギターの虎之助《とらのすけ》――通称トラ。
やたらニヤついているその顔が、妙に腹立たしい。


「だって、あの翔真が誰かのために曲を書くこと自体、あり得ないだろ」

「しかも、あんな疾走感のある爽やかな曲をねぇ」

「……お前らだって、コンペに参加してただろうが」


ベースの奨輝《しょうき》とドラムの凛太郎《りんたろう》までが、俺の変化を面白がって笑う。
メンバーにこんな風に弄られるのは、一体いつ以来だろうか。


「侑斗と絡むようになってからだよな、翔真がそんな風に笑うようになったのは」

「……え?」

「最初は侑斗を殴り飛ばしでもしたらどうしようかと思ったけどさ。
いつの間にかあんなに懐かれちゃって。
……それなのに、外では犬猿の仲を演じ続けろってのも、社長は酷なことさせるよな。
まあ、二人が和解したのを知らないから仕方ないんだろうけど」

「……まあ、そうだな」


付き合いの長いこいつらだからこそ、俺の微かな変化に気づいたのだろう。
自分ではいまいち自覚がないが、ただ一つ――侑斗に対して、これまで抱いたことのない感情が芽生え始めていることだけは感じていた。

困っているなら力になりたいし、助けてと言われれば迷わず手を差し伸べたいと思う。
この感情が、一体どんな種類の『愛』なのか。その答えも、少しずつ自分の中で形になりつつあった。
……しかし、相手は男だ。惹かれているからといって、どうこうしようとは思っていない。

今のこの距離感が、俺は気に入っている。
だからこそ。この平穏を奪おうとする奴がいるのなら、俺は一切容赦するつもりはない。

そう思えてしまう自分に、驚きさえ感じている。
俺は、自分で自覚している以上に、あいつに深く惹き込まれているのかもしれない――
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