44 / 54
第8話 もう守られてばかりじゃない(1)
しおりを挟む
「結城くんのこと、ずっと前から見てましたっ。私と付き合ってください!」
ある日の昼休み。校舎裏に呼び出された陽翔は、いつものように女子から告白を受けていた。
告白してきたのは隣のクラスの生徒で、何度か廊下ですれ違ったことがあるから顔くらいは知っている。肩までの艶やかな黒髪にぱっちりとした瞳。背が高くスタイルもいい彼女は、陽翔から見ても魅力的に思えた。
しかし、答えなんて当初から決まっている。
「付き合ってる人がいるから、ごめんね」
以前は何の理由もなく断っていたけれど、今は違う。きっぱりと告げれば、相手は予想どおりといった様子で苦笑を浮かべた。
「あーやっぱり。……ねえ、あの噂って本当なの?」
「え?」
何のことか訊き返そうと思ったそのとき、校舎内からざわめきが聞こえてきた。
ちょうど陽翔たちのクラスがあるあたりだ。喧嘩だろうか、智也の怒声が混ざっている気がして胸騒ぎがする。
「ごめんっ、俺もう行くね!」
相手の声が追いかけてきたが、構わずに陽翔は駆けだした。
廊下までやって来れば、やはり智也の声がして不安が増していく。一体どうしたのかと、急いで教室の中に飛び込んだ。
「智也っ!」
教室内はただならぬ雰囲気だった。
真っ先に目に入ったのは、クラスメイトの男子に掴みかかっている智也の姿だ。殴られでもしたのか、右頬が赤くなっている。
周囲の生徒が遠巻きに見ているなか、陽翔はすぐに駆け寄って肩を掴んだ。
ハッと智也がこちらを見上げてくる。ところが、すぐに手を払われてしまう。
「保健室で冷やすもん貰ってくる」
それだけ言い残して、足早に教室を出て行こうとする。
陽翔は目を細め、智也を殴ったであろう男子生徒を睨んだ。相手は掴みかかられていたものの無傷のようで、どうにも智也は一方的に殴られたらしい。
智也が誰かと揉め事を起こすのは、なにも珍しいことではない。幼い頃からずっとそうだった。しかし、怪我をするような事態はここしばらくなかったことだし、喧嘩なんてやめたのだとばかり思っていた。
きっと何かあったに違いない。とはいえ、今はそれを気にしている場合ではなかった。
「待ってよ、智也!」
廊下に出た陽翔は、智也を追いかけて隣に並ぶ。
「ねえ、俺も一緒に行くよ」
「は? ガキじゃあるまいし、ついてくんじゃねーよ」
「でも――」
智也が鬱陶しげな眼差しを向けてきた。苛立っているのがありありと伝わってきて、陽翔は眉尻を下げる。
こういったときは時間を置いた方がいい。長年の付き合いからそう判断し、引き下がるしかなかった。
「……わかった。先生には俺から言っておくね」
智也は返事をする代わりに、ふんと鼻を鳴らして行ってしまった。
一人残された陽翔はため息をついて踵を返すのだった。
ある日の昼休み。校舎裏に呼び出された陽翔は、いつものように女子から告白を受けていた。
告白してきたのは隣のクラスの生徒で、何度か廊下ですれ違ったことがあるから顔くらいは知っている。肩までの艶やかな黒髪にぱっちりとした瞳。背が高くスタイルもいい彼女は、陽翔から見ても魅力的に思えた。
しかし、答えなんて当初から決まっている。
「付き合ってる人がいるから、ごめんね」
以前は何の理由もなく断っていたけれど、今は違う。きっぱりと告げれば、相手は予想どおりといった様子で苦笑を浮かべた。
「あーやっぱり。……ねえ、あの噂って本当なの?」
「え?」
何のことか訊き返そうと思ったそのとき、校舎内からざわめきが聞こえてきた。
ちょうど陽翔たちのクラスがあるあたりだ。喧嘩だろうか、智也の怒声が混ざっている気がして胸騒ぎがする。
「ごめんっ、俺もう行くね!」
相手の声が追いかけてきたが、構わずに陽翔は駆けだした。
廊下までやって来れば、やはり智也の声がして不安が増していく。一体どうしたのかと、急いで教室の中に飛び込んだ。
「智也っ!」
教室内はただならぬ雰囲気だった。
真っ先に目に入ったのは、クラスメイトの男子に掴みかかっている智也の姿だ。殴られでもしたのか、右頬が赤くなっている。
周囲の生徒が遠巻きに見ているなか、陽翔はすぐに駆け寄って肩を掴んだ。
ハッと智也がこちらを見上げてくる。ところが、すぐに手を払われてしまう。
「保健室で冷やすもん貰ってくる」
それだけ言い残して、足早に教室を出て行こうとする。
陽翔は目を細め、智也を殴ったであろう男子生徒を睨んだ。相手は掴みかかられていたものの無傷のようで、どうにも智也は一方的に殴られたらしい。
智也が誰かと揉め事を起こすのは、なにも珍しいことではない。幼い頃からずっとそうだった。しかし、怪我をするような事態はここしばらくなかったことだし、喧嘩なんてやめたのだとばかり思っていた。
きっと何かあったに違いない。とはいえ、今はそれを気にしている場合ではなかった。
「待ってよ、智也!」
廊下に出た陽翔は、智也を追いかけて隣に並ぶ。
「ねえ、俺も一緒に行くよ」
「は? ガキじゃあるまいし、ついてくんじゃねーよ」
「でも――」
智也が鬱陶しげな眼差しを向けてきた。苛立っているのがありありと伝わってきて、陽翔は眉尻を下げる。
こういったときは時間を置いた方がいい。長年の付き合いからそう判断し、引き下がるしかなかった。
「……わかった。先生には俺から言っておくね」
智也は返事をする代わりに、ふんと鼻を鳴らして行ってしまった。
一人残された陽翔はため息をついて踵を返すのだった。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる