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第1話 好きでごめんね(1)
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「こらぁ! ハルをイジめんなーっ!」
幼少の頃から、坂上智也は喧嘩っ早い性格をしていた。というより、そうならざるを得なかったのだ――大切な友人を守るために。
「だいじょうぶか、ハル」
智也の背に隠れて泣いているのは、《ハル》こと結城陽翔。
同い年の二人は物心ついたときからの仲で、家が近所だったこともあり、家族ぐるみでの付き合いだった。
陽翔は体が大きいくせに引っ込み思案なため、クラスメイトの男子たちに意地悪されてはよく泣いていた。そんな彼が放っておけなく、ことあるごとに智也は果敢に守ってきたのである。
(ハルのことは、おれがまもってやらねーとっ)
今となっては懐かしい思い出だ。当時は陽翔に対して、純粋にそのような感情を抱いていたのだが、高校生にもなると周囲の目も変わるもので――。
◇
「結城くん、おはようっ!」
いつもの登校風景。陽翔とともに教室に入れば、一斉に女子生徒が集まってくる。陽翔は優しい笑顔を浮かべて挨拶をした。
「おはよう」
その一言だけで、取り囲む女子たちは黄色い声を上げる。
長身で甘いマスクを持つ陽翔は、誰がどう見てもイケメンであり、よく漫画に出てくる学園の王子様的な存在だった。なんでも、眠たそうなタレ目に栗色の猫っ毛が愛らしいと評判だ。それでいて優しく穏やかな性格をしているものだから、異性から絶大な支持を受けている。
(っとに、俺とは大違いっつーか……)
一方の智也といえば目つきが鋭く、ワックスで固めた金髪に、両耳にはピアス――と一見すると不良のような風貌だ。おまけにぶっきらぼうな性格のせいか、あまり周囲に馴染めていないところがある。異性との交際だってあったけれど、一か月程度で別れてしまって長続きした試しがない。
だが、本人はいたって気にしていなかった。
(ま、別にハルがいればいいし)
幼なじみとして、また親友としても陽翔の存在は大きい。
いつだって一緒だったし、転機が訪れない限り、きっとこれからもそうに違いないだろう――などと考えながら自分の席へと向かったときだった。教室の後ろの方で、陰湿な男子生徒の声が耳に入ってきたのは。
「結城ってマジキモいよな……男のくせにナヨナヨといい子ちゃんぶりやがって」
途端、智也の足が止まった。それから一息つくと、飲み終えたばかりの紙パックのジュースを発言者――ではなく、その横にあったゴミ箱めがけて勢いよく投げつける。惜しくも外してしまったが。
「あ、外した」
「ちょっ、何してんの智也。ちゃんと拾って入れなよ、もう!」
すかさず注意してきたのは陽翔だった。女子軍団に囲まれながらも、ちょうどタイミングよく目にしていたようだ。
「チッ、俺の母ちゃんかテメェは」
智也は頭を掻きながらゴミ箱の方に近づいていった。紙パックを拾いつつ、先ほどの生徒に対して睨みを利かせる。
「……勝手なことほざいてんじゃねェよ、クソが」
凄むように言い放つと相手の顔が強張り、智也はフンと鼻を鳴らしてから踵を返した。
これだからクラスで浮いているというのに、陽翔のことになるとついカッとなってどうしようもない。幼い頃からそうなのだ。いや、生傷が絶えなかった過去と比べれば、まだマシといった具合か。
「ねえ、今日って弓道部ないよね? 結城くんもカラオケどう?」
陽翔の席には相変わらず女子がいる。その誘いに陽翔は苦笑を浮かべていた。
「ごめんね。先約があるから行けないや」
申し訳なさそうに断りを入れる陽翔に、智也はずっこけそうになった。せっかくの女子からの誘いなのだ、そこは先約をキャンセルしてでも行くべきだろうに。
(先約って……どう考えても“アレ”のことだよな?)
そうしてなんとも言えない気分のまま、授業を受けるのだった。
幼少の頃から、坂上智也は喧嘩っ早い性格をしていた。というより、そうならざるを得なかったのだ――大切な友人を守るために。
「だいじょうぶか、ハル」
智也の背に隠れて泣いているのは、《ハル》こと結城陽翔。
同い年の二人は物心ついたときからの仲で、家が近所だったこともあり、家族ぐるみでの付き合いだった。
陽翔は体が大きいくせに引っ込み思案なため、クラスメイトの男子たちに意地悪されてはよく泣いていた。そんな彼が放っておけなく、ことあるごとに智也は果敢に守ってきたのである。
(ハルのことは、おれがまもってやらねーとっ)
今となっては懐かしい思い出だ。当時は陽翔に対して、純粋にそのような感情を抱いていたのだが、高校生にもなると周囲の目も変わるもので――。
◇
「結城くん、おはようっ!」
いつもの登校風景。陽翔とともに教室に入れば、一斉に女子生徒が集まってくる。陽翔は優しい笑顔を浮かべて挨拶をした。
「おはよう」
その一言だけで、取り囲む女子たちは黄色い声を上げる。
長身で甘いマスクを持つ陽翔は、誰がどう見てもイケメンであり、よく漫画に出てくる学園の王子様的な存在だった。なんでも、眠たそうなタレ目に栗色の猫っ毛が愛らしいと評判だ。それでいて優しく穏やかな性格をしているものだから、異性から絶大な支持を受けている。
(っとに、俺とは大違いっつーか……)
一方の智也といえば目つきが鋭く、ワックスで固めた金髪に、両耳にはピアス――と一見すると不良のような風貌だ。おまけにぶっきらぼうな性格のせいか、あまり周囲に馴染めていないところがある。異性との交際だってあったけれど、一か月程度で別れてしまって長続きした試しがない。
だが、本人はいたって気にしていなかった。
(ま、別にハルがいればいいし)
幼なじみとして、また親友としても陽翔の存在は大きい。
いつだって一緒だったし、転機が訪れない限り、きっとこれからもそうに違いないだろう――などと考えながら自分の席へと向かったときだった。教室の後ろの方で、陰湿な男子生徒の声が耳に入ってきたのは。
「結城ってマジキモいよな……男のくせにナヨナヨといい子ちゃんぶりやがって」
途端、智也の足が止まった。それから一息つくと、飲み終えたばかりの紙パックのジュースを発言者――ではなく、その横にあったゴミ箱めがけて勢いよく投げつける。惜しくも外してしまったが。
「あ、外した」
「ちょっ、何してんの智也。ちゃんと拾って入れなよ、もう!」
すかさず注意してきたのは陽翔だった。女子軍団に囲まれながらも、ちょうどタイミングよく目にしていたようだ。
「チッ、俺の母ちゃんかテメェは」
智也は頭を掻きながらゴミ箱の方に近づいていった。紙パックを拾いつつ、先ほどの生徒に対して睨みを利かせる。
「……勝手なことほざいてんじゃねェよ、クソが」
凄むように言い放つと相手の顔が強張り、智也はフンと鼻を鳴らしてから踵を返した。
これだからクラスで浮いているというのに、陽翔のことになるとついカッとなってどうしようもない。幼い頃からそうなのだ。いや、生傷が絶えなかった過去と比べれば、まだマシといった具合か。
「ねえ、今日って弓道部ないよね? 結城くんもカラオケどう?」
陽翔の席には相変わらず女子がいる。その誘いに陽翔は苦笑を浮かべていた。
「ごめんね。先約があるから行けないや」
申し訳なさそうに断りを入れる陽翔に、智也はずっこけそうになった。せっかくの女子からの誘いなのだ、そこは先約をキャンセルしてでも行くべきだろうに。
(先約って……どう考えても“アレ”のことだよな?)
そうしてなんとも言えない気分のまま、授業を受けるのだった。
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