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season1
scene03-05 ★
しおりを挟むそれからしばらくして、そこにはすっかり泥酔した玲央の姿があった。
雅としても思いがけないことだったようで、狼狽している様子が見て取れる。
「ご、ごめんなさい、獅々戸さん。まさか、そんなにお酒弱いとは思わなくてっ」
「おいコラ、勝手に決めつけんなっ! 余計なお世話だっつーの!」
改めてゼリーの包装を見てみたら、アルコール度数が小さく表記してあった。
これは洋酒が入っているのではなく、洋酒そのものを固めたゼリーだったらしい。まんまとキャッチーなパッケージに騙されてしまったわけだ。
だが、今となっては、そんなことはどうでもよかった。
「ったく、女ってワケわかんねーしっ」
気がつけば、クドクドと愚痴を零していた。
玲央にだって男としてのプライドはあるし、いつもならこんなみっともない真似はしない。完全に酔いが回っていた。
そして、次第に愚痴は泣き言へと変化していくのだった。
「俺、なんでこんなカッコ悪いんだろ。主演やっててもヒーローってガラじゃねーし」
そう口にした途端、ずっと当たり障りのない相槌を打っていた雅が迫ってきた。
「そんなことないです! 獅々戸さんは格好いいヒーローですよっ!」
真剣な物言いに面食らう。
ただ、今は薄っぺらい慰めなんて聞きたくない気分で、玲央は嘲るように笑った。
「なんだよ急に……お前に何がわかるってんだよ」
「わかりますよ。だって、カメラマンなんですから」
「いや、だからって」
「獅々戸さん言いましたよね、『カメラは観客の目になるんだから、一番カッコいい画で撮ってほしい』って。俺、いつもあなたのこと目で追ってました」
確かに口にしたと思うし、覚えていてくれたのは、役者としても先輩としても嬉しい。
ところが玲央の場合は、それでは満たされないのだ。
「ンなこと言ったって、好きなヤツが振り向いてくれなきゃ意味ねーじゃん」
酒の勢いとは厄介なもので、かなり感情の起伏が激しくなっていた。辛く、切ない気持ちが全身を駆け巡り、どうしても愚痴や泣き言を吐露したくなってしまう。
「今の俺、ぜんっぜん駄目だな。悪い……全部忘れてくれ」
情けないことこの上ない。二つ下の後輩に何を言っているのだろうか。
マイナス思考になっている自分をどうにか奮起させようとするも、涙で視界が歪んでしまうのを感じた。
すると、そのときだった。雅が突然抱きしめてきたのは。
「え……」
アルコールで濁った思考では考えが追い付かず、しばし硬直してしまう。続けざまに、噛みつかんばかりの勢いで唇を押し付けられた。
「ん……っ!?」
自分が何をされているのか理解するのに、時間を要した。
放心状態から抜け出すなり、相手の胸を叩いて抵抗を試みる。だが、後頭部を強い力で抑えられて、逃れることができなかった。
息苦しさに歯列を開くと、その間に舌が侵入してきて乱暴に舐めまわされる。
こんなに荒々しいキスは初めてで、頭の芯がじんと痺れる感覚に動揺した。
「ッ! やめろバカ!」
やっとのことで口にすると、抑えつけられていた力が緩んで唇が離れる。口元を手で拭いつつ少し距離を取った。
雅は顔を伏せていて、前髪が影になっていることから表情が読み取れない。言い知れぬ恐怖を感じつつも、威圧するようにトーンを落として言葉を投げかける。
「おいコラ、シャレとかだったらざけんなよ……マジでブン殴んぞ」
「すみません。だけど、そんな顔されたら理性なんて飛ぶに決まってます」
「なっ!」
即座に腕が伸びてきて、あっという間に玲央の体は押し倒された。
思ってもみなかった行為にショックを受けつつ、両手を伸ばして抗うのだが、それも虚しく。攻防の末に、ひと纏めにされて頭上に持ち上げられてしまう。
華奢な見かけに反して相手の力は強く、左手だけで押さえられているというのにびくともしない。
せめて足だけでもと思ったのだが、いつの間にか馬乗りの状態になっており、自由が利かなかった。
「て、テメェ、ぶっ殺されてーのかよ? 自分が何してると思って……」
声が震える。こんなふうに組み敷かれては、いつもの覇気も出せない。
「俺が忘れさせます。酔ってすっきりしたら、暗い気持ちも飛んでいきますよ」
「おい、放せよ」
「あとで怒ってくれていいですから」
「クソったれ! 放せってッ――」
再び唇を押し付けられて声がかき消された。顔を背けるも、何度も向きを変えてがむしゃらに口づけられる。
呼吸がうまくできずに喘ぐなか、雅がTシャツの中を片手で弄ってきた。
「っ……!?」
平坦な胸板を撫でまわす手が小さな突起を見つければ、キュッと摘ままれて、思わず腰が浮き上がってしまう。
緩く円を描くように撫でられたかと思いきや、きつく指先で抓られ、緩急をつけて刺激を与えられるうちにその尖りは熱を持っていく。
「乳首、感じるんですか?」
耳元で囁かれて耳朶をつうっと舐められる。異性のように扱われているのにも関わらず、不思議と鋭敏に感じてしまう羞恥に涙が零れた。
「ん、の……やめッ、ざけんなぁっ」
「ごめんなさい。泣かせちゃいましたね」
雅は小さく謝って、頬にキスを落としてくる。
優しげな声色とは裏腹に、彼による責め立ては止まることがなく、今度は下腹部へ手が移動していった。
布地の上から、形を確かめるようにやんわりと愛撫される。下肢は本人の意思とは反対に、少しだけ反応を見せていた。
「ッ……ん、くっ」
(嘘だろ……なんでこんなことされて!?)
涙をぽろぽろと零す玲央には目もくれず、雅はジャージパンツごと下着をずらしてきて、緩く勃ちあがり始めていたものを取り出す。
根元から握り込んでゆっくり手を動かされれば、痺れるような甘い疼きが込み上げ、熱が集中していくのを感じた。
「獅々戸さん、気持ちいい?」
「っ、ばか……手、どけ……ッ」
先走りが滲んでは雅の手を汚し、くちゅくちゅと濡れた音を立てる。ここまでくると抵抗の意思もなくなり、玲央は快感を受け入れるだけになっていた。
「や、あっ……ぅ、く……」
ほどなくして限界を感じ、堪らず身悶えする。
雅は反応の違いを察したのか、追い立てるように強い力で先端を擦ってきた。
「ほら、イッて――獅々戸さん」
「……っ! く、うぅッ」
歯を食いしばるも、下肢からせり上がってくる衝動は止めようがなかった。己の腹部に白濁を飛び散らせて、あっさりと達してしまう。
(なんで、俺がこんな目に……)
その思いを最後に、玲央の意識は沈んでいくのだった。
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