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番外編 とある夏の一コマ(1)★
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志望校を絞ってからというもの、陽翔とともに自宅や図書館で勉強する日が増えた。
その日は、自室で夏休みの課題に取り組んでいたのだが、
「えっ! 智也、夏期講習いくの!?」
予備校に通い始める旨を伝えれば、陽翔はたいそう驚いたようだった。智也は苦笑しつつ答える。
「そんなに驚くようなことかよ」
「言ってくれれば、俺も申し込んだのに」
「いや、お前は必要ねーじゃん」
智也と違って陽翔は成績優秀だし、わざわざ通う必要はないはずだ。だが、陽翔は不満げに口を尖らせる。
「智也みたいなヤンキーっぽいのが、真面目に講習受けてる姿――ちょっと見たかった」
「おい喧嘩売ってんのか、テメェ」
「じょ、冗談! 冗談だって!」
智也が睨むと、陽翔は焦ったように首を横に振った。それから話題の方向性を変える。
「だけど、ちょっと意外だなあ。予備校だなんて急にどうしたの?」
「……そんなん、ハルと一緒の大学行きたいからに決まってんだろ。前の模試もB判定だったし、このままじゃアレかと思って」
「その気あったんだ」
「今までずっとそうだったし、大学も一緒でいいだろ」
「一緒がいい、の間違いじゃないの?」
ニヤリと陽翔がイタズラっぽく笑う。
たまに陽翔はこうしてからかってくることがある。幼なじみとしての悪ふざけの延長にすぎないけれど、今回ばかりは図星なので困ってしまう。
顔が熱くなるのを感じつつ、智也は視線を逸らして口を開いた。
「一緒が、いい」
「あ、智也がデレた」
人がせっかく本心を言ったというのに、陽翔が茶化してくる。ムッときた智也はその肩を掴んでやった。
「くっそ、ムカつくっ!」
床に押し倒すと、じゃれつくように陽翔の上に覆い被さる。陽翔は手足をばたつかせ、対する智也はそれを押さえつけながら戯れた。
と、まるで小さな子供のように触れ合っていたのだが、
「!」
ごりっ、と硬いものが下腹部に触れてハッとする。智也は動きを止め、二人の間に微妙な空気が流れた。
「お前、なにおっ勃ててんだよ」
「そりゃあ、くっついてたらこうなるでしょ」
陽翔が気まずそうに言う。
幼なじみの距離感というのは、なかなかに難しいものだ。
たとえば、肩が触れ合うような距離で歩いていても、お互いが意識しなければなんとも思わない。が、一度意識してしまうと途端に恥ずかしくなってしまう。スイッチ一つで簡単に切り替わるような感覚、とでもいったらいいだろうか。
二人はしばらく無言で見つめ合ったあと、どちらからともなくキスを交わした。
「ん……」
ちゅっ、と微かな音が立つ。最初は触れるだけの軽いものだったが、徐々にそれは深いものへと変わっていった。舌を絡め合い、唾液を交換するうちに頭がくらくらしてくる。
物足りなさを感じては、下肢を擦り合わせて互いのものを刺激し、気がつけば二人の間に恋人らしい甘ったるい空気が漂っていた。
その日は、自室で夏休みの課題に取り組んでいたのだが、
「えっ! 智也、夏期講習いくの!?」
予備校に通い始める旨を伝えれば、陽翔はたいそう驚いたようだった。智也は苦笑しつつ答える。
「そんなに驚くようなことかよ」
「言ってくれれば、俺も申し込んだのに」
「いや、お前は必要ねーじゃん」
智也と違って陽翔は成績優秀だし、わざわざ通う必要はないはずだ。だが、陽翔は不満げに口を尖らせる。
「智也みたいなヤンキーっぽいのが、真面目に講習受けてる姿――ちょっと見たかった」
「おい喧嘩売ってんのか、テメェ」
「じょ、冗談! 冗談だって!」
智也が睨むと、陽翔は焦ったように首を横に振った。それから話題の方向性を変える。
「だけど、ちょっと意外だなあ。予備校だなんて急にどうしたの?」
「……そんなん、ハルと一緒の大学行きたいからに決まってんだろ。前の模試もB判定だったし、このままじゃアレかと思って」
「その気あったんだ」
「今までずっとそうだったし、大学も一緒でいいだろ」
「一緒がいい、の間違いじゃないの?」
ニヤリと陽翔がイタズラっぽく笑う。
たまに陽翔はこうしてからかってくることがある。幼なじみとしての悪ふざけの延長にすぎないけれど、今回ばかりは図星なので困ってしまう。
顔が熱くなるのを感じつつ、智也は視線を逸らして口を開いた。
「一緒が、いい」
「あ、智也がデレた」
人がせっかく本心を言ったというのに、陽翔が茶化してくる。ムッときた智也はその肩を掴んでやった。
「くっそ、ムカつくっ!」
床に押し倒すと、じゃれつくように陽翔の上に覆い被さる。陽翔は手足をばたつかせ、対する智也はそれを押さえつけながら戯れた。
と、まるで小さな子供のように触れ合っていたのだが、
「!」
ごりっ、と硬いものが下腹部に触れてハッとする。智也は動きを止め、二人の間に微妙な空気が流れた。
「お前、なにおっ勃ててんだよ」
「そりゃあ、くっついてたらこうなるでしょ」
陽翔が気まずそうに言う。
幼なじみの距離感というのは、なかなかに難しいものだ。
たとえば、肩が触れ合うような距離で歩いていても、お互いが意識しなければなんとも思わない。が、一度意識してしまうと途端に恥ずかしくなってしまう。スイッチ一つで簡単に切り替わるような感覚、とでもいったらいいだろうか。
二人はしばらく無言で見つめ合ったあと、どちらからともなくキスを交わした。
「ん……」
ちゅっ、と微かな音が立つ。最初は触れるだけの軽いものだったが、徐々にそれは深いものへと変わっていった。舌を絡め合い、唾液を交換するうちに頭がくらくらしてくる。
物足りなさを感じては、下肢を擦り合わせて互いのものを刺激し、気がつけば二人の間に恋人らしい甘ったるい空気が漂っていた。
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