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第2話 はじめてのプレイ練習(5)★
状況を理解するまでに数秒を要したが、どうやら犬飼は達してしまったらしい。それも、性的な行為に及ぶことなく軽いプレイだけで。
その事実に羽柴が呆然としていると、我に返ったのか、犬飼が慌てて身を起こした。
「み、見るな……っ!」
羞恥に染まった表情で、股間を隠そうとする犬飼。が、何をどうしたって、時すでに遅しだ。
「だだっ、大丈夫っすよ! なんなら、おしっこだってもう見てるし――痛ッ!?」
フォローをするつもりが、逆に墓穴を掘ってしまったらしい。犬飼に頭を小突かれ、羽柴は平謝りするほかなかった。
「プレイ後のアフターケアがなってない。ケア自体は良かったものの、あまりに怠ると、Subが強い不安に苛まれる《サブドロップ》になりかねん。……よって六十点、まあ及第点だろうな」
「はい! 申し訳ございませんでしたあッ!」
その後、プレイを続けるような雰囲気ではなくなったため、突如として反省会が行われることとなった。
プレイ前と同じように、ローテーブルを挟んで座った状態なのだが、羽柴は自主的に正座をしている。一方の犬飼は、足を組んでソファーに座っており、先ほどの光景が嘘のように威厳を取り戻していた。
(にしても、ギャップがありすぎっていうか……正直、めちゃくちゃエロかった――!)
従順でいたいけな言動。蕩けきった顔をして、欲望に溺れる姿。
そのどれもこれもが庇護欲をかき立て、思い出すだけで鼓動が速まっていく。ダイナミクスの欲求が満たされ、幸福感を得ているせいもあるのだろうが、なぜだか犬飼のことをやけに意識してしまっていた。
「おい、羽柴。何か余計なことを考えているだろう」
「いえ、そんなっ! 滅相もない!」
鋭く飛んできた犬飼の声に、羽柴はパッと姿勢を正す。犬飼はそんなこちらを一瞥すると、呆れたようにため息をついた。
「まあいい、君に渡しておきたいものがある」
そう言って立ち上がるなり、玄関の方へと足を向ける。
ガサゴソという物音に、羽柴も気になって後を追えば、何やら犬飼は戸棚を漁っているようだった。
「犬飼さん? どうしたんすか?」
「……あった。ほら、失くすなよ」
手渡されたのは、何の変哲もない鍵。
羽柴が困惑していると、犬飼は咳払いをしてみせた。
「うちの合鍵だ。……何かあったら、すぐ駆けつけてくれるんだろう?」
こちらが口にした言葉をなぞるように告げ、自分はさっさとリビングへ戻ろうとする。
相変わらずの仏頂面で淡々とした振る舞いだったが、その耳がほんのりと染まっていたのを、羽柴は見逃さなかった。
「っ!」
こちらとて、上司からのフィードバックを無下にするほど野暮ではない。
とっさに犬飼の腕を掴み、背後から引き寄せるようにして抱き締める。
「なっ……」
犬飼は驚いた様子だったが、羽柴は構わずに続けた。
「合鍵渡してくれてありがとね、すっごく嬉しい――Good boy!」
そうして頭を優しく撫でてやり、感謝の意を伝える。
犬飼の反応は顕著だった。慌てた様子で腕を振りほどき、わなわなと震えながらこちらを見やる。
羽柴が思わず口元を緩めれば、犬飼は赤くなった顔を手のひらで覆い隠して――それから、消え入りそうな声で呟いた。
「……ってもいい」
「え?」
「っ、『六十五点にしてやってもいい』と言ったんだ」
「マジっすか! やりぃ!」
年甲斐もなくガッツポーズが出てしまう。
そのときの羽柴はまだ、犬飼が真っ赤になっていた理由など知る由もなかった。
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