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おまけSS(第5.5話) 坂上先生との××話
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※前作『クールな年下男子は、俺の生徒で理想のお嫁さん!?』のキャラクターが登場します。
◇
智也には塾講師をしている従兄がいる。
どこで講師をしているのかなど訊いていなかったし、まさか自分が通うことになった予備校で出会うとは思いもしなかったが――夏期講習初日、その日の授業が終わると智也はすぐに職員室へ向かった。
「あのよ、諒太さん」
「こら、そこは『先生』でしょうが」
「……坂上センセイ、ちょっといいスか?」
「ったくもう。授業でわからないところでもあった?」
坂上諒太――智也より八つ歳上の従兄で、幼い頃はよく勉強を教わっていた。すらりとした背格好をしており、一言で言うなら美人。陽翔とはまた違った王子様タイプとでも言えばいいだろうか。
そんな彼に対し、智也は距離を詰めて内緒話でもするかのように耳元で告げる。
「男と籍入れるかも、ってマジ?」
途端、諒太の顔が明らかに強張った。
「ちょっとこっち来なさい」と連れ出されたかと思えば、非常口を抜けて予備校の裏まで移動させられる。
「ンだよ、こんなとこまで」
「……智也。さっきの話、ひょっとしてお父さんから聞いたの?」
「そうだけど?」
「『言わないで』って言ったのにいい!」
諒太は眉根を寄せ、頭を抱えながら嘆いてみせた。
おせっかいにも程があるとは思うが、智也の父親は彼に対し、事あるごとに見合い話を持ち掛けていたらしい。ところが、つい先日「同性のパートナーがいるから」と返され、ようやく諦めたとか何とか。
そのようなことを聞いてしまったら、智也だって気になるに決まっている。
「で、わざわざ何だい? 単なる好奇心とかだったら感心しないよ?」諒太が言った。
「俺のこと、何だと思ってんだよ。――じつはさ、俺も男と付き合ってるんだけど」
「え……ええっ!? 君もゲイだったの?」
「いや、違ェけど」
正直に答えれば、諒太はぎょっと驚いたあとに、心配そうな面持ちで肩を掴んできた。
「だだっ、大丈夫なのそれ? まさかとは思うけど、おかしなことされてないよね!?」
「おかしなことってなんだよ。そんで、諒太さんに話聞いてもらえたらと思って……こういったこと他の人には言えねーし」
そう切り出して話題にしたのは、主に性事情に関することだった。
先日、恋人として肌を重ねたものの最後まで致してないし、智也にとっては未知の世界もいいところである。
が、諒太はあまりいい顔をしなかった。
「そう無理しなくてもいいんじゃないかな。セックスだけが愛を確かめる方法じゃないんだし、何ならバニラセックスだけで済ませるってタイプも多いよ?」
「いや、フツーにヤりてーんだけど」
「あのねえ、男同士のセックスってこと理解してる? 君が受け入れる側なら――」
「ケツにチンコ突っ込まれるんだろ?」
智也があっさり答えると、深いため息が返ってきた。
諒太は頭を掻きながら再び口を開く。
「もともとそういうふうに出来ていない場所使うんだし、どれだけ負担がかかるか、とか考えたことある? そりゃあ女の子みたいに妊娠はしないけど……でも、だからといって簡単にしていいことじゃないよ」
「っ、でもさ」
「――高校生ならそういったことに関心があるのも当然。とはいえ、自分の心も体もちゃんと大切にしなさい」
「………………」
先生口調で諭され、智也は唇を噛んで俯く。
大人からしたら、高校生の恋愛なんてままごとのようなものだろう。恋愛サイクルだって短いし、一か月や二か月も経つと別の彼氏彼女ができているなんて話も少なくはない。楽しむだけ楽しんで、飽きたら次の相手へ――と、その程度なのだ。
だが、智也にとって陽翔との交際は真剣そのもの。決して、軽率な気持ちで付き合っているわけではない。また、それは相手だって同じだろう。だからこそ恋人として対等に向き合いたいと思うのだ。
「あいつになら抱かれてもいい、って思っちまうんだからしょうがねーだろ。俺ら、本気だし……」
ぽつりと呟けば、諒太が再びため息をつく気配がした。それから真っ直ぐにこちらを見つめてきて、
「……わかったわかった。こんなの他人が口出ししてどうにかなることじゃないしね――良識のある範囲で好きになさい」
ぽんと頭に手を置かれる。顔を上げれば、諒太は優しく微笑んでいた。
「ごめん、智也。これでも君よりは長く生きてるし、思うところあって説教くさくなった」
「諒太さん……」
「何かあったら言ってよ。きっと助けになるから」
その言葉に智也は頷く。
すると、諒太は頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。その手つきはひどく懐かしく、幼い頃に戻ったような心地になる。
「なあ、諒太さん」
「うん?」
智也が呼びかけると、諒太は笑みを浮かべたまま首を傾げた。こんな状況で言うのもなんだが――、
「ケツの穴って、どう広げるのがいい?」
大事なことを訊いていなかったことに気づき、智也は率直に問いかけた。一瞬にして諒太の動きが止まる。
「……き、君ってやつは」
「『何かあったら言って』つったのそっちじゃん。なあ、坂上センセイ?」
「こんなときだけ先生扱いしないの!」
諒太が顔を真っ赤にしながら声を上げる。その様子がなんだか面白くて、智也はくつくつと笑ったのだった。
◇
智也には塾講師をしている従兄がいる。
どこで講師をしているのかなど訊いていなかったし、まさか自分が通うことになった予備校で出会うとは思いもしなかったが――夏期講習初日、その日の授業が終わると智也はすぐに職員室へ向かった。
「あのよ、諒太さん」
「こら、そこは『先生』でしょうが」
「……坂上センセイ、ちょっといいスか?」
「ったくもう。授業でわからないところでもあった?」
坂上諒太――智也より八つ歳上の従兄で、幼い頃はよく勉強を教わっていた。すらりとした背格好をしており、一言で言うなら美人。陽翔とはまた違った王子様タイプとでも言えばいいだろうか。
そんな彼に対し、智也は距離を詰めて内緒話でもするかのように耳元で告げる。
「男と籍入れるかも、ってマジ?」
途端、諒太の顔が明らかに強張った。
「ちょっとこっち来なさい」と連れ出されたかと思えば、非常口を抜けて予備校の裏まで移動させられる。
「ンだよ、こんなとこまで」
「……智也。さっきの話、ひょっとしてお父さんから聞いたの?」
「そうだけど?」
「『言わないで』って言ったのにいい!」
諒太は眉根を寄せ、頭を抱えながら嘆いてみせた。
おせっかいにも程があるとは思うが、智也の父親は彼に対し、事あるごとに見合い話を持ち掛けていたらしい。ところが、つい先日「同性のパートナーがいるから」と返され、ようやく諦めたとか何とか。
そのようなことを聞いてしまったら、智也だって気になるに決まっている。
「で、わざわざ何だい? 単なる好奇心とかだったら感心しないよ?」諒太が言った。
「俺のこと、何だと思ってんだよ。――じつはさ、俺も男と付き合ってるんだけど」
「え……ええっ!? 君もゲイだったの?」
「いや、違ェけど」
正直に答えれば、諒太はぎょっと驚いたあとに、心配そうな面持ちで肩を掴んできた。
「だだっ、大丈夫なのそれ? まさかとは思うけど、おかしなことされてないよね!?」
「おかしなことってなんだよ。そんで、諒太さんに話聞いてもらえたらと思って……こういったこと他の人には言えねーし」
そう切り出して話題にしたのは、主に性事情に関することだった。
先日、恋人として肌を重ねたものの最後まで致してないし、智也にとっては未知の世界もいいところである。
が、諒太はあまりいい顔をしなかった。
「そう無理しなくてもいいんじゃないかな。セックスだけが愛を確かめる方法じゃないんだし、何ならバニラセックスだけで済ませるってタイプも多いよ?」
「いや、フツーにヤりてーんだけど」
「あのねえ、男同士のセックスってこと理解してる? 君が受け入れる側なら――」
「ケツにチンコ突っ込まれるんだろ?」
智也があっさり答えると、深いため息が返ってきた。
諒太は頭を掻きながら再び口を開く。
「もともとそういうふうに出来ていない場所使うんだし、どれだけ負担がかかるか、とか考えたことある? そりゃあ女の子みたいに妊娠はしないけど……でも、だからといって簡単にしていいことじゃないよ」
「っ、でもさ」
「――高校生ならそういったことに関心があるのも当然。とはいえ、自分の心も体もちゃんと大切にしなさい」
「………………」
先生口調で諭され、智也は唇を噛んで俯く。
大人からしたら、高校生の恋愛なんてままごとのようなものだろう。恋愛サイクルだって短いし、一か月や二か月も経つと別の彼氏彼女ができているなんて話も少なくはない。楽しむだけ楽しんで、飽きたら次の相手へ――と、その程度なのだ。
だが、智也にとって陽翔との交際は真剣そのもの。決して、軽率な気持ちで付き合っているわけではない。また、それは相手だって同じだろう。だからこそ恋人として対等に向き合いたいと思うのだ。
「あいつになら抱かれてもいい、って思っちまうんだからしょうがねーだろ。俺ら、本気だし……」
ぽつりと呟けば、諒太が再びため息をつく気配がした。それから真っ直ぐにこちらを見つめてきて、
「……わかったわかった。こんなの他人が口出ししてどうにかなることじゃないしね――良識のある範囲で好きになさい」
ぽんと頭に手を置かれる。顔を上げれば、諒太は優しく微笑んでいた。
「ごめん、智也。これでも君よりは長く生きてるし、思うところあって説教くさくなった」
「諒太さん……」
「何かあったら言ってよ。きっと助けになるから」
その言葉に智也は頷く。
すると、諒太は頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。その手つきはひどく懐かしく、幼い頃に戻ったような心地になる。
「なあ、諒太さん」
「うん?」
智也が呼びかけると、諒太は笑みを浮かべたまま首を傾げた。こんな状況で言うのもなんだが――、
「ケツの穴って、どう広げるのがいい?」
大事なことを訊いていなかったことに気づき、智也は率直に問いかけた。一瞬にして諒太の動きが止まる。
「……き、君ってやつは」
「『何かあったら言って』つったのそっちじゃん。なあ、坂上センセイ?」
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