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第3話 アオハルな僕ら(3)
しおりを挟む店を出た頃にはすっかり夜になっていた。
閑散としている住宅街の路地を智也と並んで歩く。何を話すわけでもなく、静かな時間が流れていた。
(うーん、意外にも脈はあるんだよね)
相手の言動を見ていればそれくらいわかる――こちらの気持ちを大切にしてくれていることも、彼なりに向き合おうとしてくれていることも。
こうして穏やかな気持ちで隣を歩けているのは、すべて智也のおかげだ。仕方なく付き合ってくれていたらどうしようかと思うこともあったけれど、もうこれが不毛な恋だとは思わない。
(でも……正直、イチャイチャしたい)
今の状況でも恵まれているとは思うが、やはり欲望はあるもので。ご馳走を目の前に、「待て」と言われ続けているような気分だ。
とはいえ、自分ばかり求めても仕方がない。こちらだって智也の気持ちを尊重したいと思っているし、相手にその気が少しでもあるのならなおさらだ。「待て」と言うのなら、いくらだって待つ気でいる――。
と、悶々としながら歩いていたら、不意に後方から自転車がやって来る気配がした。
「智也」
すかさず陽翔は、智也の肩を抱き寄せる。
自転車は我が物顔ですぐ横を追い越していった。スマートフォンを見ていたようで、歩行者がいることに気がつかなかったらしい。
「ごめん、大丈夫?」
「お、おう」
智也が俯きがちに答える。その頬は赤く染まっていて、陽翔は思わずドキリとした。
友人として肩を抱いたりといったことは、互いにあったけれど――もちろん陽翔には下心があったが――、こんなふうに反応を見せることは今までなかった。明らかに以前とは違う。
(あ、なんかやばい……)
肩に置いた手が離せない。それどころか、もっと触れていたくて指先に力が入ってしまう。
「ハル?」
なかなか離れないでいるこちらに対して、智也が不思議そうに見上げてくる。
目が合った途端、まるで引き寄せられるかのように陽翔の体が動いた。
「ねえ……今日も、いい?」
「え?」
「俺がオカズにしてるようなこと――」
顔を寄せて内緒話でもするかのように囁けば、智也の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「なっ、に言って」
「駄目?」
じっと見つめると、智也は目を泳がせて口をつぐむ。答えが返ってきたのはややあってからだった。
「駄目じゃ、ない」
「……ありがと」
それからは、そろってまた静かに歩いた。
先ほどと違うのは二人の間に漂う空気と、鼓動の速さ。
互いに緊張を隠せぬなか、やがて自宅が見えてくる。「ウチでいい?」と訊くと、小さく智也が頷いたので、足早に玄関へ入った。
陽翔の父親は単身赴任をしており、家には母親しかいない。今日は仕事で遅く帰ってくると聞いていたから好都合だった。
自室に智也を招き入れるなり、陽翔は熱っぽくその名を呼ぶ。
「智也」
「?」
「下、脱いで」
「ちょっ、いきなりかよ!?」
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