王子系幼なじみとの恋はgdgdです

有村千代

文字の大きさ
2 / 54

第1話 好きでごめんね(1)

しおりを挟む
「こらぁ! ハルをイジめんなーっ!」
 幼少の頃から、坂上智也さかがみともやは喧嘩っ早い性格をしていた。というより、そうならざるを得なかったのだ――大切な友人を守るために。
「だいじょうぶか、ハル」
 智也の背に隠れて泣いているのは、《ハル》こと結城陽翔ゆうきはると
 同い年の二人は物心ついたときからの仲で、家が近所だったこともあり、家族ぐるみでの付き合いだった。
 陽翔は体が大きいくせに引っ込み思案なため、クラスメイトの男子たちに意地悪されてはよく泣いていた。そんな彼が放っておけなく、ことあるごとに智也は果敢に守ってきたのである。
(ハルのことは、おれがまもってやらねーとっ)
 今となっては懐かしい思い出だ。当時は陽翔に対して、純粋にそのような感情を抱いていたのだが、高校生にもなると周囲の目も変わるもので――。

    ◇

「結城くん、おはようっ!」
 いつもの登校風景。陽翔とともに教室に入れば、一斉に女子生徒が集まってくる。陽翔は優しい笑顔を浮かべて挨拶をした。
「おはよう」
 その一言だけで、取り囲む女子たちは黄色い声を上げる。
 長身で甘いマスクを持つ陽翔は、誰がどう見てもイケメンであり、よく漫画に出てくる学園の王子様的な存在だった。なんでも、眠たそうなタレ目に栗色の猫っ毛が愛らしいと評判だ。それでいて優しく穏やかな性格をしているものだから、異性から絶大な支持を受けている。
(っとに、俺とは大違いっつーか……)
 一方の智也といえば目つきが鋭く、ワックスで固めた金髪に、両耳にはピアス――と一見すると不良のような風貌だ。おまけにぶっきらぼうな性格のせいか、あまり周囲に馴染めていないところがある。異性との交際だってあったけれど、一か月程度で別れてしまって長続きした試しがない。
 だが、本人はいたって気にしていなかった。
(ま、別にハルがいればいいし)
 幼なじみとして、また親友としても陽翔の存在は大きい。
 いつだって一緒だったし、転機が訪れない限り、きっとこれからもそうに違いないだろう――などと考えながら自分の席へと向かったときだった。教室の後ろの方で、陰湿な男子生徒の声が耳に入ってきたのは。
「結城ってマジキモいよな……男のくせにナヨナヨといい子ちゃんぶりやがって」
 途端、智也の足が止まった。それから一息つくと、飲み終えたばかりの紙パックのジュースを発言者――ではなく、その横にあったゴミ箱めがけて勢いよく投げつける。惜しくも外してしまったが。
「あ、外した」
「ちょっ、何してんの智也。ちゃんと拾って入れなよ、もう!」
 すかさず注意してきたのは陽翔だった。女子軍団に囲まれながらも、ちょうどタイミングよく目にしていたようだ。
「チッ、俺の母ちゃんかテメェは」
 智也は頭を掻きながらゴミ箱の方に近づいていった。紙パックを拾いつつ、先ほどの生徒に対して睨みを利かせる。
「……勝手なことほざいてんじゃねェよ、クソが」
 凄むように言い放つと相手の顔が強張り、智也はフンと鼻を鳴らしてから踵を返した。
 これだからクラスで浮いているというのに、陽翔のことになるとついカッとなってどうしようもない。幼い頃からそうなのだ。いや、生傷が絶えなかった過去と比べれば、まだマシといった具合か。
「ねえ、今日って弓道部ないよね? 結城くんもカラオケどう?」
 陽翔の席には相変わらず女子がいる。その誘いに陽翔は苦笑を浮かべていた。
「ごめんね。先約があるから行けないや」
 申し訳なさそうに断りを入れる陽翔に、智也はずっこけそうになった。せっかくの女子からの誘いなのだ、そこは先約をキャンセルしてでも行くべきだろうに。
(先約って……どう考えても“アレ”のことだよな?)
 そうしてなんとも言えない気分のまま、授業を受けるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...