××な君にヒロイン役は似合わない

有村千代

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season1

scene03-04

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 思い出したときにはもう遅く、終電には間に合わなかった。
 タクシーで帰ろうとも思ったのだが、雅の好意で自宅に泊めてもらうことになり、他愛ない話をしながら夜道を歩く。
「へえ、部長を送った帰りだったんですか。前々から気になってたんですけど、二人って付き合ってるんですか?」
「は!? い、いや、単に昔からの知り合いってゆーか……アイツ彼氏いるし」
 雅は驚いたように目をぱちくりさせるが、それよりも驚いたのは、突然そんなことを訊かれたこちらの方である。
「そうだったんですか。獅々戸さん、いつも部長のこと見てるからてっきり……」
「ちょっ、どうして知ってんだよ!?」
 なおも追い打ちをしかけられて狼狽える。
 そこまで周囲にバレバレだったろうか。言い知れぬ羞恥の情が、胸の奥底から込み上げてきた。
「クソッ。そーだよ、クソだせぇけど好きなんだよ……」
 やがて観念して、小さく呟く。
 聞こえたに違いないのに、雅は黙ったまま少しもリアクションを取らなかった。
「藤沢は彼女いねーの? 顔も性格もよさげだし、女が放っておかねーだろ?」
 沈黙に耐えられなくなって、からかうように問いかけてみる。
 雅は長身で端正な目鼻立ちをしており、あまり話したことはないが、温厚で誠実そうな性格が表情からうかがえる。なんとも女性が好みそうなタイプだ。
「今はいませんよ」
「でたでた、『今は』って。ンな顔して、やることやってんじゃねーか」
「でも、付き合っても長続きしないというか、高校のときは部活でいっぱいいっぱいで」
「お前って来るもの拒まずってか、押しに弱そうだしな」
「ええー? そうですかね?」
 雅が苦笑交じりに首を傾げると、艶のある黒髪が揺れる。
 この容姿と性格だ。ステレオタイプで言ってしまえば、いわゆる《草食系男子》というカテゴリーに分類されるのだろう。
「まあ、わかっけど……そのあたりは似た者同士かもな」
(俺も長続きしなかったし。岡嶋のことがどうしても忘れられなくて、申し訳なかった)
 付き合ってみたら、そのうち相手を好きになるかもしれない。苦し紛れの淡い期待で、告白を受け入れたことを思い出す。
 けれど、初めて恋をした――あのときのような、ときめきがなかった。
 別れ話を切り出すのはいつも相手からで、ただ「悪い」としか返せなかった覚えがある。あんなふうに、互いに損をするだけの関係はもうごめんだ。
(いや、似た者同士っつーのはないか。俺のは女々しいだけだな……)
 外面だけならいくらでも格好つけられる自信があるが、肝心なところはまったく格好つかない。それが獅々戸玲央という男だった。



 雅の自宅はマンションのワンルームだった。整然とした清潔感のある部屋は、彼の性格が表れているように思えた。
 かといって、物が少ないというわけではない。オーディオ環境が構築されており、棚には映画のBD・DVDや映像関連書籍がいくつも並んでいる。
 映研に所属している身としては当然かもしれないが、その当然が嬉しいもので、玲央は好感を持ったのだった。
「マジですまねーな、藤沢」
 シャワーを浴びて浴室から出ると、改めて口にした。
「いえ、お気になさらず。服のサイズ合いましたか?」
「あ? 嫌味かよ? 合うワケねーだろうがっ」
 寝間着に服を借りたのだが、Tシャツはまだいいとして、ジャージパンツがあまりに大きすぎて裾をいくらか捲っていた。
 気遣いに文句を言うつもりはないが、正直なところ不服だ。もの言いたげな目を向けたら、困ったような愛想笑いが返ってきた。
「すみません。嫌味とかではなかったんですけど」
「クソッ、羨ましいなこんちくしょー……」
 自分もあと五センチくらい欲しかったものだ――などと考えつつ、喉の渇きを覚えて家主に声をかける。
「水、貰っていい?」
「はい、冷蔵庫の中にミネラルウォーターあるんでご自由に。コップも適当に使ってください」
「おう」
 許可を受けて冷蔵庫を開ける。男の一人暮らしにしては、珍しく生活感があった。
 あまりじろじろ見るのも失礼だろうと思いながらも、目当てのミネラルウォーターを手に取ろうとして、ふと気になる物が目につく。
 一口サイズの容器に入った形状からゼリーだと思われるが、目を瞠るのは、赤や緑といった絵の具を溶かしたような色彩豊かな風貌だ。英文のパッケージからして海外輸入の食品なのだろう。
「獅々戸さん? 見当たりませんでしたか?」
「悪ィ、変わったモンあるなーって思っただけ」
 ミネラルウォーターを取り出して冷蔵庫を閉める。コップを用意していると、雅がやってきた。
「これですかね?」
 取り出したのは、先ほどのゼリーだった。
「ああ、そうそれ。お前、輸入食品とか好きなの?」
 気になったので素直に訊いてみると、雅はゆるく首を横に振った。
「いえ、実家からの仕送りに入ってただけなんです。姉曰く、洋酒が入ってるゼリーらしいんですが……よかったら食べませんか?」
「え? いいの?」
「俺、こういったのあんまり得意じゃなくて。むしろ、食べてもらえると嬉しいです」
「ふーん……そんじゃ、ありがたく今いただくわ。小腹減って眠れなさそうだし」
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